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またまた株入門・“井手正介のバリュー株入門”を読んで

またまた今週も株式投資関連の図書紹介。当ブログは、かなりISOマネジメントから遠ざかって来ている印象を読者に与えるだろうが、実は株式市場の目が企業を見る目で最重要なのだ。その株式市場の目の判断のあり方をISO審査員が知らずして上場企業の審査を行うとすれば、それはおこがましい限りであり、世間の一部の審査員が行っているように自分よがりの判断を被審査組織に押し付けるのと同様の行為となる。審査員のそのような非社会性を打破するべく株式市場の評価を重視し、それを逆に吟味した上で企業の問題点を見定めるという行為は重要なことではないのか。また逆に、そういった姿勢もなくCSRを声高に言うことがあれば言語道断とも言えるのではないか、と考えるのだ。
今回紹介する本の標題は、前回とそっくり “バリュー株入門”で、今度は 著者が日本人証券アナリスト。なので、日本の証券経済の解説的側面があり、読後、株投資の見方に厚みができたように感じた。この本の後半は、ケインズやバフェット、グレアム等 米英の株式投資の第1級株式スペシャリストの投資への姿勢や特徴的アウトラインを紹介している。自分なりの 投資スタイル確立に意欲が湧く本である。

株式投資には投資とトレーディング、投機の3つのタイプがあると言い、その違いを説明している。投資は“優良大企業株を長期保有すること”、投機は“新規上場後など(乱高下する)株を高値で売り抜けること”、トレーディングは“株価の短期的な変動を利用して株を売買すること”という。
ここで あらためて「バリュー株投資」とは何かを確認している。それはEPS(1株当たり利益)が“持続的に成長するような優良大企業を、株価が割安なときに買って長期保有する方法”で、“バリュー株という言葉は英語の「ファンダメンタル・バリュ-」に由来”していると説明している。

そして、何より印象的なのが 前回まで紹介したように、理論株価の算出方法について中々具体的に書かれていなかったのだが、この本ではあっさり次のように記載していた。これには、大いに有難い思いがしたものである。
理論株価=予想EPS(1株当たり利益)×予想PER(株価収益率)
ここで、EPSは、企業経営者たちが行う価値創造活動の結果であり、PERは、無数の投資家が企業の業績を評価した結果であると言え、いわば株価は企業経営者と、市場の投資家の協働作業の結果として示される、としている。
だがよく考えると、PER=時価総額÷純利益であり、時価総額=株価×発行済み株式数なので、そこに算出対象の株価が入っているため、循環式となってしまっている。これは、実は“予想”というエィッヤッで決める主観要素も込めて求めざるを得ないということなのだろうか。だから、前回紹介したクリストファー・H・ブラウンの言うように企業買収の価格というものから経験式を導出する必要があるのかも知れない。いずれにしても解散価値+αが基本なのだろうが・・・。

それから投資対象のスクリーニング基準も記述している。前回までに読んだ本から探り出した評価基準と比較すると下のような表になる。この本の井手流基準が“正解”とするならば、探り出した評価基準は ほぼ“正解”に近いと言える。
それにしても“時価総額2,000億円以上”は“70年代の100万米ドル以上”に比べて1桁大き過ぎないだろうか。また “東証1部上場”というのは、必要最低条件なのであろうか。それで、“妙味ある投資”が可能なのだろうか。また、バフェットの言っていた“オーナー収益”やそれに相応する“フリー・キャッシュ・フロー”は無視して良いのだろうか。井手流は選択基準の簡明化に重点を置いた結果なのだろうか。



またポートフォリオ形成の重要性をリスク回避の経験的方法として数字で示している。それは、結果としてファンドの組成事例となり、こと細かく書かれていて非常に参考になる。特に、業種毎に5~10分野に分けてそれぞれに銘柄を配分して、その銘柄も硬直的に保有するのではなく、タイミングを見て入れ替える“ダイナミック・バイ・アンド・ホールド”の提案もあり、その実験的実績も提示している。素人には5分野5銘柄程度が容易に実行可能なところではないだろうか。具体的な10業種とは①食品・飲料 ②鉄道 ③電力・ガス ④自動車 ⑤医薬品・化粧品 ⑥電機・電子 ⑦金属(鉄・非鉄) ⑧機械 ⑨総合商社 ⑩大手海運 である。
ここで、運輸が鉄道と海運に分けられてしかもトラックや航空輸送が無いが、それぞれの業態が全く異なるためだろうか。それともクリストファー・H・ブラウンが航空はコントロール不能な燃料コストに大きく依存し儲からない業種と決め付けていたことと関連するのだろうか。それから、ほとんどが第2次産業であり、今後注目するべき、サービス産業が考慮されていない。実績少なく、時価総額の大きい企業の無い業種は当面 捨象対象なのだろうか。

後半の“第3章 あの賢者達に学ぶ株式投資”では、投資8賢人のエピソードを紹介している。ケインズの朝起床後の習慣や“美人投票”の意味を説明し、当初は“バリュー株投資”とは真反対の立場であったが、大暴落を機に宗旨替えしたと興味深い話を紹介している。そして、バフェットについては実は驚異的博覧強記であるとのエピソードも紹介。さらにフィデリティのマゼラン・ファンドを主催したピーター・リンチ。ポール・サミュエルソンの弟子で学者のジェレミー・シーゲルのインデックス投資からバリュー投資への傾斜。インデックス・ファンドを最初に組成したファンド・マネージャーのジョン・ボーグル。徹底したトレーダーのジム・クレーマーはテレビ・メディアを軸にカリスマ投資指南をし、その中で“バイ・アンド・ホーム・ワーク(株は買ってその後も‘お勉強’)”を強調し売買タイミングにチャートを使わなかったこと。“ウォール街のランダム・ウォーカー”を著した学者のバートン・マルキールの概略を紹介している。
また、ここで人間はいつもバブルを忘れ歴史から学ばないとマルキールの言葉を自戒的に紹介している。そして、日本にこうした賢人が生まれないのは“投資”に必要な60~70代の学識・経験を尊重しない日本の風潮によると嘆いている。

それから、重要なのは日本経済の戦後の経過も述べている点である。
“日本の大企業は戦後一貫して規模、雇用拡大を重視し、「人本主義経営」を推進”し、“株主資本の収益性を持続的に「ダンピング」することによって、「いい物を、安く、大量に」開かれた国際市場に輸出”してきた。“こうした株主軽視ともいえる経営を許してきたのが間接金融”であり、“「メーンバンク(主取引銀行)=大株主」を柱とするシステム下では、低収益体質の企業であろうと、苦も無く資金を得る”ことができた。このシステムが90年代に、“銀行の相次ぐ破綻、企業の債務過剰という形で行き詰まり、その後収益性重視の経営に移行”して“多くの大企業はその過程で事業や財務のリストラ”を実施し、“2002年3月期には企業全体の利益やROEはマイナスに転落”した。“その後日本企業のROEは改善し、2008年3月期には10%近くまで高まり”、“企業のファンダメンタル価値に基づく株式投資が可能な時代”になり、著者の言う「低収益経営との歴史的決別」となった、と言うのである。
この歴史的認識は“市場の本質”を見抜く上において非常に重要であると言える。なぜならば、日本において90年代以前は米国流の株式投資理論が一切成立しなかったのが、ようやく成立するようになり、コンプライアンスの徹底と共に市場の透明化も進展し、“バリュー投資”が成立する環境が整って来ていることを示しているからである。

そして、著者は2006年以降 日本企業の財務が国際基準で見て健全になって来ているが、それが適切に評価される市場環境になく、これまでに到っていると言いたいようなのだ。恐らく、政治の弱体化により、日本企業全体が国際的に評価されることなく経過し、株価が評価されて来なかったが、今後 爆発的に評価される局面が必ずやって来るとでも言いたげなのである。ヒョッとして、今 正にその局面かも知れないのだ。今正に、市場は日本の政治と日本の優良企業のパフォーマンスを切り離して評価し始める局面がやって来ているように私は感じるのだ。

そして、日本人にとって不幸なのは個別の優良企業は好況であっても、政治が弱体で新たな起業が乏しく、雇用は掛け声ばかりで実効的政策が無いため増加せず、国民所得GDPも大幅に伸びないという現象に陥っていることである。政権は政策的無策を棚に上げて党内外の政争に明け暮れ、財界には無闇に雇用促進を強要しているだけなのである。現在の個別の優良企業も、井手氏が指摘したように 今、ようやく財務的優良化が定着したところであり、不要な雇用を無定見に増加させることは、90年代に指摘された3つの過剰の1つを再現し、せっかくの優良企業を不良化・弱体化させるだけなのだと言うことに どのコメンテータも言及しないのが不思議なのだ。


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