政治資金に詳しい元地検特捜部郷原弁護士によると「政治資金の「支出」に関する虚偽記入について、政治資金規正法違反で刑事責任を問われた例は、おそらく過去にはないだろう。」もし「電話のやり取りのみで会議は行われておらず、『宿泊費』として政治資金収支報告書に記載すべきだったのに、会計責任者が『会議費』と誤って記載してしまった。」と説明し、いずれにしても「収支報告書を訂正、削除した上で返金する。」と記者会見すれば刑事責任は免れたと個人的意見を述べた。元地検特捜部上がりの先生ですから重みがあります。どうやら立ち会った記者達の追求の甘い稚拙さで逃げ切った感がありましたが、語るに落ちた感が出てきました。決め手は『自分のカネは極力ケチった為に十分なリーガルチェックを怠った。』会見で会議をしたと明言した以上、会議した相手や内容等の客観的資料が必要で東京地検特捜部が「告発」に基づき調べれば事実関係はすぐに解明できるはずです。会議は開催されていない。→「虚偽記入罪」→政治資金規正法違反容疑→都議会紛糾→辞職?裁判 舛添知事の好きなパリの「会議は踊る、されど進まず」と200年前のウィーン会議張りの都議会大混乱です。来年の都議会選挙を見据えて、与党といえども我が身かわいさに紛糾するはずです。
以下抜粋コピー
正月の家族旅行の費用を、政治資金収支報告書に「会議費」として記載していた疑いなどが指摘されていた舛添要一東京都知事が、昨日(5月13日)の定例記者会見で、
参議院議員時代の2013年1月と2014年1月の2回にわたり計37万1000円を会議費として千葉県内のホテルに支出していたことについては、宿泊していた部屋で事務所の関係者らと会議を行った。2013年は直前に行われた総選挙の結果総括と、その年の7月に予定されていた参議院選挙の対応について、2014年については、直後に出馬表明した都知事選の対応について会議を行なった。
などと、ホテル代金の支払いは政治活動の支出であったと説明した。そして、
会議使用とはいえ、家族が宿泊している部屋を使用して懸念を招いたことは反省している。
と述べて、2件の会議費の支出について、収支報告書を訂正、削除した上で返金する方針を明らかにした。
正月の温泉ホテルでの家族との滞在の際に、政治に関連する「会議」を開いたと説明しながら、会議の内容はおろか、参加者や人数などについても「政治的な機微やプライバシーに関わる」として明らかにしないという説明は凡そ論外であり、全く信用できない。この点については、長谷川豊氏、おときた駿氏などのブログでの厳しい指摘に全く同感である。
私は、舛添氏の政治家としての姿勢・資質について、かねてから根本的な疑問を持っており、今回の疑惑について週刊文春で指摘された後、「精査する」という言葉を繰り返していた舛添氏が、記者会見で、真摯な説明・謝罪をすることはないだろうと思っていた。舛添氏が、会見で見苦しい弁明・言い逃れをしたのは予想どおりであった。
しかし、それにしても私が不思議に思うのは、数日間、「精査する」という言葉を繰り返し、時間をかけて検討していたわりには、余りにも弁明の内容が拙劣なことだ。都民の理解・納得を得られないどころか、刑事責任という面に関しても、重大な「突っ込みどころ」を提供してしまったように思える。
今回の舛添氏の疑惑については、政治資金規正法違反(政治資金収支報告書への虚偽記入罪)に当たるのでないかが問題とされていた。家族旅行の費用を政治資金の支出として記載するのが、「虚偽の記入」に当たることは当然のようにも思えるが、それが、実際に、犯罪として処罰の対象になるかと言えば、そこには、いくつかの隘路があった。
まず、政治資金の「支出」に関する虚偽記入について、政治資金規正法違反で刑事責任を問われた例は、おそらく過去にはないだろうということだ。
政治資金の寄附などの「収入」を収支報告書の記載から除外する「ヤミ献金」が処罰の対象にされた例は多数ある、しかし、「支出」に関しては、過去に、問題が指摘されて政治家が批判された例は少なくないものの、刑事事件として立件され、処罰された例は聞いたことがない。政治資金の使い方は、基本的には、政治家や政党の政治的判断に委ねられているので、おかしな使い方をしていても、「支出の適切さ」の問題にとどまり、収支報告書の記載が「虚偽」で、しかも、「意図的な虚偽の記入」だと立証できる場合はほとんどないからだ。
ましてや、2件のホテルの宿泊代の合計約37万円という金額は、過去の政治資金収支報告書の虚偽記入罪の事例と比較すると、二桁小さい。
常識的に考えれば、今回の舛添氏の問題も、刑事事件として立件され、起訴される可能性は低いということになる。
ところが、今回の舛添氏の弁明で、「会議費」として記載した理由について、「宿泊していた部屋で事務所の関係者らと会議を行った。」と説明したことで、その「会議」が実際に行われたのかどうかが、収支報告書の「虚偽」記入があったのか否かに関する最大のポイントとなった。しかも、その「会議」の存在には、重大な疑問が残されたままである。
そもそも、本当に会議を開いたのであれば、少なくとも、参加者の人数ぐらいは示せるはずであり、長谷川氏も指摘するように、正月の家族旅行中に緊急に会議を行ったのであれば、関連するメール等のやり取りがあるのが当然だ。
舛添氏の会見での説明が嘘だとして、政治資金規正法違反で検察庁に告発が行われる可能性は高いであろう。その場合、「会議」が実際に開かれたかの事実解明が、検察によって、刑事事件の捜査として行われることになる。客観的証拠を収集し、関係者から聴取すれば、事実は容易に判明するはずだ。
37万円という金額について、刑事事件にするレベルかという問題はあるものの、政治団体の代表者である舛添氏自らが、「会議を開いたのだから“会議費“の記載は虚偽ではない」という弁解を続け、それが虚偽だったということになれば、「政治資金の収支を公開し、政治団体及び公職の候補者により行われる政治活動が国民の不断の監視と批判の下に行われるようにする」という政治資金規正法の趣旨に照らして、看過できない犯罪と評価されることになりかねない。
もっとも、政治資金収支報告書に関連する犯罪については、収支報告書の記載について責任を負うのは会計責任者であり、今回の舛添氏の問題も、会計責任者に「虚偽の認識」がない限り犯罪にならない、という見方もあるが、私は、必ずしもそうは思わない。
というのは、政治資金収支報告書に、記載すべき事項を記載しなかったという「不記載罪」は、その記載義務を負う会計責任者の「身分犯」であり、会計責任者に犯罪が成立しなければ、代表者を含め、他の者に犯罪が成立する余地はないが、「収支報告書に虚偽の記入をした」という「虚偽記入罪」は、身分犯ではなく、誰が行っても犯罪は成立するとされている。今回の問題でも、「会議費」の記載について、舛添氏自身が行ったか、或いは、行わせたという事実が立証できれば、犯罪が成立することになる。
事実関係の詳細は不明だが、家族旅行のホテルの宿泊費は、舛添氏自身が支払いを行い、ホテル側から領収書を受け取っているはずだ。そして、舛添氏が、記者会見で、それを「返金する」と言っていることからすると、そのホテル宿泊費に該当する金額が、政治資金から舛添氏に支払われたということだろう。そうなると、その領収書を会計責任者に渡し、政治資金から支払いを受けた段階で、実際には、会議が開かれていなかったということであれば、虚偽であることを認識していた舛添氏の指示によって、会計責任者が、政治資金収支報告書に「会議費」と虚偽の記載をしたことになり、舛添氏自身について虚偽記入罪が成立することになる。(会計責任者が「会議の不存在」を認識していれば舛添氏との共犯。知らなければ、会計責任者を「道具」に使って舛添氏が自ら記入したということになり、「間接正犯」が成立する。)
つまり、会議が実際は行われていなかったとすれば、告発された場合には、罰金程度の処罰は免れないという結果になる可能性が高い。(罰金刑でも、原則として公民権停止で都知事失職となる。)
舛添氏は、どうして、自ら墓穴を掘るような拙劣な対応をするに至ったのだろうか。この数日間、舛添氏の危機対応を検討し、助言する弁護士や専門家がいれば、そのような助言はしないはずだ。
私が予想していた、最も「手強い弁解」、「巧妙な危機対応」は、「正月の家族旅行でホテル宿泊中にも、常に政治情勢の分析を行い、自らの政治活動の方針について考え続けていた。そのためのロケーションとして、家族も滞在する、海の近くのホテルが最も相応しい場所だった。滞在中も、関係者との電話連絡も行った。そこで、ホテル滞在費も、政治に関する費用に含まれると考え、政治資金から支出した。」と説明し、「『宿泊費』として政治資金収支報告書に記載すべきだったのに、会計責任者が『会議費』と誤って記載してしまった。」と説明し、いずれにしても「収支報告書を訂正、削除した上で返金する。」としていれば、これを「明白で意図的な虚偽記入」だとして刑事処罰を行うことは困難だったはずだ。
そのような説明で、「会議費」ではなく「宿泊費」だったと認めた上で、全面的に自らの非を認め、政治資金の使い方についての自ら姿勢を徹底的に改めるとして、真摯に謝罪していれば、都民の理解納得を得ることも、ある程度ではあるが期待でき、しかも、刑事処罰のリスクもなくすことができたはずだ。
長谷川氏は、「時間をかけて弁護士さんやリスクマネジメントの専門家チームと何時間もかけて質疑応答の練習をしてたんでしょ。訴えられないように。」と推測しているが、専門家にそういうことを依頼するとすれば、その費用には、都の予算はもちろん、政治資金をあてることもできず、「自腹で払う」ことになっていたはずだ。あらゆることについて自信満々で、しかも、ケチだとされる舛添氏は、そのようなことにお金を使おうとしなかったのではないか。
だとすると、結局、そういう舛添氏の人間性が、このような拙劣な危機対応という結果を招き、事態を一層深刻なものにしてしまったと言えるだろう。
郷原信郎(郷原総合コンプライアンス法律事務所代表)