平成エンタメ研究所

最近は政治ブログのようになって来ました。世を憂う日々。悪くなっていく社会にひと言。

「ち。-地球の運動について-」~天動説と地動説、宗教と科学、キリスト教とギリシャ哲学、そして理性・知性の復権

2024年10月17日 | コミック・アニメ・特撮
 アニメ『ち。-地球の運動について-』(NHK・土曜23時45分ほか)
 この作品はさまざまなことを考えさせてくれる。

 作品は──
 15世紀のヨーロッパで禁じられた地動説を命がけで研究する人間たちの生き様と信念を描いた物語だ。
 この時代、地動説を唱えたり、研究して証明しようとすれば「異端」の審判を下され、
 拷問・火あぶりにされる。
 でも「地動説」を追い求めずにはいられない。

 第1章の主人公ラファウ(CV坂本真綾)は大学で神学を学ぶ予定の秀才だったが、
 地動説を知って考える。
「地動説の方が惑星の運行をきれいに証明できる」
 これに比べて天動説は美しくない。
 だからタファウは疑問を持つ。
「神がこんなに美しくない世界をつくるだろうか?」

 ラファウは冷徹な合理主義者だ。
 だから地動説を信じていないと平気でウソを言えるし、
 大学で神学を学ぶふりをしながら、地動説の研究をしようとしている。

 一方で、こんな合理主義者のラファウだから非合理なものを否定せずにはいられない。
 非合理なもの──具体的にはキリスト教だ。
 キリスト教は教える。
「異端者は悪魔に取り憑かれている」
「人から悪魔を追い出すには火あぶりにするしかない」
「火あぶりにすれば人は灰になるが、灰になった人間は肉体を失っているので、
 最後の審判の時、復活できない」

 ラファウはこれを非合理だと否定する。
 キリスト教が教える「絶対神による救い」を拒絶する。
 彼は共感するのはギリシャの哲学者の言葉だ。
 ソクラテス、いはく、
「誰も死を味わっていないのに誰もが死を悪であるかのように決めつけている」
 エピクロス、いはく、
「われわれのある所に死はない。死のある所にわれわれはない」
 セネカ、いはく、
「生は適切に活用すれば十分に長い」
 ソクラテスたちは理性的に生と死を考え、怖れることなく乗り越えている。
 ラファウもこれに同意して、やすやすと死を乗り越える。

 ラファウはさらに異端審問官のノヴァク(CV津田健次郎)にはこんなことを語る。
「あなたが相手にしている敵は僕でも異端者でもない。
 想像力であり好奇心であり、畢竟、それは知性だ。
 これは伝染病のように拡がり、一組織が手なずけられるほど可愛げのあるものではない」

 ラファウが主張するのは──想像力・好奇心・理性・知性の素晴らしさだ。
 これらの揺るぎない堅固さだ。
 そして「感動」。
 地動説に感動したラファウはこの感動を誰かに伝えずにはいられない。
 自分の研究成果を後世の人間に残さずにはいられない。
 …………………………………………

・天動説と地動説
・宗教と科学
・キリスト教の死生観とギリシャの死生観
・理性、知性の復権

『ち。-地球の運動について-』に込められているテーマはさまざまだ。

 僕は最近、死についていろいろ考えているから、
 ラファウが死をどう乗り越えたかはとても興味深かった。
 ラファウのとった選択に心がザワザワした。

 原作者の魚豊氏はこの作品についてこう語っている。

『天動説から地動説へ移行する、知の感覚が大きく変わる瞬間がいいんですよね。
 哲学と結びついて、「コペルニクス的転回」や「パラダイムシフト」って言葉が生まれるくらいの衝撃を与えました。
 その瞬間が面白くて、漫画にしようと決意しました』

 何かを求めて見ることで、この作品は見る者に「パラダイムシフト」をもたらすと思う。
 現在は第3話まで放送。
 第1章が終了したばかりなので、まだ間に合う。
 多くの人に見てもらいたい。

コメント (4)
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