小児アレルギー科医の視線

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新規薬剤目白押しのRSV感染症対策2024

2024年06月18日 15時35分19秒 | 予防接種
小児科医にとってRSV感染症は、
最後に残ったやっかいなウイルスです。

生後3ヶ月までの赤ちゃんが感染すると、
1/3はゼーゼーしてきて気管支炎となり、
呼吸困難で入院することがあります。

医学的対応は、
予防薬としてのシナジス®が以前からありましたが、
これはハイリスク乳児のみ使用できるもので、
一般の健康な赤ちゃんには使用できませんでした。

ワクチンもなく、
特効薬もなく、
重症化して入院した赤ちゃんも、
対症療法で本人の体力勝負・・・。

そこに近年、次々と新薬が登場してきました。

まずはワクチン。
高齢者向けのワクチン(アレックスビー®)と、
高齢者と妊婦向けのワクチン(アブリスボ®)が登場。

なぜ高齢者かって?
赤ちゃんが重症化することで有名だったRSVですが、
近年、高齢者も重症化することが判明したからです。
今まで検査しなかったからわからなかっただけ。

妊婦向けワクチン?
これは妊婦さんが重症化するわけではなく、
妊婦さんにワクチン接種して免疫を獲得させ、
胎盤〜臍帯を通して赤ちゃん(胎児)に免疫をつけ、
出生後の感染予防効果を期待するという、画期的手法です。

次に予防薬。
シナジス®と同じ仲間のモノクローナル抗体(ベイフォータス®)が開発され、
認可・発売されました。
そしてこの薬は一般の健康な赤ちゃんにも使用可能です。

ただし、モノクローナル抗体製剤は高価であり、
自治体の補助がなければ接種は普及しないと思われます。

さらいn残念ながら、
インフルエンザに対するタミフルのような、
直接ウイルスをやっつける治療薬はまだ登場していません。

これらのことを整理した記事を見つけましたので、紹介します。
報告によるとインフルエンザ、新型コロナ、RSVの中で、一番重症化しやすいのはRSVである、とのこと。


成人に多いRSV感染症、予防面で進展相次ぐ
予防薬のラインアップが充実しつつあるRSV感染症診療を交通整理する
(東北文化学園大学医療福祉学部抗感染症薬開発研究部門 特任教授/渡辺 彰)
 RSウイルス(RSV)感染症は、小児の感染症として捉えられがちであるが、実際には成人や高齢者の罹患(再感染を含む)が多く、重症化・死亡に至る例も少なくない。文献レビューとメタ解析に基づく研究によると、日本では60歳以上のRSV感染症は年間約70万例発生し、このうち入院が約6万3,000例、入院例中の死亡は約4,500例と推定されている。
 それに対し、小児の受診例は2021年には約22万7,000例と報告されており、日本でもRSV感染症は小児より成人・高齢者に多いことが認識されつつある。
 このような背景から、近年は感染予防を目的とした抗体薬やワクチンを中心に開発が進み、診療ツールがそろい始めてきた(関連記事:朗報!60歳以上対象にRSVワクチンが本日承認)。本稿では、RSV感染症の最新知見を踏まえ、診療技術の進歩をキャッチアップするとともに残された問題点を見直し、RSV感染症診療の将来を展望したい。

▶ インフルエンザとCOVID-19に比べ重症化しやすい
 RSV感染症の重症度に関し、髙橋らは自験例の解析を行い、成人のRSV関連肺炎例では同一期間中のインフルエンザ関連肺炎に比べ入院数が多く(43例 vs. 25例)、平均年齢や呼吸器症状の重症度は高く、平均入院期間も長かった(30.0日 vs. 15.2日)と報告している。この期間中、全肺炎例に占めるRSV関連肺炎例の割合は5.3%であったが、冬季の流行期は14.6%に増加したという。細菌との重複感染例は60%以上に上り、特に肺炎球菌との合併が多く、流行のピーク時には肺炎球菌肺炎例の20%がRSVとの重複感染であった。また、RSV関連肺炎例のうち21%は初診や紹介受診の時点で誤嚥性肺炎と診断されていたことから、同氏は「RSV感染症は見逃されている可能性が高い」と指摘しており、これは感度が低いといった検査・診断の抱える問題点に起因すると思われる(関連記事:健康寿命延伸に寄与、RSVワクチンへの期待)。
 RSV関連肺炎の死亡率は、急性期においては10%以下でインフルエンザ関連肺炎と同等だったが、高齢者では気管切開や胃瘻造設が行われたり、寝たきりになるなど日常生活動作(ADL)の低下を招きやすい。そのため、罹患後1年間の死亡率は急性期の4~5倍に及ぶ。
 それでは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)と比べてはどうだろうか? Surieらは2022年2月~23年5月に、米国20州の急性期病院25施設に入院した60歳以上のRSV感染症患者304例、COVID-19患者4,734例、インフルエンザ患者746例を対象に、治療の対応を比較する前向き疫学調査を行った。
 その結果、通常の酸素投与(30L/分未満)を必要としたのはRSV感染症で79.7%、COVID-19で58.2%、インフルエンザで65.8%(P<0.001)、同様に高流量酸素投与(30L/分以上)または非侵襲的陽圧換気はそれぞれ23.0%、11.7%、13.7%(P<0.001)、集中治療室(ICU)入室は24.3%、17.3%、16.8%(P=0.05)で、いずれも他の2疾患と比べRSV感染症で有意に頻度が高かった。また、挿管による人工呼吸管理または死亡は13.5%、10.2%、7.0%(P=0.07)と3疾患間に有意差はなかったものの、RSV感染症はインフルエンザと比べ有意に頻度が高かった(調整オッズ比2.08、P=0.001)。
 以上を踏まえると、3疾患の中ではRSV感染症が最も重症化しやすいといえよう。

▶ 診断の課題は検出キットの性能向上と保険適用の拡大
 RSV感染症の診断としては、迅速抗原検出キットを用いた診断法があるものの、RSV感染症がもっぱら小児、特に乳児の感染症と考えられてきた経緯もあって、保険適用は1歳未満の乳児や入院中の患児、早産児、2歳以下の慢性肺疾患・先天性心疾患・ダウン症候群・免疫不全の小児への使用に限られている。また、成人・高齢者では排出ウイルス量が乳幼児の約1,000分の1と少なく、排出期間も短いため陽性となりにくいことから、同キットでの陽性検出率は2割程度にとどまる。診断精度の向上には、複数回の検査やペア血清による抗体価測定との組み合わせの他、COVID-19の流行を契機に普及したPCR検査機器の活用なども考えられるが、感度・特異度を高めた安価な迅速抗原検出キットの実用化とともに、成人・高齢者に対する保険適用の拡大が喫緊の課題である。
 なお、その他の診断法として、新型コロナウイルス・季節性インフルエンザウイルス・RSVの同時検査法(PCR検査、抗原検査)は、COVID-19疑い例に対する鑑別診断として保険適用が認められている。また、Multiplex-Nested PCR法を利用した病原体核酸検出キットの「Film Array呼吸器パネル2.1」は、「COVID-19疑い」以外の条件でもRSVなどが検査できるが、多岐にわたる制約がある点に加え、保険点数が高いことに注意が必要となる。

▶ 抗RSウイルス薬は発展途上、抗体薬は前進中も価格が課題
 発症予防を適応とする抗体薬を除けば、実用化されたRSV治療薬はまだない。開発中の治療薬では、感染の成立に不可欠なRSVのF蛋白質を標的とする薬剤〔ファイザー社のsisunatovir(PF-07923568)など〕が多いが、塩野義製薬とUBE(旧宇部興産)が共同で開発中のS-337395はウイルスの増殖に必要なL蛋白質を阻害するRNAポリメラーゼ阻害薬である。前者のうちsisunatovirは高齢者と小児を対象とした臨床試験が始まっているが、これまでにも開発を中断した薬剤があり、治療薬の実用化にはまだ時間を要するというのが現状である。
 一方、抗体薬については開発が進み、発症予防としての使用に限られるが現時点で2つの抗RSVヒトモノクローナル抗体製剤がある。アストラゼネカ社のパリビズマブ(商品名シナジス)は、12カ月齢以下の早産児、24カ月齢以下の先天性心疾患や免疫不全およびダウン症候群児などの乳幼児を対象に保険適用が認められており、RSV感染流行期に月1回投与をする。今年(2024年)3月に承認、5月22日に発売されたアストラゼネカ社/サノフィ社のニルセビマブ(商品名ベイフォータス)は、前記の重症化リスクの高い乳幼児(保険適用)だけでなく、それ以外の全乳幼児(保険適用外)が対象になり、1回投与で流行期の1シーズンをカバーできる長期間作用性を特徴とする。
・・・
 パリビズマブはさらなる前進があり、医師主導の臨床試験によって効果が確認されたことから、今年3月に肺低形成、気道狭窄、先天性食道閉鎖症、先天代謝異常症、神経筋疾患などのある乳幼児が保険適用の対象に加えられた。今後、臨床における2剤の位置付けを考えるべきであるが、抗体薬はいずれも薬価が高い点に懸念が残る。

▶ 相次ぐワクチンの実用化、mRNAワクチンも登場
 検査・診断と治療薬に問題が残る一方、ワクチンに関しては実用化と発売が相次ぐ。RSVワクチンの開発は、1957年に初めてウイルスが分離され間もなく始まったが、当初の成績は芳しくなかった。21世紀に入って、RSVのF蛋白質がヒト細胞の受容体と結合し、ウイルス粒子が細胞膜と融合した後に構造が変わるという機序が明らかになってから、融合前F(prefusion F)蛋白質を標的としたワクチン開発が国内外で進展し始めた。
 日本では、昨年9月にアジュバントを添加したグラクソ・スミスクライン(GSK)社のRSVワクチン(商品名アレックスビー筋注用)が60歳以上の成人に対する初のワクチンとして承認、今年1月に発売されたのに続き、同じく今年1月にファイザー社のRSVワクチン(商品名アブリスボ筋注)が母子免疫ワクチンとして妊婦への投与が承認、3月には60歳以上の成人が適応に追加され、5月31日に発売となった。さらに、5月30日にモデルナ社がmRNAベースのRSVワクチン(mRNA-1345)の製造販売承認を厚生労働省に申請。実用化ラッシュ期を迎えた今、注目されるのが各ワクチンの有効性である。以下、臨床試験の成績を中心に紹介しよう。

アレックスビー:初回時は高い効果も再接種による追加効果は認められず
アブリスボ:母子感染予防だけでなく高齢者でも最大85.7%の効果
mRNA-1345:効果は80%を上回り、安全性の懸念なし

▶ 先んずるべきはワクチンによる予防、その鍵は公的補助の拡充
 世界では日本に先行して3剤のRSVワクチンが実用化され、妊婦への投与を含めて高齢者を中心に接種が広がっており、検査・診断と治療薬の開発の面でまだ問題が残る現状では、ワクチンによる感染予防を先んじて実施すべきと考える。そのためにも各ワクチンの低価格化の実現が望ましく、加えて社会に与える疾病負担の大きさに鑑みれば、RSVワクチンの接種費用に対する公的補助や定期接種化を検討すべきである。自治体対応の先駆けとしては、今年4月に北海道の小平町と神恵内村がRSVワクチン接種への公費助成を開始している。特に神恵内村では自己負担を1割に抑えており、同村のB類疾病用定期接種ワクチン(インフルエンザ、肺炎球菌感染症、COVID-19など)への9割補助と同等の手厚い施策を講じている15, 16)。こうした方向性が全国に広まることを期待したい。

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