小児アレルギー科医の視線

医療・医学関連本の感想やネット情報を書き留めました(本棚2)。

モンテルカスト(キプレス®、シングレア®)はかぜ薬ではありません。

2025年02月28日 06時17分56秒 | くすり
近年、かぜ薬として抗アレルギー薬が処方されている例が目立ちます。
特に耳鼻科開業医に多いようです。

従来頻用していた鼻水止めが「2歳未満には熱性けいれんのリスクがあるので注意して使用すべし」という情報が流れたため、それを回避た結果でしょうか。

でもザイザルシロップはアレルギー性鼻炎の鼻水には効いても、
風邪の鼻水には手応えがないと患者さんが訴えて当科を受診します。

そのザイザルシロップでさえ、添付文書の注意事項には、
「てんかん等の痙攣性疾患又はこれらの既往歴のある患者には注意」
「痙攣を発現するおそれがある。」
とあります。
これを読んだ小児科医は、熱性けいれんを起こしたことのある患者さんには処方したくないですよね。
でも実際は処方されており、私はそのような医師に?と投げかけたくなります。

それから、「抗ロイコトリエン薬」も風邪患者さんによく処方されています。
プランルカスト(オノン®)やモンテルカスト(キプレス®、シングレア®)など。
これは鼻閉対策として処方されているようです。

しかし抗ロイコトリエン薬は「アレルギー性鼻炎の鼻閉」の薬であって、
風邪の鼻づまりには手応えがありません。
さらにモンテルカスト顆粒の適応病名は「気管支喘息」のみであって、
アレルギー性鼻炎には適応はありません(錠剤はあります)。

抗アレルギー薬は「アレルギー性鼻炎」という診断をつけないと処方できません。
つまり、風邪を引いて開業医院を受診したあなたのお子さんは、
保険診療上「アレルギー性鼻炎」と病名がついていることになり、
日本全国でアレルギー性鼻炎の小児が大量に発生するという不思議な現象が起きているはず。

「風邪にアレルギーの薬を処方していいの?」
「チェックするシステムはないの?」
と聞きたくなりますよね。

日本の保険診療チェックシステムはありますが、
チェックするのは「処方と病名が一致しているかどうか」のみ。
つまり、実際の患者さんが風邪であっても、アレルギー性鼻炎と診断名をつければ、
それが真実でなくてもすり抜けてしまうのです。

また、抗ロイコトリエン薬は「1歳未満の治験データがなく安全性は確保されていません」と添付文書に記載されています。
私はこの薬が発売された時を覚えていますが、
製薬会社は「適応年齢は1歳以上です」と連呼していました。

ただし、1歳未満に処方してはいけない、というほど強力なルールではなく、
「患者さんに上記を説明して同意を得れば処方可能」レベルです。
しかし、そのことを説明された患者さんの話を聞いたことがありません。

ネットで薬の情報も容易に手に入る時代になりました。
患者さん側も知識を持って、
「自分の子どもに処方されている薬は安全なのか?」
をチェックするスタンスが必要だと思います。

モンテルカストの副作用を取りあげた記事を紹介します。

<ポイント>
・以前からロイコトリエン受容体拮抗薬の有害事象として精神神経疾患が起こり得ることが報告されている。米食品医薬品局(FDA)は念のためアレルギー性鼻炎に対するモンテルカストの使用を減らすよう勧告している。
・今回、気管支喘息やアレルギー性鼻炎でロイコトリエン受容体拮抗薬のモンテルカストを使い始めた患者を対象に、有害事象である精神神経疾患の1年後までの発症率を検討し、モンテルカスト以外の薬を使い始めた患者に比べ、不安障害や不眠症のリスクが高かったことが判明した。


▢ モンテルカストは不眠や不安のリスクを高める喘息やアレルギー性鼻炎で処方された患者のコホート研究
大西 淳子=医学ジャーナリスト
2022/06/2:日経メディカル)より一部抜粋(下線は私が引きました);

 英国Oxford大学Warneford病院のTapio Paljarvi氏らは、気管支喘息やアレルギー性鼻炎で ロイコトリエン受容体拮抗薬のモンテルカストを使い始めた患者を対象に、有害事象である精神神経疾患の1年後までの発症率を検討し、傾向スコアをマッチさせたモンテルカスト以外の薬を使い始めた患者に比べ、不安障害や不眠症のリスクが高かったと報告した。結果は2022年5月24日のJAMA Network Open誌電子版に掲載された。
 ロイコトリエン受容体拮抗薬の有害事象として精神神経疾患が起こり得ることは、観察研究から報告されていたが、交絡因子の影響を調整できていないなど方法論的に問題があり、研究によって結果も異なるため、結論が出ていなかった。しかし、米食品医薬品局(FDA)は念のためアレルギー性鼻炎に対するモンテルカストの使用を減らすよう勧告している(モンテルカストの副作用にFDAが再警告)。
 市販後の安全性に関する調査では、重症の精神神経疾患の発生が見られており、投与中止後の投与再開により、いったん消失した有害な症状が再発したという報告もあった。また、小児と思春期の患者に投与した場合の安全性に関するデータは多くあるのに対して、成人患者に関する有害事象のデータは少なかった。
 こうした状況を受けて著者らは、喘息患者とアレルギー性鼻炎の患者を対象として、モンテルカストの新規処方から1年間の精神神経疾患の発生率を比較することにした。これまでに行われた観察研究では不十分だったベースラインの交絡因子の調整を行うために、傾向スコアをマッチングさせたコホート研究を計画した。
・・・
 喘息またはアレルギー性鼻炎の患者群ではに、モンテルカストが新たに処方された日をindex dateとし、喘息患者の対照群では吸入ステロイドや吸入気管支拡張薬が新たに処方された日、アレルギー性鼻炎患者の対照群では抗ヒスタミン薬(セチリジン、フェキソフェナジン、ロラタジン)を処方された日をindex dateとした。各群のindex dateから12カ月後までの精神神経疾患の診断の有無を調べた。
・・・
 主要評価項目は、12カ月間の精神神経疾患の診断に設定し、精神病性障害、気分障害、不安/解離性/ストレス関連/身体表現性/その他の非精神病性障害、成人の人格障害と行動障害、睡眠障害、非致死的自傷について評価し、さらにより特異的な診断として、躁病エピソードまたは双極性障害、大うつ病、恐怖症性不安障害、全般性不安障害、その他の不安障害、強迫性障害、不眠症と断眠、過眠症、概日リズム睡眠障害、睡眠時異常行動(夢遊症、夜驚症、悪夢障害)、睡眠時随伴症とむずむず脚症候群、その他のまたは分類不能な睡眠障害についても調べた。
 傾向スコアがマッチする15万4946人の患者を分析対象とした。モンテルカストを処方されていた患者は7万7473人で、7万2490人が喘息患者の対照群(新規処方時の平均年齢は35歳、女性が61.7%)で、8万2456人がアレルギー性鼻炎患者の対照群(40歳、65.7%)だった。それらの人々を最長12カ月間追跡した。
 モンテルカスト使用者の、あらゆる精神神経疾患のオッズ比は、喘息患者が1.11(95%信頼区間1.04-1.19)、アレルギー性鼻炎患者では1.07(1.01-1.14)だった。最もオッズ比が高かった疾患は、喘息患者では不安障害のオッズ比1.21(1.05-1.20)で、アレルギー性鼻炎患者では不眠の1.15(1.05-1.27)だった。
 モンテルカストの使用は、あらゆる睡眠障害(オッズ比は喘息患者が1.13:1.02-1.25、アレルギー性鼻炎患者が1.10:1.01-1.20)のリスク増加に関係しており、睡眠障害の中では、不眠症(喘息1.13:1.01-1.27とアレルギー性鼻炎1.15:1.05-1.27)のリスク増加が有意だった。また、あらゆる不安関連障害(喘息1.21:1.05-1.20、アレルギー性鼻炎1.12:1.05-1.19)のリスク増加も認められ、追跡期間中に抗うつ薬の処方を受ける可能性(喘息1.16:1.07-1.14、アレルギー性鼻炎1.17:1.05-1.30)も有意に高かった。
 これらの結果から著者らは、喘息またはアレルギー性鼻炎の患者は、モンテルカスト使用開始後12カ月間に精神神経疾患と診断されるリスクが高かったと結論している。絶対リスクは小さいものの、モンテルカストを処方されている患者は非常に多いことから、医師はモンテルカスト使用中の患者の精神的な健康状態に注意し、特に既往歴がある患者は慎重にモニターすべきだと述べている。
 原題は「Analysis of Neuropsychiatric Diagnoses After Montelukast Initiation」、概要はJAMA Network Open誌のウェブサイトで閲覧できる。

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