平成エンタメ研究所

最近は政治ブログのようになって来ました。世を憂う日々。悪くなっていく社会にひと言。

映画「シビル・ウォー」~かくして少女は戦場カメラマンになり、彼女は戦場カメラマンでなくなった

2024年12月20日 | 洋画
 映画「シビル・ウォー」
 もしアメリカで内戦が起こったら? という作品である。

 舞台は近未来のアメリカ。
 憲法で禁じられているはずの3期目に突入し、FBIを解散させるなどの暴挙に及んだ大統領に反発し、19の州が分離独立を表明、内戦が勃発。
 テキサス・カリフォルニアが連合する「西部勢力(WF〈Western Forces〉)」と、フロリダ~オクラホマにかけて広がる「フロリダ同盟」は2つ星の星条旗を掲げ政府軍を次々と撃退。
 ワシントンD.C.に迫り、首都陥落は時間の問題。

 先日、韓国で非常戒厳が発動され、失敗に終わったが、
 もし成功していたら独裁政権の樹立、あるいは内戦になっていた可能性がある。
 それはシリアでも同じ。
 アサド大統領が亡命せず、戦い続けていたら内戦になっていたかもしれない。
 あるいは来年、大統領になるトランプ氏。
 トランプ氏があまりにも強権を振るえば内戦になるかも?
 というわけで、この作品、なかなかリアリティがある。

 さて、ここからが本題。
 以下、ネタバレ。


 ……………………………………

 この作品の本質は「内戦」を描くことではない。
「戦場カメラマン(ジャーナリスト)」を描くことにある。

 すなわち
・戦場カメラマンになる少女
・戦場カメラマンでなくなる女性
 の物語だ。

 ジェシー(ケイリー・スピーニー)は新人だ。
 戦場カメラマン、リー・スミス(キルティン・ダンスト)に憧れて、同行する。
 だが新人だから危なっかしい。
 無闇に飛び出さないように記者のジョエル(ヴァグネル・モウラ)にしばしば背中を掴まれる。
 死体でいっぱいの穴に落とされて吐いたりする。
 だがジェシーは若くて柔軟だ。
 スポンジが液体を吸い込むように戦場でのふるまい方を吸収していく。
 彼女は次第に一人前になっていく。

 一方、ベテラン戦場カメラマンのリー・スミス。
 リーはジェシーに「目の前で仲間が殺されても平然と写真を撮れるようになれ」と教える。
 だが、師であるサミー(スティーヴン・ヘンダーソン)が命を落とすことによって変貌する。
 弾丸が飛び交う戦場を怖れるようになる。
 戦場カメラマンとしての勘やセンスは残っているが、恐怖は拭えない。
 そして──
 飛び出したジェシーが撃たれそうになった時、リーはジェシーの盾になって命を落とす。
 リーはすでに戦場カメラマンではなくなっていたのだ。
 以前のリーならジェシーが撃たれる写真を平然と撮っていただろう。

 この作品、リーが撃たれた後がすごい。
 自分の代わりに撃たれたのにジェシーは何の感傷もなく、死んだリーを置き去りにし、
 スクープ写真を撮るために突っ込んでいく。
 リーの友人であるのに記者のジョエルも悲しむことなく、ジェシーと共に突っ込んでいく。

 これが戦場カメラマンなのだ。
 いちいち感傷に浸っていてはやっていけない。
 スクープ写真を撮るために心をダイヤモンドのように硬くする。 

 これが人として正しいのかどうかはわからない。
 幸せなのかもわからない。
 敢えてジェシーの立場で言えば、戦場は非日常空間なので日常の感覚ではやっていけないのだろう。
 日常の感覚を抱いた時点で殺されてしまう。

 この作品の後半30分はものすごくドライだ。
 リーを放置したジェシーを是とするか、身代わりになったリーを是とするか、
 これらの判断は観る者に委ねられる。

 ここが今作のすごい所だ。


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