日本の少子化の原因は、すでに結婚した夫婦が子どもを産まない(産めない)ことではなく、そもそも婚姻数の減少であることは当連載でも何回もお伝えしている通りですが(参照:『少子化議論なぜか欠ける「婚姻減・少母化」の視点』)、未婚化や非婚化が進んだ要因として、長期にわたる経済環境停滞の影響は間違いなくあります。
かつては「貧乏子沢山」などといわれもしましたが、現代では「裕福ではないと結婚も子を持つことすらもできない」時代となっています。それを如実に表しているのが、国民生活基礎調査における「児童のいる世帯」の年収分布の差です。ここでいう児童とは18歳未満の子を指します。
中間層が結婚も出産もできなくなっている
以下のグラフは、2000年と2022年の「児童のいる世帯」の年収別世帯数を比較したものです。児童のいる世帯の絶対数が減っていることはご存じの通りですが、グラフを見ると、世帯年収900万円以上の世帯に限ってはまったく減少していません。
減っているのはそれ以下の世帯年収であり、特に世帯年収300万~600万円あたりの中間層世帯が「子どもを持てなくなっている」ことがわかります。つまり、日本の婚姻減、出生減は、この中間層が結婚も出産もできなくなっていることによるものなのです。
若者の未婚化の話題でよくいわれるのが、「非正規雇用の増大で結婚できなくなった」というものですが、確かにバブル崩壊から2000年代にかけての就職氷河期にあたる世代にとっては大きな問題だったでしょう。
2000年代当時20代だった若者が、就職先が見つからず、しぶしぶ非正規雇用で食いつないでいるうちに、20年が過ぎ、気が付いたら生涯未婚対象年齢の45歳を過ぎていたというのが今の状況であることは否定できません。
しかし、非正規雇用を減らし、正規雇用を増やせば問題は解決するかというとそれも違います。
ニュースなどでは今でも「非正規雇用が4割」などといわれますが、あれは男女全年齢総数の数字であって、決して現役世代の、しかも結婚適齢期である若者の非正規率ではありません。
2022年の労働力調査によれば、25~34歳での非正規雇用率は男性14.3%、女性31.4%です。労働力調査では未既婚の別はありませんので、これは既婚も含む総数の数字です。もちろん、この男性の14.3%という数字も決して低いものではありません。1980年代は3%台でしたので、それと比較すれば5倍弱にも増えていることは確かです。
1990年と2020年を比較した場合に、男性の非正規雇用率が約5倍弱になっているのと、男性の生涯未婚率が5.6%から28.3%と5倍以上になっていることを照らせば、非正規の増加が未婚率の上昇に直結していると思いたくなるかもしれません。しかし、そもそも生涯未婚率は45~54歳の未婚率であって若者のそれではありません。
初婚年齢の中央値は男女とも20代
世間で「晩婚化」といわれているために誤解がありますが、人口動態調査によれば、初婚年齢の中央値は、2021年でも男性で29.5歳、女性で28.5歳であり、実は男女とも半分以上が20代のうちに初婚しています。
日本における出生の9割も女性39歳までで占められています。婚姻減や出生減を考える際には、この20~30代の若者の置かれている状況が将来を決定するわけで「若者の問題」なのです。
就業構造基本調査に基づいて、最新の2022年と2007年のデータを年齢別に比較したものが以下になります。就業者全体に対する、未既婚・正規非正規の人口割合の増減を示しています。
これによれば、非正規の未婚構成比も確かに25~54歳まで全年齢で2~4%程度増えていますが、それ以上に増えているのが正規の未婚人口の方です。特に、生涯未婚対象年齢である45~54歳と初婚中央値年齢帯である25~29歳の正規未婚構成比が8%近くも増えています。あわせて、正規の既婚人口構成比は全年齢で減少しています。
つまり、非正規未婚の割合も多少は増えているのですが、本来もっとも結婚が多いはずの若者が正規雇用であっても未婚のままという割合が増えていることになります。特に、25-29歳の非正規雇用率は2014年の16.9%を頂点として年々低下しています。
それはそもそもこの年齢帯の絶対人口が減っているために求人率が改善されているためですが、正規雇用の割合が高まった2015年以降も未婚化と婚姻減は進行しています。このファクトを見る限り、「非正規雇用を減らして正規雇用を増やせば若者の経済環境は改善されるはずだ」とはなっていないわけです。
そもそも正規雇用といってもすべてが高年収であるわけではありません。東京や大阪などの大都市の大企業に就職できた若者は、初年度から最低でも年収300万円は余裕で超えていることでしょう。
しかし、地方の中小企業などに就職した場合、30歳を過ぎても年収300万円に到達しないケースがあります。一口に正規雇用といっても、企業の規模や地域、職種によっても大きく異なります。
満足な年収を得られる層はほんの一部
ちなみに、全国レベルでは、正規雇用者であっても、未既婚合わせた25~34歳男性全体で19%が年収300万円に到達していません。400万円未満なら46%を占めます。要するに、たとえ正規雇用であったとしても、満足な年収が得られる層は一部であり、雇用形態云々以前に全体的に年収があがっていないことのほうが深刻です。
男性の場合、特に年収と未婚率とは大きな相関があり、年収が低ければ低いほど結婚できていません。就業構造基本調査から、2007年と2022年とで、正規非正規別に25~34歳の男性の年収別未婚率を比較したものが以下のグラフです。
非正規のほうが正規に比べて未婚率が高いのはその通りですが、注目したいのは、正規雇用者であっても、各年収帯で未婚率があがっていることです。
特に、2007年時点では、年収400万円を超えれば、25~34歳男性の半分以上は結婚できていたのに、2022年には未婚率が50%を切るのは年収500万円以上と、15年前と比べて100万円ほど結婚のハードルがあがっている点です。ただでさえ年収自体はあがっていないのに、結婚できる年収だけがあがっているということになります。
その原因は手取り額の減少です。たとえ額面の年収があがったとしても、税金や社会保険料などがジワジワとあげられていることによって、かえって手取りが減っているという状況がこの20年間続いているからです。
おまけに、コロナ禍以降は物価も上昇しています。若者たちからすれば、「給料があがっているはずなのになぜ毎年生活が苦しいのだろう」と思っていることでしょう。
婚姻数と出生数、それと財務省の出している国民負担率の長期推移の相関を見ると、驚くほど強い負の相関があることがわかります。比較をわかりやすくするために、1995年を1とした経年推移としてあります。
婚姻数も出生数も1995年比で約40%減です。それと対照的に、国民負担率の増加は1995年比で約40%増にならんとしています。婚姻数・出生数とあわせてみると2003年頃を始点として、まるで財務省がよく使う「ワニの口」そのものの形です。
「結婚氷河期」到来?
常雇者平均所得にしても、1995年の水準に届いていません。もちろん、個人レベルでは、毎年多少なりとも給料はあがっているかもしれません。が、その間、社会保険料や消費税があがっています。国民負担率上昇分が給料上昇額を上回って、手取りは逆に減っているという人も多いことでしょう。
現在の未婚化や婚姻減を招いたのは、2000年代の就職氷河期の影響が大きいことは誰も否定しないでしょう。その時代とは違い、現在は若者の人口減少による人手不足で、雇用そのものは確保されています。
しかし、正規雇用であっても満足な年収に届かない若者も多く、加えて、額面の給料が増えても、手取りが減って昔より苦しくなっている現状があります。同じ正規雇用でも今65歳以上の皆婚世代が若者だった頃とは、国民負担が圧倒的に違います。
正規雇用の未婚人口が増えているのはこうした「若者の経済環境の問題」があるからです。このまま「少子化のワニの口」を放置していては、未来に禍根を残す新たな「結婚氷河期」を作ってしまうかもしれません。
若者の結婚が減るだけにとどまらず、多くの若者や子どもたちが将来に夢も希望ももてなくなり、結婚や出産も選択しないという緩やかな滅亡へと向かっていく恐れすらあります。
(荒川 和久 : 独身研究家、コラムニスト)
感想;
なぜ結婚しないか、なぜ子どもを持たない人が増えているのか、明らかに経済理由が大きいです。
そこを改善しないから、どんどん子どもが減っているのです。
産みたくても、育てたくても育てられないのです。
十分な収入がないからです。
生活苦と自殺率は相関があります。
コロナで若者、女性の自殺も増えています。
結婚、子ども以前に、生きることに喘いでいる国民の層が増えているのです。
この問題の根本を改善せずに、PRやブライダル業界を支援しても効果はありません。キックバックの効果は確実にあるようですが。
森まさこ議員にはブライダル企業からしっかり献金をもらっています。