東京地裁が「逮捕も起訴も国家賠償法に照らして違法」と断じた大川原化工機冤罪(えんざい)事件。判決は確定せず、控訴審で争われることになった。
2023年12月27日、東京地裁(桃崎剛裁判長)は国と東京都に約1億6000万円の賠償を命じた。これに対し、国と東京都は控訴期限の2024年1月10日、午後4時台になって控訴。大川原化工機の大川原正明社長ら原告も同日午後5時に控訴した。翌11日、原告と被告の双方がコメントを発した。
東京地検の新河隆志次席検事は定例記者会見で「国が控訴していることは承知している」と述べた。大川原社長など原告らが「国や都が謝罪してくれれば控訴しなかった」としている点については「現時点でお答えは差し控える」とコメントを避けつつ、「念のために言うが、国が控訴したのであって、検察庁が控訴したわけではない」と付け加えた。 警察庁の露木康浩長官は定例記者会見で「警視庁で精査した結果、『証拠上、受け入れることは難しい』ということで上級審の判断を仰ぐことが適当との結論に至った」と発言。東京都の小池百合子都知事は記者団にコメントを求められて「大変専門的な事案で警視庁の見解を尊重することにした」と述べた。
■「まだするのか。あきれた」
原告の大川原社長は東京地裁内で開いた記者会見で次のように語った。
「裁判長が深く踏み込むというより押さえるところを押さえたという判決内容からすると(国や都が)控訴しない可能性もあるんじゃないか、と思っていた。が、(国や都は)予定どおりの控訴をしてきた。
『ああ、やっぱりか』という感想」
「やっぱり」の真意を記者に問われると、「落胆や憤りというより『あきれた』という感じ。『まだ(裁判を)するか』という感じ」と述べた。
2020年3月。細菌兵器の製造など軍事転用が可能な装置を、経済産業省の許可を得ずに中国へ不正に輸出したとして、横浜市にある大川原化工機の大川原社長ら幹部3人が逮捕・起訴された。 容疑は外為法違反(無許可輸出)だった。同年6月には、韓国にも経産省の許可を得ずに輸出したとして再起訴されている。 起訴後も勾留が約11カ月間続き、翌年の2021年8月に初公判が予定されていた。が、初公判の4日前に東京地検が起訴を突如取り消した。取り消した当日は、公安部と経産省とのやり取りを記した大量の捜査メモを、東京都や国が東京地裁に提出する期限日だった。
大川原化工機の装置は、経産省の輸出許可が必要な機器ではそもそもなかった。つまり公安部による事件の捏造に、東京地検は結果として加担し、ずさんな捜査を追認していたのである。
■渦中にある公安部、経産省、地検の人物たち
大川原化工機事件の捜査を指揮したのは警視庁公安部外事1課の宮園勇人警部(肩書は当時。以下同じ)だった。「海外の“あるべきではないところ”で大川原化工機の噴霧乾燥器が見つかった」と事件の構図を描いた。公安部は30人規模の捜査チームを結成した。
捜査チームの一員で宮園警部の忠実な部下の1人・安積伸介警部補は立件に向けて「捜査メモ」や「聴取結果報告書」を大量に作成した。 安積警部補は、大川原化工機の島田順司取締役に、殺菌の解釈を誤解させたうえで供述調書に署名捺印するように仕向けた。島田氏の逮捕直後の「弁解録取書」を作成する際、島田氏の指摘に沿った修正をしたように装い、実際には島田氏が発言していない内容の同書を作成し署名捺印させていた。 経産省の窓口となった安全保障貿易管理課のT検査官は「大川原化工機の噴霧乾燥器は生物兵器の作成装置に転用できない」「したがって輸出規制製品に非該当」とかたくなだった。
そこで、宮園警部は警視庁公安部長から経産省に圧力をかけるよう画策する。 「公安部長が動いた」 そう上司に聞かされた経産省の笠間大介課長補佐(下図では「K課長補佐」)は「ガサ(家宅捜索)はいいと思う」と公安部に譲歩した。笠間課長補佐はT検査官の上司である。経産省は輸出規制を所管しており、警視庁公安部外事1課からは規制当局の立場から違法性の認識を求められていた。 東京地検は逮捕の1年半前から、同地検の塚部貴子検事は逮捕の9カ月前から、継続的に宮園警部から相談を受けていた。「5人の従業員が『装置に残った菌は殺すことができません』と言っている」と別の検事から聞いても、塚部検事は意に介さなかった。実際の装置を見ることもなく、大川原社長ら3人を起訴したのである。決裁したのは当時、東京地検の検事正だった曽木徹也検事だった。
■捜査・立件を主導した人たちは出世
大川原化工機事件を立件した公安部外事1課は警察庁長官賞と警視総監賞を受賞。捜査員ら15人が総監賞で個人表彰もされた。総監賞では1万円の副賞も各人に授与された。 捜査を指揮した宮園警部は警視に昇任し現在は亀有署に勤務。安積警部補は警部に昇任し蒲田署にいる。 一方、「従業員が『温度が低くなる』と言っている。もう一度測ったほうがいいのでは」と宮園警部に進言した時友仁警部補は、警部補のまま野方警察署に異動した。
時友氏と同様に立件に懐疑的で、法廷で「(本件は)まあ、捏造。逮捕・勾留の必要はなく、起訴する理由もとくになかった」とまで証言した濱崎賢太警部補は、現在も公安部の警部補だ。 警察庁長官賞や警視総監賞、個人表彰や副賞は2023年7月になってようやく自主返納された。が、宮園氏や安積氏の昇進は取り消されたわけではない。時友氏や濱崎氏は昇進が止まったままである。 塚部検事は千葉地検に異動した。大川原化工機事件の取材にはいっさい答えない。曽木検事正は高松高検検事長、大阪高検検事長を歴任した後に退任。2023年から長島・大野・常松法律事務所で顧問をしている。経産省の笠間課長補佐は貿易管理部の技術調査室長に栄転した。
東京地検の新河次席検事も警察庁の露木長官も、11日の会見で「起訴後に起訴取り消しに至ったことは真摯に受け止める」とした。真摯に受け止めた割には、事件の捏造に関わった渦中の人物は昇進したままだ。これで国民の納得が得られるのだろうか。
■控訴審はゴールデンウィーク前後からか
原告と被告は1月10日から50日以内に「控訴理由書」を提出。同書を受けて双方が「答弁書」を提出する。初公判は早くてもゴールデンウィーク前後になるとみられている。
原告代理人の高田剛弁護士(和田倉門法律事務所)は同11日の会見で、「原審(1審判決)は無難。(判決を覆すのが難しい)堅いところで書いてもらっている。東京高裁には、事件は作られたものであるというさらに踏み込んだ事実認定をしてもらいたい」と語気を強めた。
山田 雄一郎 :東洋経済 記者
感想;
あまりにもひどすぎる。
パーティ券の不記載はおとがめなし。
どう考えてもおかしいです。
捏造に加担した人を昇進させているのは、真実を話さないさせるためです。
冷遇すると「捏造だった」と真実を話すからです。
それにしても殺菌効果のない一般の噴霧乾燥機を”兵器”とすることじたい、科学的な知識がまったくないというか、司法のことがわかっても、科学のイロハもご存知ないとは驚いてしまいます。
もう少し、兵器や部品の可能性のあるものをターゲットにすれば、ややこしかったと思います。
公務員です。
税金を使っているのです。
税金を納めている人を無実の罪で苦しめて、昇進して、こんなことが許されるのでしょうか?
もっと国民が声をあげないとおかしなことがまかり通って、いつか私たちにも冤罪が降り注ぐのではないでしょうか?