溶連菌性咽頭炎は、真夏を除いて一年中発生する感染症です。
「喉が痛い」「気持ち悪くて吐いた」という訴えを聴くと、小児科医はピンときます。
必ずしも高熱は出ず、咳や鼻水も目立ちません。
お腹を痛がることもありますが、下痢はしません。
典型的な診察所見は・・・
喉がただれたように真っ赤で痛そう(扁桃に白苔が付くことは多くありません)。
あごのリンパ節を触れると腫れて痛がります。
お腹をさわっても、感染性胃腸炎のようにフニャフニャの力の入らないお腹ではありません。
こんな患者さんに喉の検査をすると、ほとんどの例で溶連菌が陽性に出ます。
陽性者には、こんな説明をしています;
「風邪の原因の9割はウイルスで残りの1割が細菌です。その細菌類の代表がこの溶連菌です。」
「溶連菌は細菌ですから“抗菌薬”(=抗生物質)が直接効いてくれるので、今日処方する薬を飲むと1〜2日で症状が治まります。」
「症状が治まって安心して薬をやめてしまうとぶり返すことや腎臓に合併症が出ることがありますので、処方された分を最後まで飲みきってください。」
さて、治療に使う抗菌薬は、従来は「ペニシリン系10日間投与」がずっとスタンダードでした。
しかし近年、セフェム系5日間でも同等の効果が得られることが報告され、普及しつつあります。
というわけで、まだ喧々諤々の治療法ですが、ここに紹介する論文はたくさんの論文を集めて解析したもの。
結論から申し上げると、
・症状消失という点では薬剤間で差がない
・耐性菌発生とコストという点ではペニシリン系がまだ有利
と想定内のものでした。
一方で重症合併症であるリウマチ熱の発症例がまれになったことから、一部の小児科医から「抗菌薬不要論」も出てきています。
やはりこの議論、なかなか結論が出ませんね。
■ A群レンサ球菌咽頭炎に最良の抗菌薬は?
(ケアネット:2016/10/17)
咽頭スワブでのA群β溶血性レンサ球菌(GABHS)陽性者において、咽頭痛に対する抗菌薬のベネフィットは限られ、抗菌薬が適応となる場合にどの薬剤を選択するのが最良なのかは明らかになっていない。今回、オーストラリア・クイーンズランド大学のMieke L van Driel氏らが19件の無作為化二重盲検比較試験を評価し、GABHSによる扁桃咽頭炎の治療におけるセファロスポリンとマクロライドをペニシリンと比較したところ、症状消失には臨床関連の差が認められなかったことが示された。著者らは、「今回の結果から、コストの低さと耐性のなさを考慮すると、成人・小児ともにペニシリンがまだ第1選択とみなすことができる」と記している。The Cochrane database of systematic reviews誌オンライン版2016年9月11日号に掲載。
著者らは、症状(痛み・熱)の緩和、罹病期間の短縮、再発の予防、合併症(化膿性の合併症、急性リウマチ熱、レンサ球菌感染後糸球体腎炎)の予防における各抗菌薬の効果比較のエビデンスと、副作用発現率の比較およびレンサ球菌に対する抗菌薬治療のリスク・ベネフィットに関するエビデンスを評価した。
CENTRAL(2016年第3版)、MEDLINE Ovid(1946年~2016年3月第3週)、EMBASE Elsevier(1974年~2016年3月)、トムソン・ロイターのWeb of Science(2010年~2016年3月)、臨床試験登録を検索し、「臨床的治癒」「臨床的再発」「合併症または有害事象、もしくは両方」のうち1つ以上を報告している無作為化二重盲検比較試験を選択した。
主な結果は以下のとおり。
・ペニシリンとセファロスポリン(7試験)、ペニシリンとマクロライド(6試験)、ペニシリンとカルバセフェム(3試験)、ペニシリンとスルホンアミドを比較した1試験、クリンダマイシンとアンピシリンを比較した1試験、アジスロマイシンとアモキシシリンを小児で比較した1試験の合計19試験(無作為化された参加者5,839例)を評価した。
・すべての試験で臨床転帰が報告されていたが、無作為化、割り付けの隠蔽化、盲検化に関する報告は十分ではなかった。
・GRADEシステムを用いて評価されたエビデンス全体の質は、intention-to-treat (ITT)分析における「症状消失」では低く、評価可能な参加者における「症状消失」と有害事象では非常に低かった。
・症状消失には差があり、セファロスポリンがペニシリンより優れていた(評価可能な患者の症状消失なしのOR:0.51、95%CI:0.27~0.97;number needed to treat for benefit[NNTB] 20、N=5、n=1,660;非常に質の低いエビデンス)。しかし、ITT解析では統計学的に有意ではなかった(OR:0.79、95%CI:0.55~1.12;N=5、n=2,018;質の低いエビデンス)。
・臨床的再発については、セファロスポリンがペニシリンと比べて少なかった(OR:0.55、95%CI 0.30~0.99;NNTB 50、N=4、n=1,386;質の低いエビデンス)が、これは成人だけで認められ(OR:0.42、95%CI:0.20~0.88;NNTB 33、N=2、n=770)、NNTBが高かった。
・どのアウトカムにおいても、マクロライドとペニシリンに差はなかった。
・小児における1件の未発表試験において、アモキシシリン10日間投与と比べて、アジスロマイシン単回投与のほうが高い治癒率を認めた(OR:0.29、95%CI:0.11~0.73;NNTB 18、N=1、n=482)が、ITT解析(OR:0.76、95%CI:0.55~1.05; N=1、n=673)や、長期フォローアップ(評価可能な患者の分析でのOR:0.88、95%CI :0.43~1.82、N=1、n=422)では差はなかった。
・小児では、アジスロマイシンがアモキシシリンより有害事象が多かった(OR:2.67、95%CI:1.78~3.99;N=1、n=673)。
・ペニシリンと比較してカルバセフェムの治療後の症状消失は、成人と小児全体(ITT解析でのOR:0.70、95%CI:0.49~0.99;NNTB 14、N=3、n=795)、および小児のサブグループ解析(OR:0.57、95%CI:0.33~0.99;NNTB 8、N=1、n=233)では優れていたが、成人のサブグループ解析(OR:0.75、95%CI:0.46~1.22、N=2、n=562)ではそうではなかった。
・小児では、マクロライドがペニシリンより有害事象が多かった(OR:2.33、95%CI:1.06~5.15;N=1、n=489)。
・長期合併症が報告されていなかったため、稀ではあるが重大な合併症を避けるために、どの抗菌薬が優れているのかは不明であった。
<原著論文>
・van Driel ML, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2016 Sep 11.
当院では、長らくペニシリン系抗菌薬(ワイドシリン)を使用してきましたが、10日間と長く服用すると、開始後7日間頃に5%程度の頻度で薬疹が発症します。
これを避けるため、数年前にセフェム系5日間コースへ変更しました。
正確な統計は取っていませんが、薬疹例はほとんど認めなくなり、一方で再燃例は少し目立つようになった印象があります。
短期間に3回以上反復する例では、家族健診を行ったり、漢方薬を併用したりしています。
「喉が痛い」「気持ち悪くて吐いた」という訴えを聴くと、小児科医はピンときます。
必ずしも高熱は出ず、咳や鼻水も目立ちません。
お腹を痛がることもありますが、下痢はしません。
典型的な診察所見は・・・
喉がただれたように真っ赤で痛そう(扁桃に白苔が付くことは多くありません)。
あごのリンパ節を触れると腫れて痛がります。
お腹をさわっても、感染性胃腸炎のようにフニャフニャの力の入らないお腹ではありません。
こんな患者さんに喉の検査をすると、ほとんどの例で溶連菌が陽性に出ます。
陽性者には、こんな説明をしています;
「風邪の原因の9割はウイルスで残りの1割が細菌です。その細菌類の代表がこの溶連菌です。」
「溶連菌は細菌ですから“抗菌薬”(=抗生物質)が直接効いてくれるので、今日処方する薬を飲むと1〜2日で症状が治まります。」
「症状が治まって安心して薬をやめてしまうとぶり返すことや腎臓に合併症が出ることがありますので、処方された分を最後まで飲みきってください。」
さて、治療に使う抗菌薬は、従来は「ペニシリン系10日間投与」がずっとスタンダードでした。
しかし近年、セフェム系5日間でも同等の効果が得られることが報告され、普及しつつあります。
というわけで、まだ喧々諤々の治療法ですが、ここに紹介する論文はたくさんの論文を集めて解析したもの。
結論から申し上げると、
・症状消失という点では薬剤間で差がない
・耐性菌発生とコストという点ではペニシリン系がまだ有利
と想定内のものでした。
一方で重症合併症であるリウマチ熱の発症例がまれになったことから、一部の小児科医から「抗菌薬不要論」も出てきています。
やはりこの議論、なかなか結論が出ませんね。
■ A群レンサ球菌咽頭炎に最良の抗菌薬は?
(ケアネット:2016/10/17)
咽頭スワブでのA群β溶血性レンサ球菌(GABHS)陽性者において、咽頭痛に対する抗菌薬のベネフィットは限られ、抗菌薬が適応となる場合にどの薬剤を選択するのが最良なのかは明らかになっていない。今回、オーストラリア・クイーンズランド大学のMieke L van Driel氏らが19件の無作為化二重盲検比較試験を評価し、GABHSによる扁桃咽頭炎の治療におけるセファロスポリンとマクロライドをペニシリンと比較したところ、症状消失には臨床関連の差が認められなかったことが示された。著者らは、「今回の結果から、コストの低さと耐性のなさを考慮すると、成人・小児ともにペニシリンがまだ第1選択とみなすことができる」と記している。The Cochrane database of systematic reviews誌オンライン版2016年9月11日号に掲載。
著者らは、症状(痛み・熱)の緩和、罹病期間の短縮、再発の予防、合併症(化膿性の合併症、急性リウマチ熱、レンサ球菌感染後糸球体腎炎)の予防における各抗菌薬の効果比較のエビデンスと、副作用発現率の比較およびレンサ球菌に対する抗菌薬治療のリスク・ベネフィットに関するエビデンスを評価した。
CENTRAL(2016年第3版)、MEDLINE Ovid(1946年~2016年3月第3週)、EMBASE Elsevier(1974年~2016年3月)、トムソン・ロイターのWeb of Science(2010年~2016年3月)、臨床試験登録を検索し、「臨床的治癒」「臨床的再発」「合併症または有害事象、もしくは両方」のうち1つ以上を報告している無作為化二重盲検比較試験を選択した。
主な結果は以下のとおり。
・ペニシリンとセファロスポリン(7試験)、ペニシリンとマクロライド(6試験)、ペニシリンとカルバセフェム(3試験)、ペニシリンとスルホンアミドを比較した1試験、クリンダマイシンとアンピシリンを比較した1試験、アジスロマイシンとアモキシシリンを小児で比較した1試験の合計19試験(無作為化された参加者5,839例)を評価した。
・すべての試験で臨床転帰が報告されていたが、無作為化、割り付けの隠蔽化、盲検化に関する報告は十分ではなかった。
・GRADEシステムを用いて評価されたエビデンス全体の質は、intention-to-treat (ITT)分析における「症状消失」では低く、評価可能な参加者における「症状消失」と有害事象では非常に低かった。
・症状消失には差があり、セファロスポリンがペニシリンより優れていた(評価可能な患者の症状消失なしのOR:0.51、95%CI:0.27~0.97;number needed to treat for benefit[NNTB] 20、N=5、n=1,660;非常に質の低いエビデンス)。しかし、ITT解析では統計学的に有意ではなかった(OR:0.79、95%CI:0.55~1.12;N=5、n=2,018;質の低いエビデンス)。
・臨床的再発については、セファロスポリンがペニシリンと比べて少なかった(OR:0.55、95%CI 0.30~0.99;NNTB 50、N=4、n=1,386;質の低いエビデンス)が、これは成人だけで認められ(OR:0.42、95%CI:0.20~0.88;NNTB 33、N=2、n=770)、NNTBが高かった。
・どのアウトカムにおいても、マクロライドとペニシリンに差はなかった。
・小児における1件の未発表試験において、アモキシシリン10日間投与と比べて、アジスロマイシン単回投与のほうが高い治癒率を認めた(OR:0.29、95%CI:0.11~0.73;NNTB 18、N=1、n=482)が、ITT解析(OR:0.76、95%CI:0.55~1.05; N=1、n=673)や、長期フォローアップ(評価可能な患者の分析でのOR:0.88、95%CI :0.43~1.82、N=1、n=422)では差はなかった。
・小児では、アジスロマイシンがアモキシシリンより有害事象が多かった(OR:2.67、95%CI:1.78~3.99;N=1、n=673)。
・ペニシリンと比較してカルバセフェムの治療後の症状消失は、成人と小児全体(ITT解析でのOR:0.70、95%CI:0.49~0.99;NNTB 14、N=3、n=795)、および小児のサブグループ解析(OR:0.57、95%CI:0.33~0.99;NNTB 8、N=1、n=233)では優れていたが、成人のサブグループ解析(OR:0.75、95%CI:0.46~1.22、N=2、n=562)ではそうではなかった。
・小児では、マクロライドがペニシリンより有害事象が多かった(OR:2.33、95%CI:1.06~5.15;N=1、n=489)。
・長期合併症が報告されていなかったため、稀ではあるが重大な合併症を避けるために、どの抗菌薬が優れているのかは不明であった。
<原著論文>
・van Driel ML, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2016 Sep 11.
当院では、長らくペニシリン系抗菌薬(ワイドシリン)を使用してきましたが、10日間と長く服用すると、開始後7日間頃に5%程度の頻度で薬疹が発症します。
これを避けるため、数年前にセフェム系5日間コースへ変更しました。
正確な統計は取っていませんが、薬疹例はほとんど認めなくなり、一方で再燃例は少し目立つようになった印象があります。
短期間に3回以上反復する例では、家族健診を行ったり、漢方薬を併用したりしています。