風邪の原因の9割はウイルスであり、ウイルスに抗生物質(=抗菌薬)は効かない。
原因の残り1割は主に細菌であり、抗生物質が効く。
つまり「かぜ薬=抗生物質」は間違った考え方である。
私は長年このように説明し、抗生物質の適正使用に努めてきました。
ですから、私の外来では実際に抗生物質を処方する頻度は1割程度にとどまります。
必要と判断してたまに抗生物質を処方すると「先生、抗生物質を飲んでもいいんですか?」と逆に患者さんから質問される始末(苦笑)。
でも、日本全体ではまだまだ「かぜ薬=抗生物質」と思い込んでいる人がたくさんいます(医者を含めて?)。
欧米ではそんなことはないだろうと何となく考えてきましたが、日本とあまり変わらない状況を報告する記事が届きました。
文中の記載で特に注目していただきたいのは「いかなる薬にも副作用が起き得るという点だ。まれに深刻な症状になることもある。抗菌薬が下痢を引き起こすことはよく知られているが、1万分の1の確率でアナフィラキシーと呼ばれるアレルギー反応を起こし、早急に治療しなければ命を落とすこともある」という文言です。
「1万分の1」は低い頻度ではありません。
その昔、日本脳炎ワクチンがアデム(ADEM、急性散在性脳脊髄炎)の副反応により積極的勧奨停止とされたときの頻度は「400万接種に1回」でした。
ワクチンの重篤な副反応より頻度の多い重篤な副作用を持つ抗生物質が湯水のごとく使われているのが現状です。
皆さん、正しい知識を持って子どもの健康を守りましょう。
■ インフルエンザ最大の危険は「勘違い」
(2013年 10月 29日:ロイター)
今年もインフルエンザの季節がやってくる。本格的な到来を前に保健当局が予防注射を呼びかけているが、世界では毎年、最大500万人がインフルエンザで重篤な状態になり、25万─50万人が命を落としている。
米国では毎冬インフルエンザによって1億1100万日の労働日数が失われているが、これは病欠や生産性低下による年間約70億ドル(6800億円)の経済的損失を意味する。
極めて感染力が強いインフルエンザは、ウイルスによって引き起こされる。感染者の咳やくしゃみを通じた飛沫感染で急速に広がり、死に至るケースもある。万能薬とまではいかないが、ワクチンはインフルエンザの予防に効果を持つ。
しかし、米国や欧州での啓発活動にもかかわらず、インフルエンザについては今も多くの人が誤った知識を信じている。つまり、インフルエンザの治療で最も効果的なのは抗生物質という誤解だ。そして多くの医師も、子どもを心配する親たちが抗生物質を望む場合には、インフルエンザには効かないという科学的・医学的な真実を無視して処方してしまう。
最近欧州で行われた調査では、回答者の半数が通常の風邪とインフルエンザの両方に抗生物質が効果的だと認識していた。──抗生物質という言葉はそもそも誤解を招く名前だ。厳密に言えば、抗生物質とは微生物が作った化学物質を指すが、実際には大半の薬は人工的に作られたものであり、まとめて「抗菌薬」とすべきだろう──。
米国やオーストラリアなどでも調査の結果は同様だった。抗菌薬は細菌に効果があるのであって、ウイルスには効かない。インフルエンザはウイルス感染する病気である。
抗菌薬はインフルエンザに効果が無いどころか、以下に挙げる3つの理由から有害とも言える。
まず、いかなる薬にも副作用が起き得るという点だ。まれに深刻な症状になることもある。抗菌薬が下痢を引き起こすことはよく知られているが、1万分の1の確率でアナフィラキシーと呼ばれるアレルギー反応を起こし、早急に治療しなければ命を落とすこともある。
2つ目は、薬にはお金がかかり、効果の無い薬を買うのは無駄遣いということだ。ある研究によると、米国では、上気道感染症(かぜ症候群)にかかった成人に対し、不必要な抗菌薬の処方箋が年間4100万件出されており、これに10億ドル以上が費やされている。
3点目は最も重要だ。抗菌薬を服用すると、菌を殺すことはできるが、抗菌薬に耐性を持つ「耐性菌」が成長し、増殖するということだ。薬を誤って使用してきたことで、耐性菌は世界的な脅威となり、だからこそ抗菌薬は高い治療効果が期待できる時だけ服用することが重要だ。言い換えれば、何に感染しているのか、感染の元を断ち切るのに最も効果的な薬は何なのかを知る必要があるということだ。
インフルエンザに抗菌薬が効かないということは、これまで長きにわたって科学者や医師、医療専門家らの知るところであった。しかしこれまで見てきたように、患者や臨床医の行動を変えるところまで情報が行き届いているとは言えない。米シンクタンクのランド研究所が行った研究によれば、医師は子どもの親が抗菌薬を期待していると感じた場合に、より高い確率で抗菌薬を不適切に処方するという。
一般の人々や専門家らの注意を喚起しようと、数々のキャンペーンも行われている。フランスでは2002年から啓発活動が実施されているほか、米国では疾病対策センター(CDC)が1995年から毎年、「賢くなろう、抗生物質が効く場合を理解する」と銘打ち、健康な成人や子どもの親が抗菌薬を欲しがるのを抑える目的で活動を行っている。両国では、処方された抗菌薬の数が4分の1減り、子どもへの処方が最も少なくなった。
啓発活動が不適切な処方の減少につながっていることは称賛されるべきだが、今なお医療専門家はインフルエンザに抗菌薬を処方しているし、われわれも病気になった時に抗菌薬を求めてしまう。これからインフルエンザの本格的なシーズンを迎えるにあたって、われわれ全員には責任がある。効かない薬は求めない──危険かつ反社会的な行為だからだ。
原因の残り1割は主に細菌であり、抗生物質が効く。
つまり「かぜ薬=抗生物質」は間違った考え方である。
私は長年このように説明し、抗生物質の適正使用に努めてきました。
ですから、私の外来では実際に抗生物質を処方する頻度は1割程度にとどまります。
必要と判断してたまに抗生物質を処方すると「先生、抗生物質を飲んでもいいんですか?」と逆に患者さんから質問される始末(苦笑)。
でも、日本全体ではまだまだ「かぜ薬=抗生物質」と思い込んでいる人がたくさんいます(医者を含めて?)。
欧米ではそんなことはないだろうと何となく考えてきましたが、日本とあまり変わらない状況を報告する記事が届きました。
文中の記載で特に注目していただきたいのは「いかなる薬にも副作用が起き得るという点だ。まれに深刻な症状になることもある。抗菌薬が下痢を引き起こすことはよく知られているが、1万分の1の確率でアナフィラキシーと呼ばれるアレルギー反応を起こし、早急に治療しなければ命を落とすこともある」という文言です。
「1万分の1」は低い頻度ではありません。
その昔、日本脳炎ワクチンがアデム(ADEM、急性散在性脳脊髄炎)の副反応により積極的勧奨停止とされたときの頻度は「400万接種に1回」でした。
ワクチンの重篤な副反応より頻度の多い重篤な副作用を持つ抗生物質が湯水のごとく使われているのが現状です。
皆さん、正しい知識を持って子どもの健康を守りましょう。
■ インフルエンザ最大の危険は「勘違い」
(2013年 10月 29日:ロイター)
今年もインフルエンザの季節がやってくる。本格的な到来を前に保健当局が予防注射を呼びかけているが、世界では毎年、最大500万人がインフルエンザで重篤な状態になり、25万─50万人が命を落としている。
米国では毎冬インフルエンザによって1億1100万日の労働日数が失われているが、これは病欠や生産性低下による年間約70億ドル(6800億円)の経済的損失を意味する。
極めて感染力が強いインフルエンザは、ウイルスによって引き起こされる。感染者の咳やくしゃみを通じた飛沫感染で急速に広がり、死に至るケースもある。万能薬とまではいかないが、ワクチンはインフルエンザの予防に効果を持つ。
しかし、米国や欧州での啓発活動にもかかわらず、インフルエンザについては今も多くの人が誤った知識を信じている。つまり、インフルエンザの治療で最も効果的なのは抗生物質という誤解だ。そして多くの医師も、子どもを心配する親たちが抗生物質を望む場合には、インフルエンザには効かないという科学的・医学的な真実を無視して処方してしまう。
最近欧州で行われた調査では、回答者の半数が通常の風邪とインフルエンザの両方に抗生物質が効果的だと認識していた。──抗生物質という言葉はそもそも誤解を招く名前だ。厳密に言えば、抗生物質とは微生物が作った化学物質を指すが、実際には大半の薬は人工的に作られたものであり、まとめて「抗菌薬」とすべきだろう──。
米国やオーストラリアなどでも調査の結果は同様だった。抗菌薬は細菌に効果があるのであって、ウイルスには効かない。インフルエンザはウイルス感染する病気である。
抗菌薬はインフルエンザに効果が無いどころか、以下に挙げる3つの理由から有害とも言える。
まず、いかなる薬にも副作用が起き得るという点だ。まれに深刻な症状になることもある。抗菌薬が下痢を引き起こすことはよく知られているが、1万分の1の確率でアナフィラキシーと呼ばれるアレルギー反応を起こし、早急に治療しなければ命を落とすこともある。
2つ目は、薬にはお金がかかり、効果の無い薬を買うのは無駄遣いということだ。ある研究によると、米国では、上気道感染症(かぜ症候群)にかかった成人に対し、不必要な抗菌薬の処方箋が年間4100万件出されており、これに10億ドル以上が費やされている。
3点目は最も重要だ。抗菌薬を服用すると、菌を殺すことはできるが、抗菌薬に耐性を持つ「耐性菌」が成長し、増殖するということだ。薬を誤って使用してきたことで、耐性菌は世界的な脅威となり、だからこそ抗菌薬は高い治療効果が期待できる時だけ服用することが重要だ。言い換えれば、何に感染しているのか、感染の元を断ち切るのに最も効果的な薬は何なのかを知る必要があるということだ。
インフルエンザに抗菌薬が効かないということは、これまで長きにわたって科学者や医師、医療専門家らの知るところであった。しかしこれまで見てきたように、患者や臨床医の行動を変えるところまで情報が行き届いているとは言えない。米シンクタンクのランド研究所が行った研究によれば、医師は子どもの親が抗菌薬を期待していると感じた場合に、より高い確率で抗菌薬を不適切に処方するという。
一般の人々や専門家らの注意を喚起しようと、数々のキャンペーンも行われている。フランスでは2002年から啓発活動が実施されているほか、米国では疾病対策センター(CDC)が1995年から毎年、「賢くなろう、抗生物質が効く場合を理解する」と銘打ち、健康な成人や子どもの親が抗菌薬を欲しがるのを抑える目的で活動を行っている。両国では、処方された抗菌薬の数が4分の1減り、子どもへの処方が最も少なくなった。
啓発活動が不適切な処方の減少につながっていることは称賛されるべきだが、今なお医療専門家はインフルエンザに抗菌薬を処方しているし、われわれも病気になった時に抗菌薬を求めてしまう。これからインフルエンザの本格的なシーズンを迎えるにあたって、われわれ全員には責任がある。効かない薬は求めない──危険かつ反社会的な行為だからだ。