投稿者:鈴木小太郎 投稿日:2015年 6月17日(水)06時49分39秒
>筆綾丸さん
先日、某大学図書館で『イングランド法の形成と近代的変容』(小山貞夫著、創文社、1983)という本がリサイクル書扱いされていたので、もったいないなと思って持ち帰ったのですが、その中に「マグナカルタ神話の創造」という80ページほどの論文が載っています。
冒頭を少し紹介すると、
-------
一 はしがき
近代民主主義ないしは立憲政治にマグナ・カルタが及ぼした影響については、戦後教育を受けた者全てがよく知っていることであろう。義務教育の少なくとも中学校の社会科教育の中で、権利請願・権利章典などと共に取り上げられているからである。しかしながら、封建制社会の最盛期を過ぎた後であるかそれに達する前であるかの争いはあるにしても、封建時代であったことは誰も否定しない一二一五年に成立したマグナ・カルタが、時代を異にし、社会を異にしているはずの近代のイデオロギーたる民主主義ないしは立憲主義の礎ないしは第一歩となりえたことの説明は、少なくともわが国においては専門家の間でも必ずしも学問的に解明されていないように思われる。この点でも、特にイングランド法制史にきわめて特徴的な法の連続性の観念が、わが国のごとくたびたび法の断絶を経てきた国の研究者にも無意識に前提にされ、右のごとき問題が問題として必ずしも明確には意識されてこなかったように思われるのである。それどころか、マグナ・カルタという異国のしかも七百五十年以上昔の文書の存在そのものは、例えばほぼ同じ頃にわが国で成立した御成敗式目(一二三二年)などよりも日本人にとってもずっと身近に感じられているのに、しかしそのマグナ・カルタが、一二一五年のうちに正式に無効宣言され、法的には存在しなかったことになっていること、次いで一二一六年、一二一七年、一二二五年の三回にわたり一二一五年のものとはもちろん、それぞれの間でも異なったマグナ・カルタが発行されたこと、後世法学上マグナ・カルタと呼ばれているものはこれらのうちの最後のものに当る一二二五年のものであること、この一二二五年のマグナ・カルタは一二一五年のものとは内容のみならず条文番号も大幅に異なっていること(条文に分けたこと自体が後世のものである)等の事実は、高等教育を受けた日本人にとっても必ずしも周知のことではない。時には専門家の中にすら、この辺の事情を無視した議論が散見できるほどである。
-------
といった具合です。(p285以下)
マグナ・カルタが御成敗式目より「日本人にとってもずっと身近に感じられている」かはともかくとして、その後は、えっ、そうなの、と言いたくなるような事実の連続ですね。
※筆綾丸さんの下記投稿へのレスです。
(したらば掲示板に移行した際に文字化けしています。)
http://www.nikkei.com/article/DGXLASDG15HCQ_V10C15A6CR8000/
http://www.bbc.com/news/uk-33126723
マグナカルタ制定800年祭に関するBBCの記事には、constitutionalism や medieval constitutionalism という表現はなく、constitution が出てくるのは、残念ながら、
---------------
Its influence can be seen in other documents across the world including the UN Universal Declaration of Human Rights, and the US Constitution and Bill of Rights.
---------------
というところだけです。民主主義、法の支配、自由、正義、人権への言及は色々あるのですが。medieval は、his medieval predecessor Archbishop 、the most optimistic medieval baron という表現で二度出てきますね。
https://en.wikipedia.org/wiki/Habeas_corpus
文中に "habeas corpus" (the right not to be held indefinitely without trial) とありますが、これは Medieval Latin で、 大意は "You should have the body" ということなんですね。
女王陛下(写真)の横に、
????????15 JUNE 2015
???? ON THIS SPOT IN THE
HISTORIC MEADOW OF RUNNYMEDE
????HER MAJESTY THE QUEEN
???????? CELEBRATED
????????800 YEARS OF
????????MAGNA CARTA
TOGETHER WITH HER SUBJECTS
??AND INTERNATIONAL GUESTS
というプレートがありますが、her subjects を「国民」ではなく「女王陛下の臣民ども」と訳したら、誤訳ではないまでも、マグナカルタの精神に抵触するのでしょうね。プランタジネット朝の王の subjects とウィンザー朝の女王の subjects はずいぶん違うだろう、とは思います。
冒頭近くの、
------------
The charter first protected the rights and freedoms of society and established that the king was subject to the law.
------------
における the king was subject to the law は、medieval constitutionalism の端的な表現でしょうが、この subject と her subjects の subject は、瓜二つとは言わぬまでも、まあ、同じようなもんだろう、という気はしますね。her subjects を her nation とか her citizen とすることは、文法的に無理なんでしょうね。
http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1425700304
また、この subject to はなかなかの難問で、日本でも大きな問題になった時期がありました。
女王陛下の写真の下あたりに、
-------------
Magna Carta originated as a peace treaty between King John and a group of rebellious barons.
-------------
とありますが、これを読むと、立憲主義とか民主主義とか聞こえはいいが、要するに、貴族達の腕力が王の力より強かっただけのことで、subject など端から眼中になかったろう、という気がしてきます。
http://www.bbc.com/news/uk-33126723
マグナカルタ制定800年祭に関するBBCの記事には、constitutionalism や medieval constitutionalism という表現はなく、constitution が出てくるのは、残念ながら、
---------------
Its influence can be seen in other documents across the world including the UN Universal Declaration of Human Rights, and the US Constitution and Bill of Rights.
---------------
というところだけです。民主主義、法の支配、自由、正義、人権への言及は色々あるのですが。medieval は、his medieval predecessor Archbishop 、the most optimistic medieval baron という表現で二度出てきますね。
https://en.wikipedia.org/wiki/Habeas_corpus
文中に "habeas corpus" (the right not to be held indefinitely without trial) とありますが、これは Medieval Latin で、 大意は "You should have the body" ということなんですね。
女王陛下(写真)の横に、
????????15 JUNE 2015
???? ON THIS SPOT IN THE
HISTORIC MEADOW OF RUNNYMEDE
????HER MAJESTY THE QUEEN
???????? CELEBRATED
????????800 YEARS OF
????????MAGNA CARTA
TOGETHER WITH HER SUBJECTS
??AND INTERNATIONAL GUESTS
というプレートがありますが、her subjects を「国民」ではなく「女王陛下の臣民ども」と訳したら、誤訳ではないまでも、マグナカルタの精神に抵触するのでしょうね。プランタジネット朝の王の subjects とウィンザー朝の女王の subjects はずいぶん違うだろう、とは思います。
冒頭近くの、
------------
The charter first protected the rights and freedoms of society and established that the king was subject to the law.
------------
における the king was subject to the law は、medieval constitutionalism の端的な表現でしょうが、この subject と her subjects の subject は、瓜二つとは言わぬまでも、まあ、同じようなもんだろう、という気はしますね。her subjects を her nation とか her citizen とすることは、文法的に無理なんでしょうね。
http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1425700304
また、この subject to はなかなかの難問で、日本でも大きな問題になった時期がありました。
女王陛下の写真の下あたりに、
-------------
Magna Carta originated as a peace treaty between King John and a group of rebellious barons.
-------------
とありますが、これを読むと、立憲主義とか民主主義とか聞こえはいいが、要するに、貴族達の腕力が王の力より強かっただけのことで、subject など端から眼中になかったろう、という気がしてきます。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます