学問空間

「『増鏡』を読む会」、第10回は3月1日(土)、テーマは「二条天皇とは何者か」です。

「七十七銀行女川支店」との比較(その4)

2016-11-09 | 大川小学校
投稿者:鈴木小太郎 投稿日:2016年11月 9日(水)10時52分2秒

「日和幼稚園」事件の場合、園長はテレビ・ラジオによる情報収集をせず、サイレンを伴う大音量の防災行政無線にも注意を払わず、わざわざ高台の幼稚園から沿岸部に送迎バスを行かせた訳ですが、七十七銀行女川支店の場合、支店長は自ら、また部下に指示をして情報収集を継続していますね。
そして、その収集した情報に基づき、「堀切山」に向かうと避難途中で被災する恐れがあるから支店屋上の方が良いと判断した訳です。
判決では時系列に沿って気象庁その他の公的機関から提供された情報と、当該情報のマスコミによる伝達の経緯を詳細に辿り、後から判明した正確な情報ではなく、G支店長が当時、具体的に入手した情報に基づいてG支店長の判断の適否を問い、結論としてその判断は「合理的」であって過失はない、としました。
後から振り返れば、最重要情報である気象庁の地震規模判定と津波予測はいずれも相当に過小なものでした。
地震規模については、気象庁は地震発生直後の午後2時49分にマグニチュード7.9と発表し、午後4時にM8.4へ、午後5時30分にM8.8へと修正、更に3月13日午後0時55分になってM9.0と都合三回も修正を繰り返しています。
G支店長が入手した情報は一番最初のM7.9だけで、事前に想定されていた宮城県沖地震(連動型)のM8.0より小さい値です。
また、津波予測については、正確を期すために「二 本件において裁判所が認定した事実経過」の「(5)気象庁の大津波警報等の発表状況」から引用すると、

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(5) 気象庁の大津波警報等の発表状況
 気象庁は,次のとおり,大津波警報等を発表した。
ア 午後2時49分,「岩手県,宮城県,福島県」に大津波警報を発令し,「これらの沿岸では,直ちに安全な場所へ避難してください。岩手県,宮城県,福島県では直ちに津波が来襲すると予想されます。高いところで3m程度以上の津波が予想されますので,厳重に警戒してください。」,「きょう11日14時46分頃地震がありました。震源地は,三陸沖(北緯38.0度,東経142.9度,牡鹿半島の東南東130㎞付近)で,震源の深さは約10㎞,地震の規模(マグニチュード)は7.9と推定されます。」などと発表した(乙6の1)。
イ 午後2時50分,宮城県への津波到達予想時刻が午後3時であって,「予想される津波の高さ6m」(なお,場所によっては津波の高さが「予想される津波の高さ」より高くなる可能性があります。)などと発表した(乙6の2)。また,石巻市鮎川への津波到達予想時刻は午後3時10分であると発表した(乙6の3)。
ウ 午後3時01分,石巻市鮎川において午後2時52分(判決注 上記の津波到達予想時刻より8分早い時間)に高さ0.5mの津波を観測したとの津波情報を発表した(乙6の4)。
エ 午後3時14分,宮城県に津波到達が確認され,予想される津波の高さを10m以上とする大津波情報を発表した(乙6の5)。
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となっています。
(「裁判所」サイトのPDFではp28以下)
さて、裁判所は、最初から「堀切山」を目指すべきだったとの原告側主張に対して、次のように判断します。
ここも長いですが、正確を期すためにそのまま引用します。
(「裁判所」サイトのPDFではp44以下)

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(ア) 本件屋上は「津波避難ビル」としての適格性を有しており,高台まで避難する時間的余裕がない場合等には,本件屋上に緊急避難することについて合理性があったものといえる(前記(2)エ参照)。
(イ) そうであるところ,本件地震直後においては,前記2(5)認定のとおり,気象庁が午後2時50分,宮城県沿岸部への津波到達予想時刻は午後3時,予想される津波の高さは6mと発表していたから,午後2時55分頃に被告女川支店に戻ったG支店長としては,津波到達予想時刻である午後3時までの間に6m以上の高さのある場所に緊急に避難する必要があったといえる。特に,前記2(7)認定のとおり,G支店長は,外出先から被告女川支店への帰路において,大津波警報が発令されたことを認識していた上,海岸近くにおいて実際に潮が引いていることを現認し,自宅に帰るK(派遣スタッフ)にもその旨伝えていたから,迅速に高い避難場所に移動する必要性を自覚していたものと推認される。
 そして,前記1(2)認定のとおり,津波は陸上においてもオリンピックの短距離選手並みの速さで迫ってくるから,津波を見てから走って避難しても逃げ切れるものではなく,かつ,50㎝程度の高さの津波であっても人は流されてしまい,一旦流されると建物や漂流物に衝突して脳挫傷や外傷性ショックにより死亡する危険性が高いとされているから,津波が押し寄せてくると予想された午後3時までの間に高い場所に避難を完了させておくことが必要であり,余震が頻発する状況において,時間的にも緊迫した状態にあったものといえる。
(ウ) 他方,前記2(5)認定のとおり,気象庁が予想される津波の高さを6mから10m以上へと変更したのは午後3時14分のことであったから,避難を完了すべき午後3時までの時点においては,たとえリアス式海岸の湾奥部という特殊な立地に位置した海岸近くの場所において最大震度6弱の揺れを実際に体感していたとしても,本件屋上を超えるような約20m近くの巨大津波が押し寄せてくることまでをもG支店長において予見することは客観的にも困難であったといえる。
(エ) そうすると,当時の時間的にも緊迫した状況の下で,2階屋上まで約10mの高さを有し,3階も含めると約13.35mの高さを有する本件屋上へ避難するとのG支店長の判断が不適切であったとはいえず,G支店長において最初から堀切山へ避難するよう指示をすべき義務があったとはいえない。

http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/990/083990_hanrei.pdf

非常に論理的であって、多くの人はこの裁判所の判断に納得すると思います。
ただ、私はそうでもありません。
その理由は後の投稿で書きます。
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