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小児アレルギー科医の視線

医療・医学関連本の感想やネット情報を書き留めました(本棚2)。

世界中で花粉症が増えている原因は・・・地球温暖化?

2025年04月13日 07時31分02秒 | 糖質制限
日本ではスギ花粉症が国民病と言われるまでに増え、
全日本人の4〜5割が罹患しています。

海外ではどうでしょうか。
そのことを扱った記事が目に留まりましたので紹介します。

外国でも2割の子どもが花粉症に罹患し、
年々増加傾向にアレルギー性鼻炎とのこと。

そしてその原因は地球温暖化であると説明されています。
う〜ん、それだけかなあ・・・。

日本では従来、公害(自動車排気ガスなど)の影響が指摘されてきました。


▢ 海外にもある花粉症、患者も増加 「大量植樹」ではない原因とは?
2025/4/12:朝日新聞)より一部抜粋(下線は私が引きました);

・・・海外にも花粉症はあり、日本のように患者数が増えているという。原因は何なのか。解決策はあるのか。健康問題を研究しているニッセイ基礎研究所(東京)の村松容子主任研究員に話を聞いた。 

■温暖化と花粉症の関係  
――海外にも花粉症はあるのですか。 
 あります。イギリスで1819年に診断されたのが初めてと言われています。原因となる植物は各地で異なり、ヨーロッパではイネ科、アメリカではブタクサなど、オーストラリアではアカシアなどです。  
――日本では花粉症患者が増えているとの調査がありますが、海外での動向は。 
 日本では、全体としても増えているし、特に子どもなど若い人の発症が増えていると言われていますが、海外も同様のようです。世界アレルギー機構の2016年の資料によると、13~14歳の小児における花粉症の有病率は世界全体で約2割で、年平均0.3%増加しているというデータもあります。  
――その理由は。 
 温暖化が指摘されています。花が咲く時期が早まり、かつ、長く咲くようになったため、花粉の総量が増えているというわけです。 

■「どう付き合うか」の議論が主流?  
――どんな対策が議論されていますか。 
 気候変動対策や、医薬品などでアレルギー反応をどう抑え込むか、花粉の予測など、どう花粉とつきあっていくかへの関心が高いように思います。自生している植物が原因だったり、近隣の国から花粉が飛んできたりするため、「発生源を取り除く」のが難しいからだと思います。  
――日本とは違うのですね。 
 日本では高度経済成長期などに植樹されたスギやヒノキが大きな発生源で、植え替えなどで発生源を減らす対策がよく議論され、国も取り組みを進めています。温暖化などと関連づけた議論もないわけではないですが、日本は特殊かもしれません。 
 発生源対策で国はスギの植え替えを進めていますが、30年後にやっと半減するとされています。 
 一方、気候変動は進みます。また、気候変動で、これまで日本になかった植物が増え、新たな花粉の発生源になるかもしれません。植え替えだけでは花粉症の発症はなかなか収まらないのではないでしょうか。世界での議論や研究にも目を向ける価値があります。

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またもや“麻疹”騒動 2025

2025年04月11日 08時16分42秒 | 感染症
麻疹は半定期的に“小流行”を繰り返す感染症です。
ワクチンが極めて有効(1回接種で93%、2回接種で97%発症阻止)なのですが、
諸般の事情で接種率が低下し、
感受性者が一定の比率に達すると、
再度患者が発生して小流行することを反復しています。

諸般の事情とは、
・ワクチン副反応の不安・・・自閉症の原因になる?( → 科学的に否定済み)
・紛争や戦争で保健行政が行き届かなくなる
等々。

さて、なぜ麻疹が発生するとこれほど大騒ぎするのか、
疑問に思う方もいらっしゃるかと思われます。
それは単純に「重症化」するからです。
江戸時代までは、
疱瘡の器量定め、麻疹の命定め
と呼ばれ、天然痘になると顔があばただらけになるので嫌われ、
麻疹は命を落とす病気と恐れられてきました。

私も四半世紀前の勤務医時代に、麻疹流行を経験しました。
熱が下がらず肺炎を合併して入院する子どもが後を絶ちません。
入院病棟では一晩中子どもたちの咳き込む音があちこちから聞こえました。
「こんな感染症を流行らせてはいけない」
とつくづく思ったものです。

患者さんを見たことのない一般の方には、
「麻疹て恐いんですか?」
とピンとこないかもしれません。

ここ数ヶ月、日本でも発生していますが、
アメリカの方が深刻なようです。
それを扱った記事を紹介します。

<ポイント>
・米国は数十年がかりでワクチン接種による集団免疫を達成し、2000年に麻疹の排除(国内伝播がほぼなくなった、根絶に近い状態にすること)に成功した。
・近年、米国は再び麻疹の流行に脅かされている。医学的な理由のない、個人的な理由によるワクチンの接種免除が増えているためだ。
・問題は、ワクチン反対派による組織的なデマに十分対処してこなかった、過去10年間の政策の失敗にある。
・米国では麻疹(はしか)の感染者が増え続けているが、専門家はその原因として、個人的な理由により学校でのワクチン接種義務の免除を受ける子どもが増えていることを挙げている。
・麻疹の感染拡大を防ぐには地域社会の95%が免疫を持っている必要があるが、一部のコミュニティーで接種免除を受ける子どもが増えたことで、感染拡大のリスクが高まっている。
・現在のアメリカでは「接種免除」を拡げる反ワクチン派との戦いが始まっており、トランプ政権がそれに拍車をかけている。

その昔、たくさんの人が命を落とした麻疹ですが、
ワクチンのおかげでそれを一旦は“排除”するまでに至りました。
しかしその痛みも感謝も忘れた人類は、
愚かな行為を繰り返すのです。

・・・まるで“戦争”と同じですね。


▢ はしかの流行が復活中、反ワクチンの台頭と米国の危機
2000年に排除を達成した米国で何が起きているのか
2025.04.08:National Geograhpic)より一部抜粋(下線は私が引きました);

 米国では近年にない規模の麻疹(はしか)の集団感染が起きている。テキサス州西部で始まった今回の流行による感染者数は、2025年4月3日時点で全米で607人、すでに2024年の合計である285人を上回っていて、2月と4月初旬にテキサス州で基礎疾患のない6歳と8歳の子どもが死亡するなど深刻な状況にある(編注:日本の国立感染症研究所によると、3月26日時点での2025年の報告数は合計44人で、すでに2024年の45人に迫っている)。
 米保健福祉省(厚生省)のロバート・F・ケネディ・ジュニア長官は、麻疹が健康な人を死なせるのは「難しい」と主張したが、米国小児科学会は、麻疹ワクチンが開発されるまでは、麻疹による死者の大半は健康な子どもだったと指摘していた。
 麻疹ウイルスが引き起こす麻疹は感染力が非常に強く、空気感染するため、感染者が呼吸をしたり、咳やくしゃみをしたり、誰かと会話をしたりするだけで周囲の人を感染させてしまう。麻疹には特効薬がなく、対症療法しかないため、ワクチン接種とが最も安全で効果的な対策となる。
 米国は数十年がかりでワクチン接種による集団免疫を達成し、2000年に麻疹の排除(国内伝播がほぼなくなった、根絶に近い状態にすること)に成功した(編注:厚生労働省によると、日本は2015年に世界保健機関(WHO)西太平洋地域事務局により排除状態が認定された)。しかし近年、米国は再び麻疹の流行に脅かされている。医学的な理由のない、個人的な理由によるワクチンの接種免除が増えているためだ
 テキサス州ではこうした免除が比較的容易に認められているため、歴史的に免除率が非常に高い地域がいくつかできている。今回の流行が始まったゲインズ郡も、そうした地域の1つだった。
 テキサス州保健当局は子どもたちにワクチン接種を受けさせるために最善を尽くしているが、「問題は、ワクチン反対派による組織的なデマに十分対処してこなかった、過去10年間の政策の失敗にあります」と指摘するのは、感染症専門の小児科医で、テキサス小児病院ワクチン開発センターの共同ディレクターであるピーター・ホーテズ氏だ。
「残念ながら、テキサス州は全米で起こっていることの先鋒になっています」(参考記事:「はしかの恐るべき「免疫の記憶喪失」とは、世界で流行が拡大」)
 米国では麻疹(はしか)の感染者が増え続けているが、専門家はその原因として、個人的な理由により学校でのワクチン接種義務の免除を受ける子どもが増えていることを挙げている麻疹の感染拡大を防ぐには地域社会の95%が免疫を持っている必要があるが、一部のコミュニティーで接種免除を受ける子どもが増えたことで、感染拡大のリスクが高まっているのだ。

▶ ワクチン接種が広まるまで
 子を持つ親たちの権利擁護団体Voices for Vaccinesのディレクターであるカレン・アーンスト氏は、個人的な理由による接種免除を申請する親が増えている理由について、「1つは、私たちの多くが麻疹の蔓延を目にしたことがなく、麻疹という病気を忘れていることです。もう1つは、麻疹がいかに急速に広がり、子どもたちをどれほど重篤な状態に陥らせるおそれがあるかを理解していないことです」と言う。
 実際、20世紀初頭には、米国では毎年数千人が麻疹で命を落としていた。医療の進歩により1950年代にはその数は大幅に減ったが、それでも毎年推定400〜500人が命を落とし、麻疹に関連した脳炎により数百人が生涯にわたる脳障害や難聴などを発症していた。
 1960年代に麻疹ワクチンが開発されると、数年以内に全米の麻疹の症例は約90%も減ったが、費用が高額だったため予防接種を受けさせない家庭もあり、麻疹の排除には至らなかった。
 そこで1970年代から、各州に対して、公立学校に通学する子どもに予防接種を義務付けることを求める運動が始まり、1981年までに全50州で小児への予防接種が義務付けられた。
 しかし、義務化後も課題は解消されなかったと、米ニューヨーク大学の感染症専門医であるアダム・ラトナー氏は言う。「政策が変わって予算がつくと予防接種率が上がって麻疹の発生率が低下し、また政策が変わって資金が途絶えると予防接種率が下がって麻疹が増えることの繰り返しでした」

▶ 麻疹の排除を達成
 最大の警告となった出来事は1989年から1991年にかけて発生した麻疹の大流行だった。5万5000人以上の米国人が感染し、123人が死亡したのだ。
 2つのことが明らかになった。麻疹ワクチンの1回接種では93%の効果があるが、これでは不十分なこと。そして、すべての家庭がワクチン接種の費用を賄えるわけではない状態では、何千人もの子どもが苦しみ、あまりに多くの子どもが亡くなるということだ。
 その後、米疾病対策センター(CDC)と米国小児科学会は、効果が97%に上がるワクチンの2回接種を推奨した。また1994年にはビル・クリントン大統領が、貧困家庭の子どもたちがCDCの推奨するすべての予防接種を無料で受けられるようにするプログラムを法制化した。
 こうして米国は集団免疫に必要な95%の予防接種率を達成し、以後は大規模な流行は起こらなくなり、2000年にはついに麻疹を排除した。
 その一方で、2つの新たな脅威が現れた。1つは、MMRワクチン(麻疹・おたふく風邪・風疹ワクチン)と小児の発達障害を関連付けようとする不正な論文が、後に撤回され、科学界から否定されたにもかかわらず、子をもつ親たちを不安にさせたこと。もう1つは、SNSの急速な普及により、誤った情報がかつてないほど速く、簡単に広まるようになったことだ。
 小児科医で元カリフォルニア州議会議員のリチャード・パン氏は、「SNSが火に油を注ぎ」、第1の不正な論文に触発された草の根の反ワクチン運動が、みるみるうちに広まってしまったと説明する。

▶ 個人的な理由による接種免除の問題
 米国のすべての州では、ワクチン成分に対するアレルギーなど、特定の必須ワクチンを安全に接種できない理由がある子どもに対しては、医学的な理由による接種免除が認められている。さらにほとんどの州では個人的な信条に基づく接種免除も認められており、免除の要件は州によって大きく異なっている。
 個人的な信条を理由とする接種免除率の調査によると、全米では2011年の1.75%から2016年の2.25%へと増加していて、個人的な信条と宗教上の理由による接種免除を認めている州では、宗教上の理由による免除しか認めていない州に比べて2倍以上高かった
 全米で0.5ポイントの増加ならたいした変化ではないように思われるかもしれない。だが、米エモリー大学エモリーワクチンセンターの元副所長のウォルター・オレステイン氏は、「全米としては高い割合の人が免疫をもっていても、ワクチン接種を受けていない人々の集団がどこかにあれば、そこで流行するおそれがあるのです」と言う。
 今回のテキサス州での集団感染はメノナイト派というキリスト教徒のコミュニティーが震源地となったが、米フィラデルフィア小児病院ワクチン教育センターの所長で感染症専門の小児科医であるポール・オフィット医師は、こうした「隔絶された宗教的な」コミュニティーでは、しばしば集団感染が発生していると言う。
 カリフォルニア州の多くのモンテッソーリ学校やシュタイナー学校を含む一部の私立学校も接種免除率が高い。こうした地理的な集中が、2015年にカリフォルニアのディズニーランドから麻疹が急速に広がって147人が感染する原因となった。

▶ 免除問題に新たな戦略
 そのため、集団感染の原因となるワクチン接種免除に対処することが、麻疹との闘いにおける新たな戦略となった。
 2016年、パン氏はカリフォルニア州で医学的な理由以外の接種免除を廃止する法案を提出した。法案が可決された後、全体的な免除率は低下したものの、一部で予想されたことが起こった。過去20年間、割合が安定していた医学的な理由による接種免除が増加しはじめたのだ。
 パン氏によると、一部の学校が「異常に高い」接種免除率を記録し、一握りの医師がほとんどの免除を認めていたという。そこで同州が2019年にさらなる法案を可決し、医学的な理由による接種免除について州が監督することを義務付けると、接種を免除された幼稚園児の割合は2019年の0.95%から2021年の0.27%まで減少した。
「カリフォルニア州の状況は、はるかに良くなったと思います」とパン氏は言う。「麻疹は依然として発生していますが、集団感染は起きていません」
 他の州もこれに続いた。メイン州では、ワクチン推進派の政治活動団体SAFE Communities Coalitionの事務局長ノース・ソーンダーズ氏が率いる運動が実って、個人的な信条を理由とする接種免除を全廃する州法が制定され、2020年3月の州の住民投票でも支持された。
 同様の運動により、コネチカット州とニューヨーク州では医学的な理由以外による接種免除が廃止され、ワシントン州ではMMRワクチンについて医学的な理由以外の接種免除が廃止された。

▶ 接種免除を復活させる動き
 こうした成功の一方で、最近、米国の多くの州で、医学的な理由以外によるワクチンの接種免除を復活させるための法案が提出されている。ソーンダーズ氏は、反ワクチン派が接種免除の拡大を求める運動を推進しているのだと警告する。
 米国の非営利・独立系の報道機関プロパブリカは3月28日に、CDCの上層部が、内部の予測センターが作成した麻疹の流行に関する評価の発表を差し止めていたと報道した。この評価では、一般市民が感染するリスクは依然として低いものの、流行地域周辺の予防接種率の低い地域ではリスクが高いと指摘されていた。
 CDCはプロパブリカに対して書面による声明を発表し、評価を公表しなかったのは、「すでに一般に知られていること以外には何も述べていなかったから」だと釈明した。
 そして、CDCがワクチンを「麻疹を予防する最善の方法」と考えていることに変わりはないとしながらも、「ワクチン接種は個人の判断に委ねられるべき」であり、「人々は医療従事者に相談し、ワクチン接種に関する選択肢を理解し、ワクチンに関連する潜在的なリスクと利益について知らされるべきだ」というロバート・F・ケネディ・ジュニア厚生長官の最近の発言内容を繰り返した。
 ソーンダーズ氏やアーンスト氏らは、ワクチン接種免除の拡大を求める州議会の法案が可決されてしまうことを懸念している。もしこれらの州法が成立すれば、「死者が出ることになるでしょう」とソーンダーズ氏は言う。「予防接種率が下がれば、人々は麻疹に感染し、命を落とすことになるのです」


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「ベースアップ評価加算」の罠

2025年04月09日 07時32分46秒 | 医療問題
政治家の間では、
「膨張した医療費を削減せよ!」
と声高に叫ばれています。

しかし現実に目を向けてみると・・・
高齢者社会で医療費が嵩むのは当たり前。
さらに分子標的薬など、想定外の高価な薬剤が登場し、
それを使うガン患者も増えているので医療費が嵩むのは当たり前。

それを減らすことなんてできるのでしょうか?

私には、どんどん背が伸びる子どもに対して、
「背が伸びるのは仕方ない、でも体重は減らせ!」
と言っているような印象があります。
・・・無理ですよねえ。

私は小児科医ですが、
少子化の影響で患者数は漸減しています。
それに加えて「医療費削減!」のあおりで保険点数は上がらず、
この先収入は先細り、ジリ貧状態が目に見えています。
小児科医は絶滅危惧種と言ってよいでしょう。

そこに世間では「賃金上昇」の風が吹き荒れています。
「収入減少」と「賃金上昇」の両立は可能か?
・・・こちらもムリな相談です。

ということで、無理なことを強制しているのが現在の日本の医療経済。
厚労省による医師への「パワハラ」と言えるかもしれません。

さて「賃金上昇」についてちょっと考えてみます。

先日、「2024年の日本の貿易黒字は史上最高を記録した」というニュースが流れました。
なるほど、輸出に関わる会社では増収している様子、
そこでは「賃金上昇」はあり、ですね。

もし「トランプ関税」「トランプショック」で貿易黒字が赤字に転落した場合、
そこで「賃金上昇」できるでしょうか?
むしろリストラの嵐が吹き荒れるのではないかと思われます。

医療界は上記の通り、物価高に対応した診療報酬増加はゼロなので、
構造的に「賃金上昇」は無理です。

それを知って、厚労省は「ベースアップ評価加算」という項目を設定しました。
これは、表立っては、
「職員の賃金を上げる費用に充ててください」
という項目ですが、その具体的内容は、
「上昇分は患者さんに負担してもらってください」
というもの。

つまり、
診療報酬アップ → 医療機関が増収 → 職員の給料上昇
ではなく、
患者さんから追加徴収 → 職員の給料上昇
というシステムです。

これは厚労省が、
「現状では医療機関の職員の給料を上げるのは無理」
と認めたことを証明する皮肉な事実ですね。

貿易会社が貿易黒字で社員給料上昇、とはワケが違います。

さらに巧妙な罠が仕掛けられています。

ベースアップ評価加算を算定するためには、
・1年目:2.5%
・2年目:2.1%
の給与アップ報告をしないといけません。
けれども、ベースアップ評価加算で得られるのは1.2%前後のみ・・・
不足分は医療機関からの持ち出しとなります。

そしていずれ、ベースアップ評価加算は廃止されます。
一旦上昇させて給料を下げることは法律違反になるそうです。

結局、医療機関の収入は増えないけど、職員の給料は増えて赤字体質が残る・・・
最終的には大企業が行っている「リストラ」につながることが目に見えています。

そしてこの加算の最大の特徴は、
「医師の給料を上げることに使ってはいけない」
というルールがあること。
職員の給料に回すことに限定されているのです。

「医者は高給取りだからむしろ減らして当たり前」
「職員は世間一般の給料上昇の流れに沿って昇給」
という考えです。

開業医のほとんどは職員10人前後の零細企業です。
その社長の給料を国が減らそうとしているということ。

勤務医は給料よりも労働環境の劣悪さが問題視されていますが、
「働き方改革」の一環として現在の状況を否定すると、
医療が立ちゆかなくなることが目に見えているため、
医師は「対象外」として例外扱いされています。

つまり、
「劣悪な労働環境はそのままで、給料抑制」
というブラックな労働環境。

こんなブラック労働環境を、
これから医師になる若者達はどう見ているのでしょうか。

最近「直美」という単語をよく耳にするようになりました。
「なおみ」ではなく「ちょくび」と読みます。
これは、医学部を卒業した医師の卵達が、
研修期間を終わると内科や外科ではなく、
接「容外科」へ進むことを意味します。

なぜそんな現象が起こるのかというと、
美容外科は自由診療なので収入がよいのです。
そして時間外(夜間や週末)の拘束もありません。
そう、「楽して儲ける」志向です。

「直美」が増えてきた背景には、
若い医師達が、現在の医師の労働環境・収入状況に「No!」を突きつけた行動に他なりません。

ここからも“医療崩壊”が始まっていることを、
厚労省は自覚すべきですね。

昨今、厚労省の作戦は姑息です。
診療報酬はそのまま(医療の評価は数十年前と変わらず)、
いろんな条件をつけた“加算”を設定して、
「〇〇をしてくれたらこの加算を算定できますよ」
と誘惑してくるのです。
その〇〇とは、
・時間外労働
・医療システムのデジタル化
等々。

逆に時間外労働やデジタル化に従わないと、
医療収入は漸減して閉院につながるしくみです。

厚労省の言う通りにする医療機関だけ残ればよい、
という影の方針が見え隠れします。

そしてこれらの加算を算定するために、
たくさんの書類を用意し届け出なくてはいけません。
診療に専念したいのに、
雑用がどんどん増えてきています。

さて、デジタル化をすると、
ハッカーなどの被害を被るリスクが発生します。
驚いたことに、
その対策費用も被害に遭ったときの補償も医療機関持ち、
という設定なんです。
厚労省は責任を持ちません。

ハッカー集団は国家レベルの巧妙な犯罪です。
それを個人で対応しろというのは、どだい無理な話。

なんだかなあ・・・

高齢の開業医は、
「この辺がそろそろ潮時かな」
と閉院を考える良いタイミングでしょう。

私も還暦を過ぎ、
厚労省による「パワハラ」の圧に“疲れ”を感じる今日この頃です。

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アレルギー検査「陰性」のアレルギー性鼻炎が存在する?

2025年04月08日 05時50分17秒 | アレルギー性鼻炎
「花粉症の症状があるからアレルギー検査をして欲しい」
「鼻水・鼻づまりがつらいので何が原因なのか検査をして欲しい」
という患者さんがときどき受診されます。

そのような相談の場合、まず風邪なのかアレルギー性鼻炎なのか「問診」で判断します。
つまり「症状」ですね。
アレルギー性鼻炎であれば、くしゃみ・水様鼻汁・鼻閉が慢性的に続きます。
花粉症であれば、毎年同じ時期に上記鼻症状+眼症状(目のかゆみ、充血)が経験されているはず。

一方、アレルギー性鼻炎・花粉症以外の可能性も考慮します。
その代表の“風邪”であれば、鼻症状には起承転結があります。
つまり、最初のくしゃみ・水様鼻汁は同じで花粉症との区別は困難ですが、
何日か経過すると鼻汁は白く濁ってきて、痰が絡んで咳も出るようになり、
1〜2週間で軽快します。
治らずに鼻汁が悪化し膿性鼻汁(青っぱな)になると、
ちくのう症(副鼻腔炎)が怪しくなります。

以上を考慮し、風邪ではなくアレルギー性鼻炎・花粉症が疑われる場合にはじめて検査をします。
その結果、ダニやスギ・ヒノキ陽性になれば確定診断となります。

しかしたまに、
「これはアレルギー性鼻炎・花粉症に間違いないだろう」
と検査をしても何も陽性にならない患者さんに遭遇します。

その場合、従来は「血管運動性鼻炎」という診断名を付けました。
つまり、アレルギーではない、ということです。

と思っていたら近年、「局所性アレルギー性鼻炎」という概念が登場しました。
血液検査ではアレルギー検査陰性だけど、
鼻局所ではアレルギー反応が起きているというもの。

ではそれをどうやって診断するのか?
鼻粘膜の所見+鼻粘膜誘発テストが思い浮かびますが、
鼻粘膜誘発試験は一般的ではなく、耳鼻科専門医が行う特殊な検査です。

というわけで、私はアレルギー性鼻炎・花粉症と臨床診断し、
アレルギー検査で何も陽性にならない場合は耳鼻科受診を提案しています。

2024年に公開された「鼻アレルギー診療ガイドライン」の変更点を扱った記事が目に留まりましたので紹介します。
文中に登場する「LAR:血清IgE陰性アレルギー性鼻炎」が従来「局所性アレルギー性鼻炎」と呼ばれていた疾患です。
解説によると「典型的なアレルギー性鼻炎・花粉症の“前段階”」と捉えているようですね。

また、漢方薬をアレルギー性鼻炎・花粉症に取り入れている私にとって、
「漢方薬はアレルギー性鼻炎に有効か」
という項目が入ったことは興味深いです。


▢ 最新の鼻アレルギー診療ガイドラインの読むべき点とは/日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー感染症学会
2025/04/08:ケアネット)より一部抜粋(下線は私が引きました);
・・・花粉症診療で指針となる『鼻アレルギー診療ガイドライン-通年性鼻炎と花粉症- 2024年 改訂第10版』(編集:日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー感染症学会)が、昨年2024年3月に上梓され、現在診療で広く活用されている。・・・

▶ 医療者は知っておきたいLAR血清IgE陰性アレルギー性鼻炎の概念
 今回の改訂では、全体のエビデンスなどの更新とともに、皮膚テストや血清特異的IgE検査に反応しない「LAR(local allergic rhinitis)血清IgE陰性アレルギー性鼻炎」が加わった。また、図示では、アレルギー性鼻炎の発症機序、種々発売されている治療薬について、その作用機序が追加されている。そのほか、「口腔アレルギー症候群」の記載を詳記するなど内容の充実が図られている。それらの中でもとくに医療者に読んでもらいたい箇所として次の2点を大久保氏は挙げた。

(1)LAR血清IgE陰性アレルギー性鼻炎の概念の導入:
 このLAR血清IgE陰性アレルギー性鼻炎は、皮膚反応や血清特異的IgE抗体が陰性であるにもかかわらず、鼻粘膜表層ではアレルギー反応が起こっている疾患であり、従来の検査や所見でみつからなくても、将来的にアレルギー性鼻炎や気管支喘息に進展する可能性が示唆される。患者さんが来院し、花粉症の症状を訴えているにもかかわらず、検査で抗体がなかったとしても、もう少し踏み込んで診療をする必要がある。もし不明な点があれば専門医へ紹介する、問い合わせるなどが必要。

(2)治療法の選択の簡便化:
 さまざまな治療薬が登場しており、処方した治療薬がアレルギー反応のどの部分に作用しているのか、図表で示している。これは治療薬の作用機序の理解に役立つと期待している。また、治療で効果減弱の場合、薬量を追加するのか、薬剤を変更するのか検討する際の参考に読んでもらいたい。
 実際、本ガイドラインが発刊され、医療者からは、「診断が簡単に理解でき、診療ができるようになった」「『LAR血清IgE陰性アレルギー性鼻炎』の所見をみたことがあり、今後は自信をもって診療できる」などの声があったという。

▶ 今春の飛散終息は5月中~下旬頃の見通し
 今春の花粉症の特徴と終息の見通しでは、「今年はスギ花粉の飛散が1月から確認され、例年より早かった一方で、寒い日が続いたため、飛散が後ろ倒しになっている。そのために温暖な日が続くとかなりの数の花粉が飛散することが予測され、症状がつらい患者さんも出てくる。また、今月からヒノキの花粉飛散も始まるので、ダブルパンチとなる可能性もある」と特徴を振り返った。そして、終息については、「例年通り、5月連休以降に東北以外のスギ花粉は収まると予測される。また、東北ではヒノキがないので、スギ花粉の飛散動向だけに注意を払ってもらいたい。5月中~下旬に飛散は終わると考えている」と見通しを語った。
 今秋・来春(2026年)の花粉症への備えについては、「今後の見通しは夏の気温によって変わってくる。暑ければ、ブタクサなどの花粉は大量飛散する可能性がある。とくに今春の花粉症で治療薬の効果が弱かった人は、スギ花粉の舌下免疫療法を開始する、冬季に鼻の粘膜を痛めないためにも風邪に気を付けることなどが肝要。マスクをせずむやみに人混みに行くことなど避けることが大事」と指摘した。
 最後に次回のガイドラインの課題や展望については、「改訂第11版では、方式としてMinds方式のCQを追加する準備を進める。内容については、花粉症があることで食物アレルギー、口腔アレルギー症候群(OAS)、花粉-食物アレルギー症候群(PFAS)など複雑に交錯する疾患があり、これが今問題となっているので医療者は知っておく必要がある。とくに複数のアレルゲンによる感作が進んでいる小児へのアプローチについて、エビデンスは少ないが記載を検討していきたい」と展望を語った。

★ 主な改訂点と目次
〔改訂第10版の主な改訂点〕
【第1章 定義・分類】
・鼻炎を「感染性」「アレルギー性」「非アレルギー性」に分類
・LAR血清IgE陰性アレルギー性鼻炎を追加
【第2章 疫学】
スギ花粉症の有病率は38.8%
・マスクが発症予防になる可能性の示唆
【第3章 発症のメカニズム】
・前段階として感作と鼻粘膜の過敏性亢進が重要
・アレルギー鼻炎(AR)はタイプ2炎症
【第4章 検査・診断法】
・典型的な症状と鼻粘膜所見で臨床的にARと診断し早期治療開始
・皮膚テストに際し各種薬剤の中止期間を提示
【第5章 治療】
・各治療薬の作用機序図、免疫療法の作用機序図、スギ舌下免疫療法(SLIT)の効果を追加

〔改訂第10版の目次〕
第1章 定義・分類
第2章 疫学
第3章 発症のメカニズム
第4章 検査・診断
第5章 治療
・Clinical Question & Answer
(1)重症季節性アレルギー性鼻炎の症状改善に抗IgE抗体製剤は有効か
(2)アレルギー性鼻炎患者に点鼻用血管収縮薬は鼻噴霧用ステロイド薬と併用すると有効か
(3)抗ヒスタミン薬はアレルギー性鼻炎のくしゃみ・鼻漏・鼻閉の症状に有効か
(4)抗ロイコトリエン薬、抗プロスタグランジンD2(PGD2)・トロンボキサンA2(TXA2薬)はアレルギー性鼻炎の鼻閉に有効か
(5)漢方薬はアレルギー性鼻炎に有効か
(6)アレルギー性鼻炎に対する複数の治療薬の併用は有効か
(7)スギ花粉症に対して花粉飛散前からの治療は有効か
(8)アレルギー性鼻炎に対するアレルゲン免疫療法の効果は持続するか
(9)小児アレルギー性鼻炎に対するSLITは有効か
(10)妊婦におけるアレルゲン免疫療法は安全か
(11)職業性アレルギー性鼻炎の診断に血清特異的IgE検査は有用か
(12)アレルギー性鼻炎の症状改善にプロバイオティクスは有効か
第6章 その他
Web版エビデンス集ほかのご紹介

<参考>
・鼻アレルギー診療ガイドライン 2024年版 第10版(金原出版)
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ニキビダニは人体に“寄生”しているのではなく“共生”している?

2025年03月30日 08時11分23秒 | 皮膚疾患
私は小児科医ですが、
思春期のニキビの治療も行っています。

近年、日進月歩のニキビ治療。
赤ニキビの治療にとどまらず、
ニキビ肌の治療、
つまり「ニキビができにくい肌」が手に入るようになりました。

当院ではそのような新薬のぬり薬と漢方薬内服を併用して、
「外からも中からも」治療し、効果を上げています。
詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。

さて、話題は少しずれますが、時々耳にする「ニキビダニ」。
誰の顔にもいるとされていますが、
誰も気にしていません。
・・・想像すると気分が悪くなってきますね。
でも人体に寄生・共生する細菌は数限りなく存在すますので、
気にしていたらキリがありません。

その生態についての解説記事が目に留まりましたので読んでみました。
すると、意外な展開が・・・

・ニキビダニはさまざまな哺乳類の皮膚に存在しているが、動物によって種類は異なる。主にヒトの皮膚には毛包内およびその周囲に生息するDemodex folliculorumという種と、皮脂腺に生息するDemodex brevisという2種。
・ニキビダニは毛穴の内側に寄生して一生を過ごし、数が増えると宿主の皮膚に炎症を引き起こすと考えられていた。
・しかし2022年の研究で、発生の初期に細胞数を減少させるという寄生虫の特徴とは異なることが判明したほか、皮膚の炎症への影響が少ないことが示された。ニキビダニは寄生生物から共生生物に変化しつつある。ニキビダニは多くの要因から非難されてきたが、ニキビダニとヒトの長い付き合いは、ニキビダニに有益な役割を与えた可能性がある。
・免疫システムに異常をきたしているときや、ニキビダニの数がうまく調整されず増えすぎてしまったときは、皮膚の炎症につながる可能性がある。しかし、ほとんどの人にとってはニキビダニは無害である。
・ほとんどの人はオリジナル系統のニキビダニを保有しているため、ニキビダニを調べることでその人の先祖を知る研究も進んでいる。

なんと、ニキビダニは人体に“寄生”しているのではなく“共生”しつつあるとのこと。
つまり、敵ではなく味方?
それから各個人がオリジナルの系統のニキビダニを保有しているため、それを分析すると先祖がわかるかもしれない、という記述も興味深かったです。


▢ 人の毛穴に生息する「ニキビダニ」の生態とは?
2025年03月29日:Gigazine)より一部抜粋(下線は私が引きました);
 哺乳類の皮膚、特に多くのヒトの顔には、「ニキビダニ」と呼ばれるダニが寄生しています。毛穴の中で生きて食事をしたり交尾をしたり卵を産んだりしているニキビダニの生態について、イギリスのレディング大学でニキビダニを研究するアレハンドラ・ペロッティ博士が解説しています。
You might be surprised by what you'd find in your pores - M. Alejandra Perotti - 
 1841年、ドイツの解剖学者であるジェイコブ・ヘンリーがヒトの耳あかを顕微鏡で観察しているとき、小さな虫がいることを発見しました。後に、それはダニのグループに属することが判明し、「demodex(ニキビダニ属)」と呼ばれるようになりました。
 ニキビダニはさまざまな哺乳類の皮膚に存在していますが、動物によって種類は異なります。主にヒトの皮膚には毛包内およびその周囲に生息するDemodex folliculorumという種と、皮脂腺に生息するDemodex brevisという2種がいます。
 ニキビダニの一生はヒトの生活サイクルと強く結び付いています。日が暮れるとヒトの体は睡眠に関係するメラトニンというホルモンを生成します。メラトニンはニキビダニに対しては刺激信号として働くため、夜になるとニキビダニの活動は活発になります活動中のニキビダニは時速1cmほどの速度で移動し、顔の表面を横切ったり毛穴に潜んだりします。研究によると、ひとつの毛穴ごとに14匹のニキビダニを収容できるそうです。
 ニキビダニはすべてのヒトの顔に存在しており、肌が触れ合うことで乳児にも移っていきます。ニキビダニは毛穴の内側に寄生して一生を過ごし、数が増えると宿主の皮膚に炎症を引き起こすと考えられていましたが、ペロッティ氏も参加した2022年の研究では、発生の初期に細胞数を減少させるという寄生虫の特徴とは異なることが判明したほか、皮膚の炎症への影響が少ないことが示されました。そのため研究チームは「ニキビダニは寄生生物から共生生物に変化しつつあります。ニキビダニは多くの要因から非難されてきましたが、ニキビダニとヒトの長い付き合いは、ニキビダニに有益な役割を与えた可能性があります」と指摘しています。
 ペロッティ氏によると、免疫システムに異常をきたしているときや、ニキビダニの数がうまく調整されず増えすぎてしまったときは、皮膚の炎症につながる可能性があるとのこと。しかし、ほとんどの人にとってはニキビダニは無害です。また、ほとんどの人はオリジナル系統のニキビダニを保有しているため、ニキビダニを調べることでその人の先祖を知る研究も進んでいるそうです。
一方で、個人の顔に固有のニキビダニグループが繁殖を繰り返す関係上、全体的な遺伝的多様性は日ごとに減少していきます。そのため、ニキビダニが何かのきっかけで絶滅してしまう可能性をペロッティ氏は指摘しています。実際にニキビダニの絶滅は起こるのか、絶滅したら皮膚に何が起こるのかは分かっていませんが、少なくとも現在顔にニキビダニが生息していることは正常であり、健康の証拠であるとペロッティ氏は述べています。


・・・関連記事もありましたのでこちらも紹介します。


▢ ヒトの顔に寄生する「ニキビダニ」が寄生生物から共生生物に進化しつつある
2022年06月22日:Gigazine)より一部抜粋(下線は私が引きました);
多くのヒトの顔には「ニキビダニ」と呼ばれるダニが寄生しています。このニキビダニはヒトの皮膚の上で一生を過ごすのですが、あまりにも孤立した環境で世代交代が行われたことによって遺伝情報が「人間と共生する」方向へ変化しているという研究結果が報告されました。
Human follicular mites: Ectoparasites becoming symbionts | Molecular Biology and Evolution | Oxford Academic
The secret lives of mites in the skin of our faces
ニキビダニは哺乳類の皮膚に寄生するダニで、ヒトの場合は特に顔の皮膚に多く寄生することから別名「顔ダニ」とも呼ばれています。このニキビダニは誕生と同時にヒトの毛穴の内側に寄生し、ヒトの毛穴から放出された皮脂を栄養源として暮らします。ニキビダニは夜間に生殖活動を行い、新たに生まれたニキビダニもヒトの毛穴の内側に寄生します。
ニキビダニは毛穴の内側に寄生して一生を終えるため、外敵の影響をあまり受けません。このため、ニキビダニは外敵からの防御を度外視した方向に進化していることが推測されていました。そんなニキビダニのDNAを詳細に分析した結果、以下のような特徴が明らかになりました。

・ニキビダニの脚はわずか3個の筋細胞で動く
・ニキビダニの体を構成するタンパク質の種類は類似生物の中で最も少ない
・ニキビダニは「日光に応じて目覚める遺伝子」が欠落している
・ニキビダニはヒトが夜間に分泌するメラトニンを利用して夜間に生殖活動を活発化させている

また、一般的に寄生虫は発生の初期に細胞数を減少させるとのことですが、ニキビダニでは発生初期の方が成虫期よりも細胞数が多いことが確認されました。これらの研究結果から研究チームは「ニキビダニは寄生生物から共生生物に変化しつつある」と指摘しています。
さらに、これまでニキビダニは「肛門が存在しないため老廃物が体内に蓄積され、宿主の皮膚に炎症を引き起こす」とされていましたが、詳細な分析の結果ニキビダニには肛門が存在していると判明し、皮膚の炎症への影響が少ないことが示されました。研究チームの一員であるHenk Braig氏は「ニキビダニは多くの要因から非難されてきました。しかし、ニキビダニとヒトの長い付き合いは、ニキビダニに有益な役割を与えた可能性があります」と述べています。


・・・なんだか不思議な生き物ですねえ。

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ところ変われば、花粉も変わる〜フランス編〜

2025年03月30日 07時23分29秒 | 花粉症
前項目では北海道の花粉症を扱いました。
その特徴は、
・スギ・ヒノキは主役ではない、4月にスギが脇役程度に飛散。
・3〜4月はハンノキ
・GW前後はシラカバ
・夏はイネ科花粉
・秋はヨモギ
と本州と少し異なります。

海外の花粉症はどうでしょうか。
基本的知識として、スギは日本の固有種なので海外にはスギ花粉症は存在しません。
花粉症の発見はアメリカの枯草熱ですが、これはブタクサ花粉が原因とされています。
ではヨーロッパは?
私の知識では北欧中心にシラカバ花粉症が主役と記憶しています。

フランスの花粉症事情をあっ使った記事が目に留まりましたので読んでみました。
要約すると、

2月〜4月:北フランスやアルプス地方に樹木花粉(シラカバやヒノキなど)
5月〜7月:イネ科花粉(イラクサなどの干し草)がフランス全土に
8月〜10月:草本花粉(ブタクサなど)が南フランスを中心に飛散

とのこと。
スギに代わってやはりシラカバが主役、
あれ、北海道では名前が出てこなかったヒノキがありますね。
イネ科花粉はカモガヤではなくイラクサ、
秋の花粉は日本と同じくブタクサ。
まあ、ブタクサは観賞用として輸入された帰化植物なので、想定内です。

ちょっと意外だったのが、
フランスでは「花粉症」という単語はなくて、
「アレルギー性鼻炎」に含まれているということ。
有病率も日本の5割の半分程度なので、
まだ独立した病気として認識されていないのかもしれません。

この差はどうして生まれたのでしょう。
それを科学的に解明すれば、日本のスギ花粉症対策に一石が投じられるのでは?
と考えたくなる今日この頃です。


▢ スギはないけど…フランスの花粉症事情とは
2025年03月29日:tenki.jp)より一部抜粋(下線は私が引きました);
・・・日本では春になると、主にスギやヒノキの花粉が大量に飛散しますが、筆者が住むフランスでも花粉症を発症することはあるのでしょうか?
結論から言ってしまうと、フランスにも花粉症は存在します。
この記事では、フランスにおける花粉症について、原因となる植物、気象条件との関係、フランス人の花粉症に対する意識、などを日本と比較しながらお伝えします。

▶ フランスの花粉症って?主な原因植物と飛散時期
日本では、春に多く飛散するスギやヒノキの花粉症に悩まされている人が多いですね。
スギは年が明け、2月頃からシーズンが始まり、3月頃にピークを迎えます。ヒノキはスギよりもやや遅れて飛び始め、4月頃にピークを迎えます。
スギ・ヒノキ花粉のシーズンが終わると、5月〜6月頃は北海道でシラカバ花粉が、関東から九州にはイネ科の花粉が飛散します。
その他の季節にも、8月~9月頃は東北から九州でブタクサ花粉、9月~10月頃はほぼ全国でヨモギの花粉が飛散するなど、ほぼ一年中注意が必要です。
一方、フランスで主に影響を及ぼすのは、シラカバやイネ科植物、ブタクサといった花粉です。



2月〜4月頃は、北フランスやアルプス地方に樹木花粉(シラカバやヒノキなど)が多く飛散します。
春から初夏(5月〜7月頃)には、イネ科花粉(イラクサなどの干し草)がフランス全土に、夏から秋(8月〜10月頃)にかけては、草本花粉(ブタクサなど)が南フランスを中心に飛散します。[※1]
日本では春のスギ・ヒノキ花粉が最も影響を及ぼしていますが、フランスでは原因植物や時期に違いがありますね。
フランスはとても広いので、国内の地域によってもその影響は変わってきます。

▶ フランスと日本、花粉症の有病率と意識の違い
日本では、花粉症の有病率が年々増加しており、約10年ごとに10%程度ずつ増加しています。2019年の調査では、42.5%の人が花粉症にかかっているとされており、花粉症対策が社会全体で重要視されています。[※2]
一方、フランスでは花粉症は「アレルギー性鼻炎(rhume des foins)」と呼ばれ、一般的なアレルギーの一種として認識されています。
フランスでも花粉症を含むアレルギー性鼻炎の有病率は、過去30年間で4倍に増加し、現在では人口の25%以上が発症していると言われています。
ただこの数値は、花粉だけでなく、ダニや猫などを由来とするアレルギー性鼻炎も含んだ数値なので、花粉症の有病率はこれよりも少ないと考えられます。[※3]


日本と比べるとまだそれほど有病率が高くはないせいか、あまり花粉症が社会問題化しておらず、マスクをしている人もほぼいません。
これには、文化的にマスクをつける習慣がないことも挙げられますが、そもそもフランスの花粉が日本ほど大量に飛散しないことが影響しています。
私は小学生の頃から花粉症ですが、フランスに住み始めて以来、それほど花粉に悩まされない春を過ごしています。くしゃみや目のかゆみで花粉を感じる日もありますが、日本にいた頃とは比べ物にならないほどで、かなり楽です。ただ、フランスでも都市部を中心に年々増加傾向にあるそうなので、今後はどうなるのか油断はできませんね。

▶ 花粉の飛散と気象条件との関係
花粉の飛散は、気温、風、湿度、降水量などの気象条件に大きく影響を受けます。花粉が飛びやすい条件には、主に以下の3つが挙げられます。

① 「晴れて気温が高い日」
晴れて気温が高い日は、花も開きやすくなる上、上昇気流が発生しやすく、花粉が舞い上がりやすくなります。
② 「空気が乾燥して風が強い日」
湿度が高いと、花粉が湿気を吸って重くなるため、遠くまで飛びにくくなります。一方、空気が乾燥して風が強い日は、都市部から離れた森林からも花粉が飛んできやすくなるため、いっそう注意が必要です。
③ 「雨の翌日以降や気温の高い日が2~3日続いた後」
雨の翌日以降は、雨の日に飛散しなかった分と、その日に飛散する分が重なって、より多くの花粉が飛びやすくなります。さらに、雨で地面に落ちた花粉が舞い上がることもあり、いっそう飛散量が多くなるといわれます。また、気温の高い日が2~3日続いた後も花粉がより多く飛びやすくなります。

日本では、乾燥した晴天の日に花粉がよく飛ぶのに対し、湿度が高い梅雨時期には飛散が減少します。
また、春一番などの強風が花粉を遠方まで運ぶこともありますね。
一方フランス南東部では、ローヌ川沿いに地中海に向かって吹き下ろす、冷たく乾燥した強風「ミストラル」が吹くと大量の花粉が飛散する、とも言われているそうですよ。



▶ フランスの花粉症対策とは
フランスでも日本と同様に、薬局で購入できる抗ヒスタミン薬や点鼻薬などを使用しながら症状を抑える方法も一般的ですが、フランス人は、あまり薬に頼りたくないという考えの人も多いです。
そのような方は、花粉症の症状に効果があるとされるエッセンシャルオイルを使ったケアをしたり、喉に違和感を感じる場合は蜂蜜入りのハーブティーを飲むなど、より自然な方法を取り入れているそうですよ。・・・
また、フランスでは、アレルギーリスクに影響を及ぼす可能性のある空気中の生物学的粒子の含有量を研究する国立の機関「RNSA」が花粉飛散情報を発信しており、リアルタイムの花粉情報を確認することができます。・・・

<出典>
[※1]vidal.fr
[※2]厚生労働省
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ところ変われば、花粉も変わる〜北海道編〜

2025年03月30日 06時23分03秒 | 花粉症
日本ではスギ花粉症が席巻中です。
しかし目には見えませんが、
西日本ではすでにヒノキ花粉に入れ替わり、
関東地方でもスギ → ヒノキに入れ変わり中です。

関東地方の春の花粉症はGWくらいまでとされ、
それ以降も症状が続くときは、
カモガヤを中心としてイネ科花粉症が疑われます。

さて、同じ日本でも沖縄や島々ではスギ花粉はほとんど飛びません。
そのために重症花粉症患者向けに「花粉を避ける旅行」を提案している地域もあります。

北海道はどうでしょうか。
ここも昔からスギ花粉が飛ばないとされてきました。
が、ゼロではありません。
でもメインはスギ・ヒノキではありません。

それを扱った記事が目に留まりましたので紹介します。
記事の内容をまとめると、
北海道での花粉カレンダーは以下のようになります;

3〜4月:ハンノキ
(一部道南では4月にスギ)
5月:シラカバ
6〜7月:イネ科
9〜10月:ヨモギ

やはりスギは主役ではなく脇役なんですね。
あれ、ヒノキの名前がない!?
それから秋の花粉症の代表格、ブタクサもありません。
このように、本州とはカレンダーに登場する花粉が異なります。


▢ 「花粉症」の季節到来… 北海道で症状を引き起こす花粉は5種類 アレルギーの原因は“タンパク質”にあり
2025年3月29日:日テレニュース)より一部抜粋(下線は私が引きました);
・・・
【質問】「花粉症」の症状は出ていますか?
雪解けが進む札幌市。
(愛知県から来た人)「鼻水が止まらなくなるので鼻で息ができなくなる感じ」
(埼玉県から来た人)「北海道は思ったより感じないかなと思って来たんですけど、意外と鼻水が出ています。鼻がむずむずしてサラサラの鼻水もたれていつも鼻をすすっちゃう感じですね」
(千葉県から来た人)「寒いから花粉はないのかなと思ったら全然あって、ホテルでもやばかったよね、くしゃみ」
すでに花粉症に悩む人の声が聞かれました。

▶ はやくも花粉の季節到来… 飛散する時間帯の傾向は?
札幌にある道立衛生研究所です。
(宮永キャスター)「時間帯によって花粉が飛びやすいとかそういうものはないんですか?」
(道立衛生研究所 平島洸基さん)「やはり朝方の気温が上昇していくときにまず花粉が飛びやすいということと、あとは舞い上がった花粉が夕方にかけて下りてきますので、朝と夕方というのはそれなりに花粉が飛散しやすいと言われております」

▶ 肉眼では見えないほど小さい花粉… でも、症状を引き起こす原因は「花粉」ではない!?
実際に屋上で採取された花粉を見せてもらいました。
(道立衛生研究所 平島洸基さん)「・・・形や大きさは花粉それぞれ違うんですけれども、形状というよりは、中に含まれているタンパク質によって花粉症が引き起こされます」
さらに厄介なことがー
(道立衛生研究所 平島洸基さん)「例えばシラカバの花粉とハンノキの花粉というのは花粉症の原因になるタンパク質の構造が似ているなどがございますので、シラカバ花粉症の人が、ハンノキ花粉でも花粉症の症状が出てしまうといったケースがございます」
(宮永キャスター)「そうするとシラカバで最初に花粉症になった人は、もう今時期からハンノキにまた反応して症状が出る恐れがあるということですか?」
(道立衛生研究所 平島洸基さん)「そういう場合がございます。やはり花粉症は一旦発症してしまうとなかなか完治することは難しいと言われていますので、年々患者さんの数というのは増えていく傾向にあります」

▶ 北海道内で花粉症を引き起こす植物は5種類 カレンダーで見てみると…



道立衛生研究所の平島さんによりますと、花粉症を引き起こすと報告されている植物は、道内では5種類ほどあります。
ハンノキ、シラカバ、イネ科、ヨモギ、道南の一部ではスギです。
それぞれ飛散時期はハンノキが3月、スギも3月末ごろからといいます。
そしてシラカバが4月下旬から5月、イネ科のものが6、7月。
そのあと8月下旬から10月ごろにかけてヨモギ。
こうして見ると、雪がない時期は何かしら花粉が飛んでいる状況です。
2025年のシラカバ花粉の飛散予測です。



4月下旬ごろから5月の大型連休にかけてピークを迎えそうです。
飛散量は2024年と比べると半減する予想ですが、そもそも2024年の飛散量はここ10年で2番目に多かったので、平年比では80から120%程度の飛散量になると予想されています。
・・・

▶ 対処療法ではなく「根治」を目指すクリニックも。
医師の診察を受けるのは、札幌に住む小学校4年生の野口彰史くんです。
(野口彰史くん)「目とか鼻とかかゆくなって鼻水出たり咳出たりして。シラカバの花粉が出始める頃から4月から5月くらいまで」
彰史くんは2年ほど前からシラカバの花粉症に悩んでいるといいます。
その治療法は「免疫療法」です。イメージとしては、花粉のアレルギーを起こす成分を薬として注射し、体を徐々に慣らしていきます。
(アルバアレルギークリニック札幌 続木康伸院長)「うちだとシラカバとイネ科の治療薬をアメリカから輸入してるのでやることができる。ただ日本でこの治療できるところはほとんどないので、予約はかなり混んでます」
花粉ではスギだけが保険適用のため自由診療になりますが、このクリニックではシラカバとイネ科の花粉に対応した治療が可能です。
(アルバアレルギークリニック札幌 続木康伸院長)「5年で根治を目指す。ただ大体どれぐらいで薬の効果、要するに花粉症の時期になっても症状が出ないような状態になるのは、早い人で3カ月、長い人で半年~1年ぐらいという感じ」
クリニックによりますと、自由診療の注射の費用は初回におよそ5万円、そのあとは月1回、5千円程度だということで、国外では一般的な治療法だということです。
・・・

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小児疾患の遺伝子検査・診断・治療の進歩2025

2025年03月28日 05時30分18秒 | 小児医療
私が医師になった30数年前は“不治の病”だった疾患が、
その後の医学の進歩で“治療可能な疾患”になった例がいくつもあります。

“隔世の感”という表現がありますが、
まあ、私自身、結構長く医者をやってきたんだなあ、と感慨深くなります。

ただ、そのような疾患は遺伝性の代謝異常が多く、
私のサブスペシャリティであるアレルギー疾患にはありません。
あまり詳しく知る機会がないため、
あえて自分で情報を取りに行かなければわからない分野です。

そんな中、解説記事が目に留まりましたので読んでみました。

<ポイント>
・がんゲノム医療の対象は成人が大半を占めるのに対し、遺伝性疾患に対するゲノム医療は、小児が対象になる。今後ますます疾患メカニズムの解明が進むにつれ、ゲノム医療の適用範囲は拡大していく。
・先天異常は、生まれてくる赤ちゃんのおよそ3~5%に見られ、乳児死亡の大きな原因の一つ。
・日本では、過去10年間で「次世代シークエンサー」「NIPT(非侵襲性出生前遺伝学的検査)」「PGT-M(着床前遺伝学的検査)」「PGT-M(着床前遺伝学的検査)」「エクソーム解析」等、小児遺伝性疾患に関する診断や治療が大きく進歩した。
・日本では196種類の疾患に対する遺伝学的検査が保険適用で実施されている。
・遺伝子やゲノムを詳しく調べる解析技術の進歩で、原因不明の病気の約半分が遺伝学的に診断できるようになり、病気の原因がわかることにより、その子どもに合った健康管理や治療方針を具体的に立てられるようになった。治療については大きな進展があり、一部の遺伝性疾患では、診断が早ければ早いほど効果的な治療が可能となった。
(例)軟骨無形成症(手足が短く、低身長になる特徴を持つ先天的な骨の病気):これまで生後数年してから治療が始まる選択肢に限定されてきたが、最近では、出生後数か月でも使える薬が登場し、診断後早期からの治療により、成長をより早期から助けることが可能になった。
(例)脊髄性筋萎縮症(筋力が弱くなり体の動きが制限される遺伝性疾患):以前は診断に時間がかかり、治療の開始が遅れることが課題だったが、現在は、拡大新生児スクリーニング検査の対象にこの疾患を含める自治体もあり、これにより、生後間もなく遺伝子検査による診断を目指せるようになった。その結果、筋力低下を防ぐ治療が早期から可能となり、子どもたちの生活の質を大きく向上させることが期待されている。
・現在、約7,000種類の遺伝性疾患が知られているが、そのうち根本的な治療が可能なものは今のところ約200種類。
・診断を受けることに対して、不安や戸惑いを感じる方もいる。たとえば、「病気の名前がつくことでレッテルを貼られるような気がする」「治らない病気なら、診断する意味がわからない」という気持ちを抱えることもある。
・遺伝情報にはいくつか特徴がある。これらは、家族が診断を受けることに慎重となる要因にもなっている;
✓ 「原因を知りたい」と思う人にとって大きな助けになる。
✓ 現時点では根本的な治療法が見つかる可能性が低い。
✓ 知らなくてもよいと思っていた遺伝情報を予期せず知らされることもある。
✓ 家族全体に影響を与える可能性がある。
✓ 病気が将来発症するリスクを知る可能性がある。
✓ 一生変わらない情報である。

予想通り、日進月歩の分野ですね。
ただ、気になったのは、新しい医療技術が登場するときの宿命ですが、
「光と影」が発生すること。

私は30年ほど前、小児医療センターNICUに勤務していました。
医療技術の発達によりそれまで救命できなかった小さな赤ちゃん達が助かるようになった時代です。
肺胞サーファクタントの効果には目を見張るものがありました。
しかし一方で、救命はできたものの障害が残り、
自宅に帰れない赤ちゃん達もいました。

遺伝情報は病気の診断・治療に役立つことはもちろんですが、
似た遺伝情報をもつ家族に病気の影を投げかけることもあり得ます。
よかれと思って行った検査の結果を報告する際、
「知りたくなかった」
「知らなければよかった」
という反応が返ってくる可能性もあるのです。

その人の遺伝情報をすぐに全解明する技術の登場も間近。
その価値を生かすも殺すも、使う人間次第・・・ということになりますか。


▢ 小児遺伝性疾患に対する医療の過去・現在・未来~専門医が考える「紡ぐゲノム医療」とは?
2025.01.20:遺伝性疾患プラス)より一部抜粋(下線は私が引きました);

 ヒトゲノムが完全解読された今、遺伝子/ゲノム解析等を伴う「ゲノム医療」は遺伝性疾患の領域では欠かせない医療の一部となりつつあります。がんゲノム医療の対象は成人が大半を占めるのに対し、遺伝性疾患に対するゲノム医療は、お子さんが対象になる場合も少なくありません。また、今後ますます疾患メカニズムの解明が進むにつれ、ゲノム医療の適用範囲は拡大していくと予想されます。
 こうしたゲノム医療の進展に伴い、小児遺伝性疾患の診断や治療はどのように変わってきているのでしょうか?また、今後どのように発展していくと期待できるのでしょうか?小児遺伝性疾患と小児遺伝医療の「これまで」と「これから」について、東京都立小児総合医療センター遺伝診療部臨床遺伝科部長の吉橋博史先生に詳しくお話をうかがいました。・・・

ーー小児遺伝性疾患の診断や治療は、10年前と比べてどのように進歩してきていますか?

 10年前は、病気の原因がわからない子どもたちが多く、診断がつかないために、適切な健康管理や治療につながることが難しく、家族も不安を抱えながらの子育てが続いていたかもしれません。当時、一度にたくさんの遺伝子を調べることができる「次世代シーケンサー」という機器が、先駆的な大学病院やセンター病院の研究室で導入され、臨床の現場でも実装に向けて経験を積みはじめた頃でした。しかし、研究目的で次世代シーケンサーを利用できる施設は限られているうえに、研究目的にかなう条件を満たした方しか参加できないため、遺伝性疾患が疑われたとしても、遺伝学的に診断することは容易ではありませんでした。そのため、「いま検査するのは難しいのですが、5年後、10年後には環境が変わると思うので、そのとき、また考えましょう」と患者さんに説明し、将来の見通しをお伝えするにとどまることも少なくありませんでした。
 日本では、過去10年間で小児遺伝性疾患に関する診断や治療が大きく進歩しました。2013年には、国内で妊婦血液を用いて胎児に染色体疾患(21トリソミー、18トリソミー、13トリソミー)があるかどうかを調べる検査「NIPT(非侵襲性出生前遺伝学的検査)」の臨床研究が始まりました。当時、さまざまな議論が起こる中、こども病院でも家族からの相談を受ける機会が増えました。2022年には、出生前検査認証制度等運営委員会が認めた地域の医療機関等が窓口となっています。
 また、2015年には、「小児未診断疾患イニシアチブIRUD-P)」という取り組みがはじまりました。このプロジェクトでは、原因がわからない病気を持つ子どもの遺伝子を全て調べることで、原因の特定や、新しい病気の発見を目指しています。さらに、2019年には、「Priority-i」という新しい取り組みが開始されました。このプロジェクトでは、重い病気をもつ新生児について、ゲノム(体の中にあるすべての遺伝情報)を迅速かつ正確に調べることで、治療法につながる病気の早期発見を目的としています。遺伝子やゲノムを詳しく調べる解析技術の進歩で、原因不明の病気の約半分が遺伝学的に診断できるようになりました
 こうして病気の原因がわかることにより、その子どもに合った健康管理や治療方針を具体的に立てられるようになりました。その結果、その時点で利用可能な最善の医療の準備や、日常生活の質を向上させる支援が可能になりました。これらの取り組みは、形を変えて2025年現在も続いており、多くの家族にとって希望となっています。
 特に、治療については大きな進展があり、一部の遺伝性疾患では、診断が早ければ早いほど効果的な治療が可能となっています。たとえば、軟骨無形成症(手足が短く、低身長になる特徴を持つ先天的な骨の病気)では、これまで生後数年してから治療が始まる選択肢に限られていました。最近では、出生後数か月でも使える薬が登場し、診断後早期からの治療により、成長をより早期から助けることが可能になりました。また、脊髄性筋萎縮症」という、筋力が弱くなり体の動きが制限される遺伝性疾患では、以前は診断に時間がかかり、治療の開始が遅れることが課題でした。しかし現在は、拡大新生児スクリーニング検査の対象にこの疾患を含める自治体もあり、これにより、生後間もなく遺伝子検査による診断を目指せるようになりました。その結果、筋力低下を防ぐ治療が早期から可能となり、子どもたちの生活の質を大きく向上させることが期待されています
 現在、約7,000種類の遺伝性疾患が知られていますが、そのうち根本的な治療が可能なものは今のところ約200種類と言われています。しかし、新しい治療法が生まれた疾患では、診断が治療への大切なステップとなり、子どもの未来に希望をもたらすものとなっています。

ーーゲノム医療の進歩が、遺伝性疾患を持つお子さんとその家族の希望につながった具体的な事例があれば教えてください

 ゲノム医療の進歩によって、これまで診断が難しかった病気の原因がわかるようになり、診断率が向上しています。ある事例では、体のいくつかの部位に先天的な異常があり、知的な発達の遅れが見られる高校生が、長年にわたり原因不明という状況にありました。その家族は「どうしてこのような状況になっているのか」を知りたいと考え、未診断疾患の解明を目指す「IRUD」(アイラッド、未診断疾患イニシアチブ)に参加しました。数年後、この病気が「突然変異」で遺伝子の変化が生じ、発症した希少疾患であることが判明しました。
 この病気は報告の少ない希少疾患で、詳しい健康管理の在り方や日常生活の様子に関する情報が乏しく、有効な治療法もありませんでした。それでも、原因が判明したことに家族は安堵された様子でした。「診断がつかないまま17年間も迷い続けていました。やっと原因があることが分かり、本当に良かったです。これでこの子を説明しやすくなりました」と話してくださいました。
 また、病気の原因が突然変異のため親や家族の責任ではないことや、きょうだいの将来の家族に遺伝する可能性がないことを知り、根拠のない自責の念から解放された様子もみられました。その結果、家族全体が気持ちを前向きに切り替えることになりました。
 一方、診断を受けることに対して、不安や戸惑いを感じる方もいらっしゃいます。たとえば、「病気の名前がつくことでレッテルを貼られるような気がする」「治らない病気なら、診断する意味がわからない」という気持ちを抱えることもあります。こうした思いは、ごく自然なものです。
 遺伝情報には、いくつか特徴があります。たとえば、以下のような点が挙げられます:家族全体に影響を与える可能性があること。病気が将来発症するリスクを知る可能性があること。一生変わらない情報であること。これらは、家族が診断を受けることに慎重となる要因にもなっています
 確かに、遺伝子検査やゲノム医療の進歩は、「原因を知りたい」と思う人にとって大きな助けになります。ただし、現時点では根本的な治療法が見つかる可能性が低いことや、知らなくてもよいと思っていた遺伝情報を予期せず知らされることもあります。そのため、検査を受ける前に「家族が今、何を知りたいのか」をじっくり伺うことはとても大切です。これは、患者さんや家族が自分たちにとって何が必要なのかを考える良い機会にもなります。
 さらに、家族が「希望」を感じられるポイントは、子どもの病状や家族の状況によっても異なると思います。お子さんが小さいうちは、子どもの成長や治療後の様子が気になると思います。お子さんが成長されると、将来の生活設計や他の家族への遺伝的な影響が心配になると思います。診断により見通しがつく可能性はありますが、その意義が家族に染み入る時機の診断でないと、希望につながらないこともあるので注意が必要です。
 ゲノム医療の進歩によって得られる「希望のかたち」は本当にさまざまです。家族が語るその時々の気持ちや考えを、真摯に受けとめることが大切です。

ーーこうした小児遺伝医療の進歩の中で、認定遺伝カウンセラー(R)の役割もますます重要になってきているのでしょうか?

 はい、こうした小児遺伝医療の進歩により、医療現場では「認定遺伝カウンセラー(R)」(以下、遺伝カウンセラー)の役割がますます重要になっています。遺伝カウンセラーは、子どもだけでなく妊娠中の家族や成長後の大人も含め、家族全体を幅広く支援しています。たとえば、妊娠中や赤ちゃんが生まれた直後に、遺伝性疾患の可能性が疑われることがあります。このようなとき、遺伝カウンセラーは家族の不安に寄り添いながら、遺伝に関する情報をわかりやすく整理し、次のステップを考える支援をしています。また、「NIPT(非侵襲性出生前遺伝学的検査)」など出生前検査について相談を受けたり、最近は重い遺伝性疾患の原因となる遺伝子を受精卵の移植前に調べる「PGT-M(着床前遺伝学的検査)」に関する相談にも対応することがあります。こうした場面では、遺伝カウンセラーは家族の状況を理解し、倫理的な課題にも配慮しながら、中立的な立場でのサポートを心掛けています。
 さらに、原因がわからない病気を持つ子どもの診断を目指す家族には、全ての遺伝子を詳しく調べる「エクソーム解析」が検討されます。この検査は結果が出るまでに数か月以上かかることが多く、結果がわかるまでの家族の不安や悩みにも対応します。報告の少ない希少疾患であることが多いので、疾患情報を集めたり、家族が孤立感を深めることのないよう同じ境遇にある家族がいないか、探すお手伝いをすることもあります。また、遺伝性疾患をもつ子どもが成長すると、小児医療から成人医療に移るときのお手伝い「トランジッション」があります。このとき、疾患に対する子どもの理解度を確認したり、疾患の受け入れや遺伝に関する悩みを丁寧に聞き、心理的な支援を行っています。
 このように、遺伝カウンセラーは、診断を受けるまでの過程やその後の人生において、家族や本人を支える大切な存在です。小児遺伝医療の進歩に伴い、遺伝カウンセラーの役割は多様化し、医療と家族をつなぐ架け橋として活躍していくことでしょう。

ーー小児遺伝医療の分野で、日本が世界をリードしていることや、逆に遅れていることがあれば教えてください

 小児遺伝医療は、生まれつきの異常や病気(先天異常)の研究や治療において、特に注目されている分野です。先天異常は、生まれてくる赤ちゃんのおよそ3~5%に見られ、乳児死亡の大きな原因の一つとされています。そのため、小児医療における重点疾患のひとつと位置づけられています。日本の1歳未満の乳児死亡率は1.8(2022年:出生数千人あたり)であり、世界総計(27.9)と比べても非常に低いことで知られています。これは、新生児や小児向けの高度な集中治療技術、公的医療費助成制度の充実、さらに地域社会や医療従事者が協力して子どもと家族を支援してきた成果と考えられます。遺伝性疾患を持つ子どもにおいても同様の恩恵が受けられていると思います。
 一方で、いくつかの課題もあります。たとえば、小児期には医療費の助成等を受けられても、成人期以降にはその支援が引き継がれない疾患があります。遺伝性疾患を持つ患者さんが成長した後も、継続して支援が得られる仕組みを整える必要があります。また、日本でも「トランジッション」の活動は徐々に普及していますが、複数の症状を持つ遺伝性疾患の患者さんでは、先天異常に馴染みが少ない成人診療科との診療連携が難しいこともあります。
 このように、日本は小児医療の質が非常に高いため、遺伝性疾患を持つ患者さんを生涯にわたって支える体制をさらに強化することで、世界のモデルとなる可能性を秘めています。たとえば、医療と福祉が一体となった支援や、患者さんとその家族が安心して相談できる場所の整備などです。そして、遺伝医療に関する経験を有する医療者や遺伝カウンセラーの育成も、より質の高い小児遺伝医療を提供するうえで欠かせません。これらの取り組みを推進することで、遺伝性疾患を持つ子どもとその家族が、どのライフステージでも安心して医療を受けられる社会が築かれるものと、期待しています。
 また、全ゲノム解析技術が普及し、日本人の標準的な遺伝情報をまとめたデータベース「日本人全ゲノムリファレンスパネル60KJPN)」というものが研究者に向けて公開されています。このデータベースは、日本人約6万人分の遺伝情報を基に作られており、病気の原因解明や新しい薬、遺伝子治療の研究に広く役立つものです。特に、日本人特有の遺伝的特徴を考慮した診断が可能になり、より正確な診断や安全な治療薬の開発にもつながります。このデータベースは日本国内だけでなく、世界中の医療研究にも活用され得るもので、日本人のデータを通じて、病気や治療に関する新しい発見が、国際的な医療の発展につながるかもしれません。日本人全ゲノムリファレンスパネルは、私たちの健康を守り、未来の医療を大きく前進させる重要な鍵になると期待されています。
・・・
 令和6年度、日本では196種類の疾患に対する遺伝学的検査が保険適用で実施されています。一定の条件を満たせば、1回の採血で複数の遺伝子疾患を調べることも可能となりました。これにより、より多くの患者さんが遺伝学的な診断を目指すことができる時代となりました。しかし、遺伝学的検査の説明で伝えるべき情報量は増え、内容も複雑化しました。検査結果を説明するときも、高い専門性や臨床的な解釈が求められる場面が増えており、診療科や職種を超えた連携の必要性が高まっています。たとえば、2022年には「出生前コンサルト小児科医(日本小児科学会)」という称号がつくられました。NIPTをはじめとする出生前検査について、検査を受けるべきかどうか悩む妊婦さんや、検査を受けた後のさまざまな相談に、認定を受けた小児科医が対応しています。このような横断的な取り組みは、患者さんとその家族を多職種連携で支える一歩を示しています。・・・

ーーそうした同じ立場の専門家の方々の連携により、新たに始まっている取り組みなどあれば教えてください

 希少疾患の患者さんと家族を支援するウェブ上の新しいシステム「GENIE(ジーニー)」をご紹介します。GENIEは、希少疾患を持つ子どもと家族が抱える情報不足や孤立といった課題を解消するため、同じような経験を持つ家族が出会い、支え合う「きっかけづくりの場」としての取り組みです。
 このシステムは、2023年、有志の医療施設が協力して開設、現在では北海道から九州まで9施設が参加するネットワークに成長しました。オンライン会議ツールを活用し、地域の壁を越えた希少疾患の患者さんの仲間づくり「ピアカウンセリング」の実現を主な活動としています。これまでに医療スタッフも参加して2回のウェブ交流会が実施されましたが、笑顔で楽しそうに交流して下さる家族の様子に、手ごたえを感じています。
GENIEによる活動は、参加施設の医療スタッフが正確な診断の大切さを再認識する、貴重な機会となっています。小児遺伝医療に携わる医療スタッフの学びと経験を深め、さらに支援の質を高めていくことができたらと思います。この取り組みが、診療の枠組み、施設間や地域の壁を越えて、希少疾患を持つ患者さんと家族をつなぐ一つの「モデル」として、今後さらに発展していくことを期待しています。

ーー同学術集会テーマの下で「多様なこどもと家族のウェルビーイングを目指す」とありますが、ここで最も重要な要素は何であると先生はお考えですか?

 「ウェルビーイング(well-being)」とは、長く続く幸福感や満足感を意味します。この考え方を、小児遺伝医療の現場でどのように実現できるかを考えることが、大会テーマである「多様な子どもと家族のウェルビーイングを目指す」の大切なポイントです。
 遺伝医療を通じてウェルビーイングを実現するためには、いくつかの要素があると考えます。その中でも、患者さんや家族が「自分たちで決めた」と納得できることは、安心感や満足感が長く続くことを目指す意味で、特に大切だと思います。そのためには、医療者が、検査や治療についての選択肢をわかりやすく伝えること、家族の状況や考え方を深く理解すること、子どもや家族が「自分らしい選択」をできるよう意思決定の過程を支えること、などのサポートが重要と考えます。
 今回の大会では、「家族のウェルビーイングを支えるためのサポートとはどのようなものか」を、様々な講演を通じて、診断や治療の先にある、より良い支援の在り方をと一人ひとりの役割について考えてみます。

ーー小児遺伝医療では家族がお子さんの代わりに意思決定をすることが多いと思いますが、お子さんが成長した際にその決定をすんなり受け入れることができるのでしょうか?

 小児遺伝医療では、家族が子どもの代わりに意思決定を行うことが多々あります。そのため、将来子どもが成長したときに、その決定に納得できるよう、医療者側もサポートすることは大切です。
 たとえば、子どもがまだ小さく物事を理解できない時期に遺伝学的検査を受ける場面では、その検査でどのような情報が得られるのか、また、将来的にどのような課題が生じる可能性があるのかを、丁寧に説明しておく必要があります。
 子どもが成長し、自分自身の「いま」や「これから」について考えるようになったとき、家族が過去にした意思決定をどのように受け止めるかは、さまざまな要因に影響されると思います。たとえば、家族と医療者がどのように協力して子どもの成長を見守ってきたか、どのような雰囲気のもと疾患が語られてきたか、家庭内で疾患名、検査、治療について子どもに向けて説明されてきたか、などです。こうした要素が積み重なることで、成長した子どもが家族の決定に納得し、自分自身の選択肢として受け入れやすくなるかもしれません。
 また、子どもが成長したときに、その家族が胸を張って経緯を説明できる親子関係があることも大切です。医療者は、こうした親子の絆を支える役割を果たせるかもしれません。たとえば、子どもが成長し、物心がついたときに、医療者が「お母さんもお父さんも、あのとき一生懸命に考えてくれたんですよ」と伝えることで、家族の気持ちを代弁することができます。こうした言葉は、子どもが自分の病気や健康について理解を深め、「自分にとっての幸せや健康とは何か」を考えるきっかけになることがあります。
 医療者としては、こうしたサポートが子どもや家族にとって大きな励みや支えとなり、成長や将来の選択を後押しできることを願っています。

ーー遺伝性疾患を持つ子どもの多様性を尊重しつつ適切な医療を提供するためには今後どのような取り組みが必要でしょうか?
 
 「みんな違っていて、それでいい」という考え方は、遺伝医療で多様性を説明するとき、とても大切な考え方です。遺伝性疾患も、人の多様性の一部として認識しているからです。
 それに取り組む場面としては、成人医療への移行の期間を活用することが効果的と考えます。この移行支援では、子どもが自分の体や疾患について理解し、自分で健康を管理し社会で活躍するための支援をしています。当院では、中学生ごろから、その子自身に「自分の体質や病気はどのようなものか」を少しずつ説明します。そして、高校卒業までの間に、さまざまな専門職が関わりながら、外来診療を通じて理解を深めるサポートをしています。このような取り組みは、成人医療に移行した後も安心して治療を続け、健康を維持していくために欠かせないものだと考えています。
 また、遺伝性疾患を持つ子どもから、「自分の病気を広く知ってもらうために、自分で情報をSNSなどで発信したい」と、相談を受けることもあります。こうした想いは、遺伝性疾患や希少疾患への正しい理解が広がり社会啓発につながる可能性があります。小児遺伝医療では、こうしたデジタル世代の子どもたちを多面的に支えていく役割も、今後求められていくかもしれません。遺伝性疾患を持つ子どもたちが「自分らしさ」とともに、安心して生活できる環境がさらに広がっていくことを願っています。

ーー今後10年間で、小児遺伝医療はどのように発展していくと予想されますか?

 これからの10年間で、小児遺伝医療は多岐にわたり大きく発展していくと思われます。日本では、遺伝子やゲノム情報を医療に役立てるための技術や体制の整備が進むものと予想します。
 たとえば、ゲノム解析技術が進むことで、DNAの情報(設計図の文字)をより速く、安く調べられるようになるでしょう。また、日本人特有の遺伝情報を集めたデータをAI(人工知能)が活用することで、病気の原因をより早く特定できるようになるかもしれません。さらに、DNAの変化が体にどう影響するのかを調べる技術が進めば、これまで原因がわからなかった病気の解明や新しい治療法の開発が進むことが期待されています。
 生活習慣病など、複数の遺伝子や生活環境が関係する多因子遺伝病では、子どもの頃からリスクを予測して、予防に役立てることも可能になるかもしれません。もし突然お子さんが亡くなるような事態が起きたときも、遺伝情報を調べることでその原因がわかり、残された家族の健康管理や次のお子さんのリスク予測に役立つ可能性があります。さらに、遺伝子治療が進むと、これまで治療が難しかった病気でも効果的に治療できることが予想されます。
 そして、このようなゲノム医療の進歩を生かした小児遺伝医療を発展させるには、遺伝性疾患に詳しい専門家の育成も欠かせません。遺伝情報を扱う医療では、高い知識や技術だけでなく、倫理的・社会的な課題への対応も求められます。さらに、遠隔診療などでデジタル技術を活用すれば、地域を越えた専門家による医療支援が進み、医療全体の質の向上にもつながるはずです。現在、日本には臨床遺伝専門医が約2,000名、認定遺伝カウンセラーが400名以上います(2025年1月時点)。また、2022年からは難病のゲノム医療に特化した専門職を育成するプログラムも始まり、専門家の数や質がさらに充実することが期待されています。
 最後に、病気を診断・治療するだけでなく、患者さんや家族が健康で豊かな生活を送れるように支えることも遺伝医療の目標の一つです。そのため、病院だけでなく、行政、患者会、家族会、さらにはメディアとも協力し、患者さんや家族が暮らしやすい環境を整えていく必要があります。そして、技術が進歩し社会が変わっても、「心」を大切にした医療の必要性は変わりません。特に小児遺伝医療では、患者さん本人だけでなく家族全体を支える視点が求められます。遺伝医療が患者さんと家族、そして社会全体の幸福や健康(ウェルビーイング)につながるように、遺伝情報を正しく活用し、さまざまな診療科や職種と連携しながら、より良い未来を築くことに貢献できればと思います。

ーー最後に先生から遺伝性疾患プラスの読者に一言お願いします

 小児遺伝診療部門では、子どもと家族の「その人らしさを大切にする医療」を提供しています。遺伝に関する話を、病院で相談するのを少し不安に感じられることもあるかもしれません。患者さんと家族の抱える心配や不安に寄り添い、「その人らしい」生活をサポートしていくことが役割と考えています。ちょっとした疑問や心配事でも構いませんので、「こんなこと聞いてもいいのかな?」と思ったら、是非ご相談ください。一緒に考えていきましょう。・・・
 

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昼食後に眠くなる人は「血糖値スパイク」を起こしている

2025年03月26日 09時32分56秒 | 糖質制限
私自身、お昼ご飯を食べた後に眠くなるタイプです。
昔はずっと「夜の寝不足の影響」と考えてきました。

しかし今を去ること四半世紀前、
某製薬会社の漢方セミナーで、
「昼食後に眠くなる人は“気虚”です、
 補中益気湯が効きます」
と聞いて、
「そんなものかな?」
と実際に自分で試してみました。

すると明らかに眠気が軽減したのです。
このエピソードは、私が漢方沼にはまるきっかけになりました。

その後、糖質制限・炭水化物制限のブームが到来、
食後の眠気は「食後の血糖値スパイクのためである」、
と説明されるようになりました。

この考え方によると、
炭水化物中心の食生活からタンパク質・脂質中心の食生活に切り替えると、
食後の眠気が減ることが期待されます。

かく言う私、すでに5年以上「炭水化物制限」をしています。
ただ、厳格ではなく、かなり緩い制限です。
具体的には主食の穀類(ご飯、パン、パスタ、麺類)を食べないだけ。
天ぷらの衣や、とんかつの衣は食べます。
ストイックな人は、揚げ物の衣も外すらしいのですが、
そこまで食べることの楽しみを我慢する気はありません。

でもそのおかげか、
ロカボ(炭水化物制限)を始めてから今日にまで、
体重は標準体重付近で安定しています。

肝心の「食後の血糖値スパイクがないから眠気がない」点に関しては、
補中益気湯での経験ほど明らかには感じていません。

ただ、満腹感とか胃もたれが皆無なので、
食後もすぐに動けます。
「お腹いっぱいで動けない〜」
という表現は炭水化物によるものだったのです。

正体不明の食べ物を食べたとき、
食後の胃もたれ感で私は炭水化物の含有量がなんとなくわかるようになりました。

さて、「午後の耐えられない眠気」という名前の記事が目に留まりました。
私の知識以上の情報があるかどうか、読んでみました。


▢ 仕事がデキない人に共通する「午後の耐えられない眠気」、原因は“残念な食習慣”にあった!
山田 悟:北里大学北里研究所病院院長補佐・糖尿病センター長
柳本 操:フリーライタービジネス課題間違いだらけの「休み方」
2025.3.25:DIAMOND online)より一部抜粋(下線は私が引きました);

 疲労のせい、寝不足のせい、と思いがちな昼食後の猛烈な眠気やだるさは、血糖値の乱高下による「糖質疲労」が原因かもしれない。

▶ ランチの後にいつも眠くなる…大事な仕事は入れたくない
「午後イチには、大事な会議や打ち合わせを極力入れないようにしています」
・・・Cさんのここ数年の悩みが「昼食後の眠気と倦怠感」・・・
「いつも昼食後には眠くなってしまうんです。頭がぼうっとするだけではなく、体もだるくなることがあります。早めに回復すれば良いのですが、夕方過ぎまでダルさが残ることもあって、困っています」
 週に3、4日は夜に会食が入っているので、朝と昼は手軽な食事で済ますことが多いというCさん。朝はギリギリまで寝ているので、出勤途中におにぎりや菓子パンなどを買ってデスクで食べることが多い。
「昼食はゆっくり食べている時間がないので、うどんやパスタ、丼ものなど単品が多いですね。食べると眠くなるので抜いたりもしてみましたが、やはり夕方にお腹が空いてしまって仕事どころじゃなくなっちゃって(笑)」
 午後の眠気に対する解決法は未だ見出せず、「これはヤバい」というときは栄養ドリンクを飲んで無理やり目を覚ますのが、目下の対策だ。
 Cさんのように「毎日決まって」とまではいかなくても、昼食後に眠くなって、午後は仕事のパフォーマンスが低下するというビジネスパーソンは少なくないだろう。
 令和元年「国民健康・栄養調査」(厚生労働省)によると、週3回以上「日中、眠気を感じた」人は男性32.3%、女性の36.9%を占め、日中の眠気は「睡眠の質」についての悩みのうち最も多い。
 日中の眠気は、寝不足だけでなく、血糖値が乱高下する「血糖値スパイク」が原因の可能性もある。しかもこの血糖値スパイクは、通常の健康診断では発見できない。食後の血糖値乱高下による眠気や疲労感といった不調を「糖質疲労」として問題視するのが、北里大学北里研究所病院院長補佐・糖尿病センター長の山田悟氏だ。
 そもそも山田氏が「食後の眠気」に着目したのは、糖尿病治療で糖質摂取を緩やかに制限する食事法(ロカボ。詳しくは後述)を指導した患者から「食事を変えたら昼間の眠気やだるさがなくなった!」という声が多く寄せられたことがきっかけだったという。

▶「低血糖状態」の予兆として眠気やだるさ、イライラが起こる
 血糖値が上がりにくくなると眠気が消える――その理由はどこにあるのか。
 食事をすると、食事に含まれる糖によって血糖値が上昇する。健康な人であれば、すい臓から分泌されるインスリンの働きによって、食後1~2時間後の血糖値は140mg/dlを超えることなく下がる。しかし、糖質を取りすぎる、インスリンが適切に働かない、といった理由から食後に血糖値が急激に上がり、140mg/dlを超えると、その反動で急激に下がる人がいる。グラフにすると血糖値の乱高下が鋭く尖った形になることからこの現象を「血糖値スパイク」と呼ぶ(下図)。

【食後2時間の血糖値はどう変化する?】


「低血糖は、冷や汗や手足の震え、意識障害などが起こる危険な状態です。低血糖状態にならないように、その予兆として起こるのが、眠気やだるさ、イライラ、飢餓感といった自覚症状です」
 低血糖状態の予兆として起こる、このような「糖質疲労」の症状は、ある意味では生き物としての正常な反応だ。
「『今は動くのをやめろ、眠れ』という脳からの命令によって眠気やだるさが起こります。さらに『今すぐ糖を摂取して血糖値を上げろ』という命令によって、何かを食べなきゃと空腹感が強まる。また、自律神経の交感神経系が優位になるために、イライラ感が生じると考えられます」
 眠くなったらプチ昼寝をすればすっきりするから大丈夫と思うかもしれないが、糖質疲労を放置するのは危険だ。
食事のたびに血糖値スパイクを起こしていると、血管に慢性的に負担がかかり、動脈硬化、糖尿病といった病気の発症リスクが高くなります

▶ 健康診断で血糖値は正常でも「問題あり」の可能性
 昼食後眠くなって小腹が空くので「手近にある甘いものを食べ、エナジードリンク(糖質が多く含まれる)で眠気を覚まそうとしている」という人は、さらなる血糖値スパイクを招く可能性があるので、要注意。なお、多くの人は昼食から1~2時間後に糖質疲労を感じるが、朝食後に血糖値スパイクが起こっている人も一定数いる。
出勤時に必ず電車で居眠りをする、という人は、朝食後の血糖値スパイクが原因かもしれません」
 健康診断のときに血糖値の項目で引っかかったことがないという人も、「一度は食後高血糖が起こっていないかどうかを確かめるべき」と山田氏は警告する。
「健康診断で調べているのは、空腹時血糖値(正常110mg/dl未満)で、文字通り空腹時に測っています。一方、食後高血糖は、食後の血糖値の上がり幅が大きく140mg/dlを超えることを言い、健康診断の数値からは判断ができません。近年の研究で、空腹時血糖値が異常になるのは糖尿病発症の1~2年前であるのに対し、食後高血糖は空腹時血糖値が異常となる10年ほど前から始まると考えられています」
 つまり、食後高血糖は10年先の糖尿病の発症を予測する重要なサインともいえる。中国で10万人を対象にした大規模研究では、成人の2人に1人が食後高血糖を起こしていた(JAMA. 2017 Jun 27; 317(24):2515-2523.)。山田氏は、日本人も同様の状態であると推測している。
 実は、食後高血糖を手軽にチェックできる方法がある。薬局やドラッグストアで「検体測定室(ゆびさきセルフ測定室)」の表示があるところを探そう。500円ほどの費用負担で、自分で指先から採取したわずかな血液を分析し、数分から10分程度で血糖値を確認可能だ。
「例えば、おにぎり2個と野菜ジュース1パックを取ると、合計の糖質量が100gほどとなり、典型的な日本人の1食程度の糖質量になります。これらをセットで食べて、食べ始めから1~2時間のタイミングで血糖値を測定してみましょう。食後の血糖値が140mg/dL以上であれば食後高血糖と推定されます。200mg/dLになるようであれば糖尿病の可能性があるのでなるべく早く医療機関を受診してください」

▶ 糖質過多の食事だけでなく日々のストレスも原因に
 食後高血糖を招きやすいのは、当然ながら「糖質の多すぎる食事」だ。丼ものや麺類を食べることが多い、間食で甘い食べ物や飲み物を取ることが多い、また、早食い傾向にある人も血糖値が上昇しやすい。今夜は残業だからしっかり食べよう、と、いつもの定食にミニ丼やうどんを追加するなどの“糖質ダブル食い”をした日は決まって午後の会議で猛烈な眠気に襲われる、という人はまさにこのタイプといえる。
 加えて、私たちが日々感じるストレスも血糖値を上昇させる要因になる。
ストレスフルな環境は、自律神経の交感神経を優位にします。これらは、カテコラミンやステロイドホルモンといった血糖値上昇に関わるホルモンの分泌を高め、日常的に血糖値が上がりやすい状態になります
  では、食事を改善すれば、昼間の眠気は減るのだろうか。山田氏は、メタボリックシンドロームまたは肥満のタクシー会社運転手とコンビニエンスストア従業員101人を対象に、食事から取る糖質量を抑える研究を実施した。1回の食事の糖質量を40g以内におさめ、おかずなどはおなかいっぱい食べて良いとする「ロカボ(Low carbohydrate)食」を続けてもらった結果、3カ月後に、平均体重が減少、肥満指数(BMI) が低下、糖尿病の指数であるHbA1cが減少、LDLコレステロールが低下。また、睡眠時無呼吸症候群(※)の指数(AHI)が大幅に改善する、という結果が得られたという(Diabetes Metab Syndr Obes. 2021 Jun 23;14:2863-2870.)。
「被験者のタクシー運転手さんにアンケートを取ったところ、運転中の眠気が減った方が3分の2を占めていました。少なくともその一部は食後高血糖が改善されたためと考えています」

▶ まずは朝食を見直すことから 糖質疲労を起こさない「食べ方」とは?
 血糖値スパイクを起こさず、昼間眠くならない「ロカボ」な食べ方とは具体的にどのようなものか。
〈ロカボ食の実践法〉
・1食あたりの糖質の目安量=20~40gに
 ごはんなら軽く半膳、食パンは8枚切り1枚が目安。
・おかず、特にタンパク質と脂質はしっかり取る。主食は最後に食べる「カーボラスト」で
 おかずに含まれるタンパク質と脂質、食物繊維は血糖値上昇にブレーキをかけ、満腹感を長続きさせるので、おなかいっぱい食べる。これらのおかずをなるべくゆっくり食べ、最後(目安は食事開始から20分後)に主食(糖質)を取る「カーボラスト」にすると、糖質が控えめの量でも十分に満足できる。毎食、満足する量を食べることが、ストレスをためずにロカボを続ける秘訣だ。
・糖質量がオーバーしなければおやつもOK!
 大福などの和菓子は内側も外側も糖質でできているので小サイズのものにしよう。一方、洋菓子は生クリームやバター、クリームチーズなどの脂質によって血糖値上昇が抑えられるメリットも。市販の低糖質おやつ(ロカボマークがついている)も利用しよう。
「朝食で血糖値を上げすぎて血糖値スパイクを起こすと、空腹感に抗えずに昼食で糖質がたくさん欲しくなり、さらなる血糖値スパイクを招きます。昼食も大事ですが、朝食で血糖値を上げないことも大事です」
 ちなみに山田氏の休日の朝食は、卵3つで作るチーズたっぷりオムレツ、ツナサラダ(オリーブオイルをたっぷり)、ブランパン(バターたっぷり)、無糖高脂肪ヨーグルト、ナッツ、コーヒーが定番。
 「タンパク質と脂質はたくさん取りましょう、とお話すると、高脂質な食事は健康を害するのでは……、と戸惑う方がいらっしゃいます。しかし、脂質を怖れないでください。肉や魚など脂質が豊富な食事を取ると、満腹感を高めつつ血糖値上昇を抑える消化管ホルモンの分泌が高まり、空腹を感じにくくなります。一方、脂質を怖れて摂取を控えると、満足感が減り、結果的にお腹が空きやすくなってしまいます
 昼食後の眠気やだるさに悩んでいるという人は、前述のように、ぜひ一度、食後の血糖値をチェックしてみよう。
「もし食後血糖値が正常であれば、睡眠不足や過労など生活面での見直しを。睡眠時無呼吸症候群などの別の病気が原因の可能性もあります。食後高血糖が判明したら、ふだん取る糖質を控えてみましょう。そのとき、くれぐれも『これからは糖質を我慢だ!』などと思わないこと。糖質を控える分、タンパク質と脂質が豊富な食事をしっかり取るよう心がけると、血糖値上昇にブレーキがかかり、午後もしゃきっと過ごせるはずです」
 糖質の取り方を見直すことで、体を「血糖値スパイク」という見えない負荷から解放できる。日々の食事も、仕事の質を高めるための重要な武器になる。


・・・まあ、私の知識の範囲でした。
 また、脂質についての疑問も解消しませんでした。

世間一般では「脂を食べると体脂肪になる」と思われていますが、
近年、「食べる脂と体の脂肪は別物」と説明されるようになり、
「体の脂肪は糖質・炭水化物の取り過ぎが原因」
という説が世界標準です。

しかし日本の糖尿病栄養指導では相変わらず、
「カロリー制限」「バランス食」
が継続されており、私の「?」はそのままです。

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“ペイハラ”にイエローカードを?

2025年03月21日 08時53分16秒 | 医療問題
近年、“カスハラ”(カスタマー・ハラスメント)という言葉をよく耳にするようになりました。
周囲から「カスハラで退職した」という話も聞いたことがあります。

さて、医療機関におけるカスハラは“ペイハラ”(ペイシャント・ハラスメント)とも呼ばれます。
診療の支障になるような迷惑な言動がこれに当たります。

医療関係者なら誰でも、経験があります。
当院でも以下のような事例がありました;

・受付で気に入らないことがあると大声ですごみ、スタッフが萎縮。
・診療時間が終了後に来院し「診てくれるまで帰らない」と居すわる。
・希望の検査をしなかったため、悪い口コミを書き込む。

各医療機関で対策に悩まされています。
傷害事件に発展した事例もありますから、
患者さんの気持ちにより添う方針だけでは不十分で、
自分とスタッフの身を守るという視点も必要です。
病院レベルでは警察OBを雇用したり・・・

そんな中、「ペイハラにイエローカードを!」という記事が目に留まりましたので紹介します。
記事を読むと、相談支援室とか顧問弁護士とか出てきますが、
零細企業の開業医レベルでは縁がないですねえ。


▢ カスハラが収まらないときの「イエローカード」
2025/03/14:日経ヘルスケア)より一部抜粋(下線は私が引きました);

 医療・介護業界では、患者・利用者やその家族による迷惑行為、いわゆるカスタマーハラスメント(カスハラ)に悩むケースが少なくありません。医療機関ではペイシェントハラスメント(ペイハラ)と呼ばれることもあり、各施設での対策強化は急務です。カスハラ対策を講じる上で重要なのは、組織として対応できる体制を構築すること。病院であれば、院長直轄の部署で対応することで、組織としての判断や対応が行いやすくなります。
 日本赤十字社・長崎原爆病院(長崎市、315床)では、院長が状況をすぐに把握して対応できる体制にするため、院長直轄の「相談支援室」を設置。室長には、当時副院長で現在院長の谷口英樹氏が就きました。メンバーは、それまで兼任で患者・家族の窓口対応をしてきた事務職員を専従で再雇用したほか、警察OBを1人雇用しました。
 職員に対しては、トラブルに発展しそうな場合は早めに相談をするよう周知徹底。連絡を受けた担当者は直ちに当該患者の診療録を確認し、助言を行うほか、内容に応じて院長に状況を報告します。ペイハラ対応が必要になった場合は、主治医と担当看護師、師長が患者・家族の話を聞くようにして、主治医や担当看護師が対応困難と判断した場合は相談支援室が引き継ぐ形としています。
 注目されるのは、顧問弁護士の指導の下、「診療拒否に関する注意書」(図1)を用意し、ペイハラが収まらないときはイエローカードの位置付けで該当者に手渡している点です。「信頼関係の欠如」を根拠として、院長を含む幹部と顧問弁護士の合議で交付を決定するようにしています。相手に直接渡すのが難しい場合は内容証明付きで郵送。こうした毅然とした対応を取ることで多くは収まるとのことです。


図1 長崎原爆病院で患者に渡している「診療拒否に関する注意書」

 医師法19条1項では診療義務(応召義務)が課せられ、「正当な事由」がある場合を除き、診療拒否をしてはならないとされています。この点について、厚生労働省の通知「応招義務をはじめとした診察治療の求めに対する適切な対応の在り方等について」(2019年12月25日)では、「診療の基礎となる信頼関係が喪失している場合には、新たな診療を行わないことが正当化される」としており、その例として「診療内容そのものと関係ないクレーム等を繰り返し続ける等」が挙げられています。
 この通知では、緊急対応が必要なケースについては、診療を求められたのが診療時間内・勤務時間内の場合、「医療機関・医師・歯科医師の専門性・診察能力、当該状況下での医療提供の可能性・設備状況、他の医療機関等による医療提供の可能性(医療の代替可能性)を総合的に勘案しつつ、事実上診療が不可能といえる場合にのみ、診療しないことが正当化される」としています。状況に応じた判断が求められますが、前述のような書面の運用も含め、患者との信頼関係が喪失した場合の対応をあらかじめ検討しておきたいところです。


上記を読むと、医師の応酬義務とされる、
正当な事由がある場合を除き、診療拒否をしてはならない
が存在する一方で、
診療の基礎となる信頼関係が喪失している場合には、新たな診療を行わないことが正当化される
という法律があると知りました。
まあ、「信頼関係喪失」が「正当な事由」に相当する、ということですね。

コメント
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