福聚講

平成20年6月に発起した福聚講のご案内を掲載します。

坂東観音霊場記(亮盛)・・・19/31

2023-08-19 | 先祖供養

 

第廿一番常陸八溝(現在も第21番は八溝山日輪寺(八溝山))

常州久慈郡八溝山日輪寺は人王五十一世、平城帝の御宇、大同年中、弘法大師の開基なり。大師神靈の告に依て、十一面大悲の像を彫み、二尊両所に之を安置す。各々供僧の居院有って、上の坊、下の坊と称す。此の山、常奥毛の境にして、古は奥州の分境、今は常州に属す也。日本國境の事は、人王十三代成務帝の時、建内宿祢をして毎國の境を定めしむ。又三十代崇峻天皇の二年(588)巳酉秋七月、使いを東山・東海・北陸の三道に出して、其の國の境を改めしむ。又丗七代孝徳帝の大化二年(646)畿内の諸州を正定め、郡の大小を分つ。又四十代天武帝の十三年(684)伊勢王等を遣て、諸の國界を定む。昔は日本國數百四十四州也。後に小國を辨せて,惣數を減じ、大國を割分て小國に属す。人王五十代嵯峨帝の弘仁十三年、越前國を割り、加賀國を置く。而して六十六州と定む。又、守護、國司の事は神武帝、椎根津彦に詔して倭國造と為す。成務天皇四年、國毎に國造(くにのみやっこ)を置く。國造とは即ち國司也。皇極帝の代、國司と称す。文武帝の時に、國守と改む。頼朝公に至って國毎の守護を定め置たり。此の時、國毎に守護と國司と有り。公家より置く所は國司と称し、武家の置く所は守護と云也。已上𦾔事紀古事紀(まま)日本紀等に見たり。

弘法大師湯殿山より鹿嶋潟へ趣玉ふ時、此の八溝山の麓に至って、大なる渓河を渉玉ふ。然るに其の流水甚だ杳氣あり。大師此の水を掬ひ玉へば、掌中に梵文浮む。(佐州(佐渡)に梵字水と称する所あり。河水常に梵字浮む。)大師怪しみ思説(おもへらく)、此の水上の山こそ必ず佛陀の浄土成んと。邊の民家へ立入りて(此の山の三里麓に湯殿路と云所是也)件の仔細を語玉へば、土人の曰、我等愚昧にして渓河の奇特は知ざれども、此の水上に一の高山あり、巽の嶺を高笹と号す。朝日斜陽の照らす時は、嶺に五色の雲起こりて、雲中に音樂の響あり。我等攀陟んと欲へども、彼の高笹山の半腹に畏るべき鬼神住て、或時は鬼形を顕し、或時は蛇身とも化り、又は婦人童子と變じて、動もすれば人を損害す。土人是を号して、鬼賊大猛丸と云。昔は山を圍みて人家多し。然るに此の鬼神住てより自ら人家も離散して、終に怖畏の地と成ると。大師此の由を聞玉ひ、我今土人の為に、彼の鬼賊の怖畏を除かんと、直に高笹山に登玉ふ。尒るに霧雲、山を覆し、頻りに風雨震動して、更に東西も辨へがたし。時に大師虚空に向かって般若の魔字品を書玉へば、忽ち雲晴て風定って、果たして鬼神退没せり。鬼神の住し洞に自然と蛇身の形あり。土人是を鱗岩と称す。干魃の時、水を注ぐ。必ず自の辺に雨降る。俗に大師の法力にて、大猛丸岩に化すと云。斯て大師絶頂に至り山の形を見玉ふに、八葉の覆蓮花の如く、峯より八箇の谷分れ、山水八方へ流落ちる。仍って八溝の嶺と号す。溝は爾雅に水、川に注いで、谿と曰、谿に注いで谷と曰、谷に注いで溝と曰。倏狩衣を著玉へる神人左右より出来り、各々大師に対して曰、此の嶺は十一面観世音利生方便の浄土なり。大徳早く道場を發き、邊鄙の族を勾引玉へ。我等此嶺に跡を垂れて永く師が佛法を守護べし。一人は曰、大已貴と。一人は曰く、事代主と。各々慇懃に告畢て、一迅の      風に消失玉ふ。即ち二神の教に信(まか)せて、十一面の尊像二躰手親ら五尺余に彫刻して、此の八溝の嶺に安置し玉ふ。是當山大悲刹の濫觴なり。

八溝の絶頂に両社あり。一社は山王権現(祭神は事代主尊)今一社は日光大権現(祭神は大已尊神)、各々大同年中の鎮座なり。神名記に云、陸奥白河郡八溝嶺の神社と神司の傳に曰、往古は勅願所なり。平城天皇より、村上天皇まで、都て十一世の間、毎歳の九月奉幣使あり。厳重の神事坂東の大祭なりと。

此の嶺は四邊の山に獨歩して、朝日は先に照らし、斜陽は後に没る。仍って絶頂に於いては、自余の山無きが如し。晴日には所見十餘國なり。弘法大師此嶺に於いて、日想観に住し玉へば、山上に日輪現前して、一山全く一輪相と成ぬ。故に伽藍構営の後、大悲の寶閣をしょうして統て日輪寺と号す。真言家に傳る所の日輪大師の御影は又深旨あることなり。

巡禮詠歌「ふみ迷ふ やもぞの嶺の 雲はれて 月の光を見るぞ嬉しき」鬼神此の山下に住て、久しく人の怖れ迷しを、弘法大師。彼の魔障を除き、嶺に就きて道場を発し、大悲救世者を安置して、有信の為に結縁せしむ。是夜陰に行人の雲晴れ月の光を見る如きぞ。八溝の訓を闇夜の詞に取る。月の光は大悲の恵光を指すなり。若し理解に依ば、愚人佛法の風縁に値て、無明の雲を吹晴せば、唯心の月輪顕れて、已身の浄土を照らすと乎。

玄翁和尚は越前荻邨の産、能登の峩山禅師に謁し、禅門の奥義に豁達して悟道大徳の禅師なり。奥州會津へ志し、諸州を杜多遊歴して、此八溝の嶺に登り徧く山の景色を眺るに、二坊の外に人家なく、又尋常の往来絶て攀陟は惟巡礼者のみ。實に寂静無比の地なり。禅師此に心止まり、大悲の宝前に於て、日夜禅観に住しける。尒に禅師一夜の夢想に、本尊沙門の形を現じ、親り禅師に告玉ふは、那須野原の妖怪石は常に多くの有情に害あり。汝が修禅の力を以て、彼の石災を除くべしと。御手の数珠を投げ玉ふ。即ち禅師夢覚めて奇異の靈告を感じ、頻りに宝前を辞し去りて、山を下りて羽黒山を渡り、那須野の毒石を尋ねける。忽ち一人の老農夫来たり、丁寧に彼の毒石の事を語り、禅師を延て石の所に至る。即ち大悲の靈告を感じ、有情の為に慈心を起こして石に対して一偈を唱へ、所持の数珠にて打ち玉へば、妖石砕て火焔を吐しと也。(靈験集に見たり。俗に石工の石を砕く金鎚を玄翁と称す、此の故也とぞ。)

愚衲、那須野を過ぎて大田原の宿に出る日、土人に就いて殺生石を問、一夫婦あり、語て曰く、昔鳥羽院の御宇、玄翁禅師此の地に遊化して、数珠を以て之を砕く。其の片石飛び去りて奥州常山寺に止まる、と。此の原は縦七里横三里、北の山下に其の石あり。之に觸るる者は必ず死す。故に垣を構へて人を避くる。昔大地震有り。山上の石崩れ雑りて

而も其の石今辨へ叵し。試に彼に虫を放っては立ちどころに死す。其の垣内に時々鳥獣の死する有り。又飛鳥の死と不死とあるは、彼の毒気の立つと立たざる時と有る乎。其の辺に温泉涌き出る。人多く之に浴す。病を治す。山上に温泉大明神社有り。神明帳に云、野州那須野温泉の神社と。又僧院有り。高陽山月山寺と号する也。

玉藻の前は近衛之侍女也。艶媚を以て幸せらる。會(たまたま)上不豫なり。

醫療無効、安倍泰成を召して(玉藻の前が陰陽師安倍泰成に見破られた話は、史書の『神明鏡』(14世紀後半)、御伽草子の『玉藻の草子』(室町時代)、能の『殺生石』、『下学集』(1444年)などに見られる。)之を占しむ。泰成、宮に入り玉藻の前をして御幣を持たしめ、泰成祝詞を宣ぶ。玉藻の前幣を捨てて去る。化して白狐と為りて走て下野國那須野原に入り、人を害すること多し。上、三浦介義純上野介廣常を遣して之を駆しむ。是に於て試みに走犬を進めて射騎を習ふ。是犬追物の始なり。已にして三浦介、上総之介、那須野を狩る。狐又石と化す。飛禽走獣、之に觸るる者は立ろに弊る。故に殺生石と号す。玉藻の前、天竺に在ては、班足王夫人と為り、王を勧て千人の頭を斬る。漢に於いては、

妲己となり、紂王、之が為に亡ぶ(神社考に出ず)。一に曰く、殷の紂王、妲己を寵愛して婬宴を楽しみ、政事に荒む。時に道士雲仲子、分野を見るに妖気有り。怪みて照魔鏡を視れば乃ち金毛九尾の狐帝宮に在り。是に於いて國家の為に此の邪魅を除かんと欲し、乃ち屋mに入り千年の古木を伐り、一劔を作り以て紂に献ず。曰、今妖気宮殿に蔵る。此の宝剣を帯し玉はば、自ら退却すと。紂喜んで之を帯す。妲己が云く、妾本深閨に生長して、劔戟を見れば心驚き病を為す。且是の劔は雲仲子邪術を以て我王を惑す者也。紂即ち木剣を焼く。尒しより紂、悪逆日に増し遂に亡び玉ふ。紂が死する時、妲己九尾の狐と為て飛んで天に上る。

明和四年(1767)の亥の秋、愚衲坂東を巡礼して即に此の嶺に登るの時、大悲不思議の霊験あり。維時、九月二日、太田原の宿を立て、八溝の嶺に攀陟る。此の道十一里の間、旅客の為に飲食の設なく、山の半に至る頃より甚だ飢渇に及びける。然るに雨は頻りに河を傾け、日は已に西山に没る。春夏巡礼者の外、尋常の往来なければ、熊笹一面に生茂り更に道の綾分ち難し。山高くして風烈しく、濡る寒さも叵堪(たへがたき)に、為方もなく山に立止り、一専に大悲者を念じける。時に山を響す鉄炮の音あり。我是を聞て大いに喜び、人里あるか、但し狩人かと。其の音せし方へ趣けば、尚亦間近く聞へける。弥々是に力を得て意を策し、急行くこと十八九町程と覚て、上之坊の御堂に至る。即ち宿を乞ふて炉火に煖り、漸く人意地(ひとごこち)付ければ、坊の主と対話して、今宵は風雨に打るべきを、此の地の鉄砲の音に便て、尋来れる由を申せば、主眉を顰て是を訝り、此の嶺二坊の外に人家なく、殊に殺生禁断なれば、此の一山の中に於は鉄砲の音ある所以なし。的(まさ)しく世の苦を救玉ふ大悲依怙の方便ならんと。主は坐(そぞろ)に感涙を催しける。愚衲も毛竪して叵有(ありがたく)通夜(よもすがら)坊の主と共に普門品を讀誦して、大悲の本誓を謝し奉りぬ。

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