平成エンタメ研究所

最近は政治ブログのようになって来ました。世を憂う日々。悪くなっていく社会にひと言。

マッチポイント

2007年03月09日 | 洋画
 ウディ・アレンの「マッチポイント」。
 物語はこう。
「アイルランド人のクリスは、英国の上流階級に憧れる野心家。高級テニス・クラブのコーチになり、金持ちの息子・トムと親しくなる。ある日トムに誘われてオペラに行くと、トムの妹・クロエに気に入られる。やがて交際が始まり、クリスはクロエの父親の会社の社員になり二人は結婚、クリスの人生は前途洋々に見えた。しかしクリスはトムの恋人・ノラとも浮気を続けていた。ノラを愛しているが、クロエが与えてくれるリッチな生活も手放せない。自分の人生を完璧にするため、クリスは殺人を思いつく」(goo映画より)

 ラブサスペンスとはいえ、ウディ・アレンのカラーが明確に出ている作品だ。
 まずは女を追いかける男。
 クリスは魅惑の女性ノラをひたむきに追いかける。それは「ハンナとその姉妹」のエリオット(マイケル・ケイン)が、妻の妹のリー(バーバラ・ハーシー)を追いかける様に。ウディが演じたすべてのキャラクターが愛する女たちを追いかける様に。
 『女を追いかける男』
 すなわち、愛へのあがき。
 これはウディ・アレン作品の重要なモチーフだ。
 
 さて共通点の2番目はセックス。
 「マッチポイント」のクリスはノラと情熱的なセックスをする。
 これはウディ・アレンのあこがれ。
 ウディの演じたキャラクターたちは性的にひ弱で、常に情熱的なセックスをしたいと悩んでいる。クリスはその裏返しだ。たくましく荒々しくノラを抱く。雨の中で、ノラのアパートで服を破って。
 こんなシーンをウディの映画で見てしまうと、常にセックスのことで悩んでいるニューヨークのインテリ・ウディの顔が浮かんできておかしくなってしまう。

 そして共通点の3番目は主人公を抑圧する存在。
 今回は妻のクロエがそうだ。
 クロエは半ばノイローゼの様になって、妊娠することを求めている。
 不妊治療に通い、体温を測り、この時期の朝は受精にいいからと言ってクリスにセックスを迫る。
 これでは男はたまったものではない。
 この様にウディ・アレンの映画では主人公を抑圧する存在がよく出て来る。
 例えば「インテリア」の母親。「ハンナとその姉妹」のリーの同棲相手の画家フレデリック(マックス・フォン・シドー)。
 主人公たちはこうした自分を抑圧する存在に反抗するが、「マッチポイント」のクリスもそう。浮気という形で反抗する。

 そして他のウディ映画との共通点の最後は哲学的命題。
 今回は「罪と罰」。
 (以下、ネタバレです)

 クリスはノラと隣の夫人ふたりを殺害する。
 隣の夫人は偽装のため。
 夫人の部屋に強盗が入って殺害され、たまたま戻ってきたノラが巻き添えを食って殺されたと見せかけるためだ。
 そして結果は偶然も重なってクリスの思惑どおり。
 警察は別の麻薬常習者を犯人とし、クリスは完全犯罪を成し遂げた。
 罰を免れたクリス。
 しかし、罪は免れない。
 クリスは人生の息を引き取る最期まで「罪」を背負っていかなくてはならない。
 常にノラと何の罪もないのに殺された夫人の幻影を見て生きなくてはならない。
 ウディは「クリスは罰を免れたが、果たしてその後の人生は幸せでしょうか?」と問うている様だ。

 それにして今回のオチは見事に観客を裏切ってくれた。
 川に投げ捨てた夫人の宝石。
 指輪だけが柵に当たって、川に落ちなくて道端に。
 それがクリス逮捕の重要な要素になると思いきや……。
 テニスの網に当たったボールがどちらのコートに落ちるのかというモチーフにリンクする点といい、実に小気味よくおしゃれだ。
 こういう小気味いいオチのある作品を取らせると、ウディはとてもうまい。




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