第1に、トランプは、アメリカ国民、特に共和党員の根深い政治家不信をうまく利用した。この不信感はワシントンD.C.の現職の政治指導者に向けられており、彼らは、官僚制度や連邦議会の行き詰まりを打破できないでいると批判している。 それに対して、トランプは、実績を出し、成功したビジネスリーダーとして、「自分なら、変えられる」とうったえている。
第2に、彼の歯に衣着せぬ、単刀直入に「ありのままを言う」スタイルが、民衆に受けた。民衆は当たり障りのない、曖昧で事実を隠す政治家、また本音ベースで透明性の高い発言を滅多にしない今の政治家に飽き飽きしていた。
トランプの移民問題に対する強硬な態度 (「メキシコ移民を遮断する壁を構築し、それを支払うようメキシコに強制する」) や、テロの問題に対する発言 (「イスラム教徒すべてを、米国に入国するのを妨げるべきだ」) は、一部の大衆に受け、特に低学歴の高齢白人男性、トランプの中核の支持者グループであり、グローバル化や海外からの脅威に危機感を持つ者を惹きつけた。
第3に、現職の政治指導者へ不満をぶちまけ、外国との経済競争の脅威を強調し、外国人テロリストへの脅威を警告することで、トランプは米国の病の原因を外国の所為にすることができた。彼は、米国が世界にこれほど多くを提供しているのに、他の国々が、これを有利に活用し、米国人の雇用を奪い、米国の国力を弱体化させていると主張している。そうして、大衆の一部の不安をあおり、彼は「偉大なアメリカを再び」と約束している。これが受けた。
第4に、彼の解決策は、シンンプルに聞こえることだ。米国を保護するために壁を作る、中国からの輸入に高率の関税を課す、米ドルの競争力強化のために、貿易相手国の通貨引き上げを各国に強制する、現行の貿易協定を米国に有利になるように再交渉する(TPPに関しては、全面撤回する)、囚人から情報を取得するためには拷問する、同盟国が防衛のためにもっと多くの負担を共有しなければ米軍を撤退するぞと脅迫する、といった具合だ。
第5に、トランプは、選挙運動で、両党の他の候補者が資金提供者に依存し、彼らに迎合し主張を変えざるを得ないのに対して「自分は、すべて自己資金で賄っており、自分が思うことを口に出すことができ、ロビイストや特定の利益団体に迎合する必要がない」と主張している。
第6に、トランプは、マスメディアを有効に活用した。数年間、彼は、人気テレビ番組の司会者であったし、彼の短く、切れ味良い話術は、テレビ討論会やインタビューで、効果的だった。さらに、マスメディアの方も、彼の2014年6月の立候補以来、彼の発言はエンタテインメントとしても面白く、話題を呼び、視聴率や新聞の売り上げに貢献することから、17人の共和党候補者の中でも彼に関する報道が群を抜いて多かった。
第7に、2009年のオバマ政権が始まった頃、共和党指導部は、その最優先課題は「1期4年でオバマ政権を終わらせる」ことと発表した。これは、党が上院と下院の両方で、医療関連、移民、銃規制、気候変動、環境規制、イランとの交渉、キューバとの外交関係の再開など「あらゆる問題に関するオバマ政権の努力を妨害するために、できる限りの手を尽くすこと」を意味した。妥協しないというこの断固とした態度は、共和党と民主党の間の両極性を悪化させ、政治が機能不全であると米国民の目に映り、現職政治家に対する国民の不信と不満につながった。
第8に、共和党指導部はこうした党員の怒りや不満を十分に把握していなかった。これが、党員集会と予備選挙が2016年2月に始まるまで、トランプの立候補を真面目に捉えていなかった理由である。そのため、2015年、2016年の間、他の16名の共和党候補者はお互いに戦っていた。特に、主流派の候補で、前フロリダ州知事ジェブ・ブッシュ、ニュージャージー州知事クリス・クリスティ、およびフロリダ州上院議員マルコ・ルビオといった候補者は、お互いに足の引っ張り合いに終始し、敗北することとなった。その間に、トランプは、最有力候補として頭角を現した。そして、彼らが今年2月にその現実に気が付いた時には、トランプの勢いは、止めることができないパワーとなっていた。