江國香織
『こうばしい日々』★★
「こうばしい日々」は平成二年九月あかね書房より、
「綿菓子」は平成三年二月理論社よりそれぞれ刊行された。
初読?
ラドクリフと混同してる?
古本の匂い。
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空が青くて、ほんとうに気持ちのいい朝だった。
僕は野球場が大好きだ。
野球場で僕がいちばん好きなのは空なのだ。夕方からゆっくり夜に変わっていく空。夜は、野球場のかたちに、まぁるく降りてくる。選手も、観客も、球場ごとすっぽりと夜に抱かれる。
「いつかホエールズの試合をいっしょにみようぜ。横浜でさ、しゅうまいべんとう食いながら」
「男の子っていういのはきかれたことにこたえるだけかと思っていたわ」
「どうして」
「どうしてって、どうしてかしらね。女の子がよけいな質問ばかりするようにできているから、男の子はこたえるだけですむんじゃないかしら。昔からね」
昔って、どのくらい昔だろう、と僕は思った。
「白夜」
「でも子どもなんてつまらないわねぇ。みんな遠くへ行っちゃって、よこすのはバースディカードとクリスマスカードだけだもの」
「ふうん」
「小春日和だな」
午後一時の海はいちめんに光りのつぶをたたえ、さらさらとおだやかにかがやいている。
「海って素敵よねぇ」
すでに暗緑色になってしまった海は、西日をいっぱいうけて、鏡のくずを散らしたようにみえる。
「タイミングって、とても個人的なものなの」
つめたくて深くて清潔な、空気の匂いがした。
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目がさめるとばかみたいに晴れた夏の朝で、私はぐったりくたびれていた。
ごはんのあと、たたみにうつぶせになって虫の声をきいていたら、おばあちゃんがそばに来てすわった。たたみは、さらさらして気持ちがよかった。
「女って、哀しいね」
私が言うと、おばあちゃんはびっくりした顔をした。
「誰かをほんとに好きになったら、その人のしたこと、全部、許せてしまうものなのよ」
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ジャスティン来日中止・・
このPV目が離せなくなる https://www.youtube.com/watch?v=RqcjBLMaWCg