福聚講

平成20年6月に発起した福聚講のご案内を掲載します。

地蔵菩薩三国霊験記 7/14巻の8/8

2024-09-11 | 先祖供養

地蔵菩薩三国霊験記 7/14巻の8/8

八、母の為に身を売る女の事

讃岐國宇多津と申す所に住みける女あり。宿業拙き身貧乏にて依る方なし、且上年かたぶくまで一子もなきことを悲しんで同國に善度寺とて霊光の精舎あり、本尊は地蔵尊を安置せり。感應信に従ひ得利祈りに依る。されば此の貧女此の寺に参籠して子を求むことを祈る。丹誠佛意にや契(かなひ)けん女子を一人儲けて名を付けわびて寺に参り乞ひけるほどに老僧聞て地蔵のあたへ玉ふ子をば天竺の人は賀字を書き(お地蔵様の種字は梵字の「賀」)をかきて地蔵と拝すなればかごとなずくべしとて付け侍り。やうやくするほどに十歳になりけりぬまで飢寒にしずみいたわしく思ひ煩ひし処に、小女、母に向て申しけるはかくてびさせたまはんよりわらはを賣らせ玉ひて一日も浮世にましまさんほどは御心安くましませと打ち笑ひ申しければいよいよあはれに「せんかたなく涙を流しかきくれて居たりけるがさるにても汝一人を力とし末頼母敷く思ふところに汝を人の手に渡し其の價をとりて我が身命をいかにつぐべきと袂を顔に押しあててしばらく物もいはざりけり。小女うけ玉はり此の後は御心ししたがひ参らせんとあけくれ心をなぐさめけるが幾程もなくて母つひにむなしくなりぬ。小女なげきかなしみ声をもをしまず母いかにせん南無地蔵と申して絶え入りぬ。夢の中に若き僧一人来たり玉ひて、心やすかれ母も汝も共に能く善所にをくべきとひて野邊の送りし玉ひけり由もあらば善度寺にをそ見へまいらせんとてかきけす如くにうせにけり。其の後善度寺へ参り説法聴聞しけるに、親のためには身を賣ても営み命を捨ても供養すと信受して身をうたんと思ひ立ちける処に土佐の國畑と申す所の商人来るにたのみ身を五貫文(10万円か)に賣り其のあたひを持ちて寺に参り母のためにとて供しける。かくて自は土佐に立ち越へて人に使をし居たりき。孝の至り殊勝にぞをもほゆ。彼の家の主人をば入道浄雲と申して世にかくれなき山家侍にて年来七十にあまりける。心ざまやさしく情ある人にて常には「賀こ」(少女の名)が田舎の住居かなしかるらんとやはらかなる言葉をかけくるるを女房あやしに妬みて入道の面(まのあたり)にては共に温和の色をあらわし慈愛の言語を見せつつ後(しりへ)にてはさまざまの邪をくわだてて責使ひ、或は咎あらざるを罪にしければ賀ごつくつ゛くと思ふは所詮命あればこそ兎角の事あり。何の災なくてすらも七十の命古来稀なり。況や電光の無常の世、ながらへて何かせん。後の岩岸より飛び落ちて捨身し二人の君に心をやすめまいらせん。此の身あればこそ人道の仁愛し玉ふ。是則ち忍び難き慈心あるをもって如是にし玉ふ。又室家は此れに反して却ってねたみをなす。此れも亦此の身あればこそなり。然れば則ち我が躰一を亡ば仁愛は弥よ惻隠を増して心を他に推し嫉妬の心は日に身を省りみるの行跡を學玉はん。二つの徳示さざるの用を得たりと思ひ定めて南無地蔵大菩薩と百遍ばかばかり唱て手を合わせて落ちけるがいかがしたりけん、岸の上よりさがりたるつたかずらにもつれて中にさがりて居たりけり。主人賀こが見へざれば心もとなく思ひここかしこと尋ねけるほどに谷をのぞきみれば件のありさまぞ見へける。人々をどろき取り上げ子細を委しく問ければ賀こ涙を流し我が心曲らず義に背くことなく恩を忘れ申すことなけれども露の身のいきてあればこそさまざまの口舌を動かす・・如是の身を投げ侍るにかやうにながらへあることつれなけれと袂をかほにあてて申しければ入道も女房も涙にくれてことのはもなし。就中女房思ひけるは我が心故にこそ命をすてんと思ひつらめ。浅間敷さよ今より後は此方の心をあらためんと賀こに向て今日より其方を我がむすめと思ふべし。我を母と思へとてさまざま恩愛を加へける。さるから入道も親子の志深く城の七郎と云人をむこにとり目出度家となりぬ。是則ち地蔵薩埵の御利生なり。菩薩の因位の昔光目女と申し奉りき。母君の御為に廣大の願を発し玉ひ終に地蔵菩薩と現じ給ふ(地藏菩薩本願經閻浮衆生業感品第四「・・光目母者即解脱菩薩是。光目女者即地藏菩薩是。」)。彼は権化、此れは實者、實を導く権なれば権も亦實なり。實も本と佛種なれば實も亦権なり。斯に於いて何の隔心かあるべき。假にも偏執を思ふことなかれ。自他共に平等の念を以て人をも引き我も念佛すべし。怠る勿れ怠る勿れ。

地蔵菩薩三国霊験記巻七終。

 

 

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