アスターテ会戦で功績をあげたヤン・ウェンリーは提督に。
新設の第13艦隊を指揮することになる。
第13艦隊を指揮するにあたりヤンが選んだ主要メンバーはこうだ。
・副司令官~堅実な艦隊運用をおこなう老巧のフィッシャー准将
・首席参謀~独創性は欠くものの緻密で整理された頭脳を持つムライ准将
彼には常識論を提示してもらい作戦立案と決定の参考にする。
・次席幕僚~叱咤激励を担当するファイター・パトリチェフ大佐
そして副官。
ヤンは自ら人選せず「優秀な若手士官を」という注文のみだったが、
後方主任参謀アレックス・キャゼルヌが選んだのは──フレデリカ・グリーンヒル中尉だった。
士官学校次席卒業。現在は統合作戦本部情報分析課勤務。
抜群の記憶力の持ち主。
若く美しい女性だった。
この人選にヤンは驚く。
フレデリカは過去にヤンと関わりもあった。
8年前のエル・ファシル脱出作戦の時、空港でサンドイッチをかじりながら指揮を執るヤンにコーヒーを渡した少女がフレデリカだったのだ。
その際にヤンは少女のフレデリカに「コーヒーは嫌いだから紅茶にしてくれた方がよかった」と言った。親切で渡してくれた見ず知らずの少女によくもまあ。笑
おまけにフレデリカはこのことを鮮明に覚えていたが、ヤンは覚えていなかった。笑
そして、こんな会話。
「そんな失礼なことを言ったかな」
「ええ、おっしゃいました。空のコップを握りしめながら……」
「そうか、謝る。しかし、君の記憶力はもっと有益な方面に生かすべきだね」
……………………………………………
田中芳樹先生は女性をあまり描くことのない作家さんだが、
この時のフレデリカの気持ちを想像すると面白い。
少女のフレデリカは、自分たちを無事脱出させた『エル・ファシルの英雄』をすごい人と思ったことだろう。
そんなすごい人にコーヒーをあげたことはとんでもない栄誉であり、
「紅茶の方がよかった」と言われたことはショックで、ずっと忘れられない出来事として心に刻まれたに違いない。
そしてフレデリカはずっとヤンを追いかけていた。
8年後、副官として再会することが出来た。
その喜びたるや、どれほどのものだっただろう?
「紅茶の方がよかった」と言われたことにも文句を言って仕返しすることが出来た。
積年の恨みをついに晴らした!
原作の小説は第三者の客観描写で、フレデリカの心の中は具体的に語られていないが、
おそらくフレデリカはこんなことを考えていたに違いない。
ヤンもなぁ……。
「君の記憶力はもっと有益な方面に生かすべきだね」とヤンが返したことについて、原作ではこう書かれている。
『もっともらしく言ったが、それは負け惜しみ以上のものではないようだった。』
何とフレデリカにやり込められて、ヤンが負け惜しみの気持ちを抱いたのだ。
ヤンにしてはめずらしいリアクションだ。
もしかしてヤンは無意識にフレデリカを意識している?
アレックス・キャゼルヌが、なぜヤンの副官にフレデリカを選んだかを想像するのも面白い。
キャゼルヌは、男やもめで色恋から縁遠いヤンに花を添えてやろうと思ったのではないか?
つまりヤンに対する友情と遊び心。
キャゼルヌは、ヤンがジェシカ・エドワーズと祝勝会から逃げた時もからかってたしなぁ。
もしかしたらフレデリカの気持ちに気づいていたのかもしれない。
というわけで、このフレデリカのシーン。
400字詰め原稿用紙にすれば、2~3枚くらいのものだろうが、
登場人物たちのさまざまな思いを読み取れる。
行間を読むとはこういうことである。
小説を読む楽しさはこういう所にある。
新設の第13艦隊を指揮することになる。
第13艦隊を指揮するにあたりヤンが選んだ主要メンバーはこうだ。
・副司令官~堅実な艦隊運用をおこなう老巧のフィッシャー准将
・首席参謀~独創性は欠くものの緻密で整理された頭脳を持つムライ准将
彼には常識論を提示してもらい作戦立案と決定の参考にする。
・次席幕僚~叱咤激励を担当するファイター・パトリチェフ大佐
そして副官。
ヤンは自ら人選せず「優秀な若手士官を」という注文のみだったが、
後方主任参謀アレックス・キャゼルヌが選んだのは──フレデリカ・グリーンヒル中尉だった。
士官学校次席卒業。現在は統合作戦本部情報分析課勤務。
抜群の記憶力の持ち主。
若く美しい女性だった。
この人選にヤンは驚く。
フレデリカは過去にヤンと関わりもあった。
8年前のエル・ファシル脱出作戦の時、空港でサンドイッチをかじりながら指揮を執るヤンにコーヒーを渡した少女がフレデリカだったのだ。
その際にヤンは少女のフレデリカに「コーヒーは嫌いだから紅茶にしてくれた方がよかった」と言った。親切で渡してくれた見ず知らずの少女によくもまあ。笑
おまけにフレデリカはこのことを鮮明に覚えていたが、ヤンは覚えていなかった。笑
そして、こんな会話。
「そんな失礼なことを言ったかな」
「ええ、おっしゃいました。空のコップを握りしめながら……」
「そうか、謝る。しかし、君の記憶力はもっと有益な方面に生かすべきだね」
……………………………………………
田中芳樹先生は女性をあまり描くことのない作家さんだが、
この時のフレデリカの気持ちを想像すると面白い。
少女のフレデリカは、自分たちを無事脱出させた『エル・ファシルの英雄』をすごい人と思ったことだろう。
そんなすごい人にコーヒーをあげたことはとんでもない栄誉であり、
「紅茶の方がよかった」と言われたことはショックで、ずっと忘れられない出来事として心に刻まれたに違いない。
そしてフレデリカはずっとヤンを追いかけていた。
8年後、副官として再会することが出来た。
その喜びたるや、どれほどのものだっただろう?
「紅茶の方がよかった」と言われたことにも文句を言って仕返しすることが出来た。
積年の恨みをついに晴らした!
原作の小説は第三者の客観描写で、フレデリカの心の中は具体的に語られていないが、
おそらくフレデリカはこんなことを考えていたに違いない。
ヤンもなぁ……。
「君の記憶力はもっと有益な方面に生かすべきだね」とヤンが返したことについて、原作ではこう書かれている。
『もっともらしく言ったが、それは負け惜しみ以上のものではないようだった。』
何とフレデリカにやり込められて、ヤンが負け惜しみの気持ちを抱いたのだ。
ヤンにしてはめずらしいリアクションだ。
もしかしてヤンは無意識にフレデリカを意識している?
アレックス・キャゼルヌが、なぜヤンの副官にフレデリカを選んだかを想像するのも面白い。
キャゼルヌは、男やもめで色恋から縁遠いヤンに花を添えてやろうと思ったのではないか?
つまりヤンに対する友情と遊び心。
キャゼルヌは、ヤンがジェシカ・エドワーズと祝勝会から逃げた時もからかってたしなぁ。
もしかしたらフレデリカの気持ちに気づいていたのかもしれない。
というわけで、このフレデリカのシーン。
400字詰め原稿用紙にすれば、2~3枚くらいのものだろうが、
登場人物たちのさまざまな思いを読み取れる。
行間を読むとはこういうことである。
小説を読む楽しさはこういう所にある。
ことによるとキャゼルヌは作者田中氏の分身なのかもしれません。
『銀河英雄伝説』はダブルヒーローの物語ですが、コウジさんも私もヤン派ですよね。
しかしながら、田中氏は見るからに美形キャラであるラインハルトに比べ「風采の上がらない」ヤンが気の毒だから、「せめて美女に愛されるようにしてやろう」と考えたのだそうです。
ところで、ヤンにフレデリカがいるようにラインハルトにはヒルデガルト・フォン・マリーンドルフ(通称ヒルダ)がいるわけですが、この二人の「ヒロイン(ヒーローの妻となる女性)」を比べてみても私は圧倒的に「フレデリカ推し」です。
ただし、少なくとも旧作アニメ版ではフレデリカとヒルダとは顔つきも髪型もそっくりなのですが。
ヒルダがラインハルトに近づいたのは「マリーンドルフ家のため」という政治的理由。
これに対して、何と言ってもフレデリカには「8年越しの愛」があります。
また、フレデリカはヤンを生活面での怠惰さなどの欠点もすべて込みで愛していました。
さらに、ヤンと結婚後の彼女が軍人(副官)としての優秀さとは裏腹に、料理があまり得意でなかったりする素顔を見せたりするところも「可愛い」と感じます。
さて、原作小説(さらには新作アニメ)と私が視聴した旧作アニメとでは微妙な違いがあるようですね。
旧作アニメ版では、ヤンはエル・ファシルでのコーヒーの話を聞いた後、口に出してはただ「いやあ、それは失礼」と言っただけで、その後「なるほど。さすが噂に違わぬ抜群の記憶力だ」との「心の声」。
この「心の声」の台詞を聞くたびに、私は「違う[=記憶力ではなくて愛しているから]だろ。何て鈍いんだ」とつぶやいてしまいます。
旧作アニメ版ではフレデリカはエル・ファシルでのことを話題にし始めた段階で
「あの時提督は一人の女の子の心に絶対的信頼を植え付けるのに成功なさいました」
と言っているからです。
つまり、彼女は「8年越しの愛」をすでに告白しているわけです。
このあたり、原作小説や新作アニメではどうなっているのでしょうか。
いつもありがとうございます。
おっしゃるとおりヤン派です!
その理由は「風采の上がらない」のに「美女に愛される」所に共感するからです。笑
フレデリカは料理があまり得意ではないんですね。
完ぺきなフレデリカですが、そういう弱点がある所もいいです。
新作アニメは原作に忠実で「君の記憶力はもっと有益な方面に生かすべきだね」も言っていたと思います。
「あの時提督は一人の女の子の心に絶対的信頼を植え付けるのに成功なさいました」も言っていました。
ただ「君の記憶力はもっと有益な方面に生かすべきだね」というせりふは難しいせりふなんですよね。
聞きようによっては、ヤンの好感度が落ちてしまう。
だから旧作アニメは敢えてはずしたんでしょうね。
あと、このくだり。
田中芳樹先生も迷いがあった気がします。
常に明晰な文章を書く田中先生が、このくだりだけ「それは負け惜しみ以上のものではないようだった。」と奥歯に物が挟まったような表現。
この時点で、田中先生がヤンとフレデリカのことをどこまで構想していたかを知りたいです。