平成エンタメ研究所

最近は政治ブログのようになって来ました。世を憂う日々。悪くなっていく社会にひと言。

「屍人荘の殺人」 今村昌弘著(東京創元社)~ゾンビ=津波 3・11 東日本大震災のトラウマを持つ主人公

2018年02月16日 | 小説
 話題の『屍人荘の殺人』(今村昌弘著・東京創元社)を読みました!

 ゾンビに囲まれた別荘で起こる密室連続殺人。
 ついに本格ミステリーにもゾンビが出るようになったか。
 ネタバレになるので具体的に書かないが、まさか×××が凶器になるとは。

 二番目のエレベーターでの殺人トリックは、僕でも何となくわかりました。
 これを実行するのは大変だし、不確定要素も多いから、どうかとは思いましたけど。
 むしろ最初の殺人のトリックがわからなかったなぁ。
 何らかの形でゾンビを犯行現場の部屋に引き上げたのだと思っていた。

 犯人の動機はなぁ……。
 本格ものの常としてイマイチ弱い。
 松本清張も書いているけど、ステロタイプの動機で人間が描けていない気がする。

 面白いのは、語り手の主人公が3・11東日本大震災の被災者で、これのトラウマを抱えていること。
 <津波に襲われている人間>=<ゾンビに囲まれている人間>
 ゾンビが津波にオーバーラップしていて、主人公は〝人間の無力さ〟をふたたび感じるという仕掛けだ。

 僕もそうだけど、3・11は僕たちの心に何らかの影響を与えている。
・渦巻く津波。
・のみ込まれる町。
・次々と報じられる原発の危機。
 今でも心に残っているし、あの映像をもう見たくない。
 3・11以降じゃないのかな? この国がおかしくなって来たのは。

 現在、政府は原発再稼働を進めているけど、あの現実を目の当たりにして、よくそんなことができるよな。
 まあ、これくらいのハートの強さ、鉄面皮でなければ政治家なんかやれないんだろうけど。

 あとは主人公がラストで考える人間観が興味深い。
 ネタバレになるので具体的には書かないが、
<人は他人の悪い面を見て悪人と決めつけるが、
 ひとりの人間には悪い面ばかりでなく、良い面も人間的な面もある。
 だから、ひとつの面を見て簡単に悪人と決めつけてはいけない。もっと複合的に人間を見よう>
 という人間観。
 これは犯人や殺された被害者にも言えることで、彼らの救済になっている。

 最後は文章表現について。
 重い死体を女性が運べるか、という実証実験をおこなった時、探偵役の剣崎比留子は主人公を背後から持ち上げる。
 その時の表現。

〝やにわに、背中に比留子さんの胸が押しつけられた。
 比留子さん! 小柄なくせしてなんて凶悪なものを持ってるんだ!〟

 比留子さん、巨乳だったのか!
 こういう表現はラノベ的ですよね。


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 相棒16 「さっちゃん」 ~「... | トップ | 内閣府が作成した「クールジ... »

コメントを投稿

小説」カテゴリの最新記事