守護國界主陀羅尼經卷第十
阿闍世王受記品第十では非道であった阿闍世王が「なぜ自国では疾疫災難無量百千なるや」とお釈迦様に問います。これをみるとお釈迦様がおられたころでも疾疫災難無量百千なる国があったということです。お釈迦様は国主の心がけ次第とおっしゃいます。
守護國界主陀羅尼經卷第十
罽賓國三藏沙門般若共牟尼室利譯
阿闍世王受記品第十
爾時會中摩伽陀國主阿闍世王。即從座起
偏袒右肩。右膝著地合掌恭敬。頂禮佛足而
佛もうして言く。
「世尊如來は今菩提樹下の我之國土にいまして。
陀羅尼及曼荼羅を説きたまふ。既に是のごとく無量功徳あり。何を
以ってか摩伽陀國は。風雨が不節にして旱澇が調わず。饑饉相仍ついで
怨敵侵擾し。疾疫災難無量百千なるや。唯願くは世尊我疑斷を網ちたまはんことを。」
爾時世尊阿闍世を讃じて是の如くの言を作したまふ。
「大王よ、善哉善哉。快く斯の義を問えり。未來世において能く多く一切衆生を利益す。
大王諦聽諦聽、善く之を思念せよ。吾れ當に汝がために分別解
説すべし。大王よ王の所言の如きは。我國中において常に飢饉怨敵等ありと。此の守護國界主陀羅尼は。以十六倶胝那由他陀羅尼をもって眷屬となす。此の大金剛城曼荼
羅は。三千五百曼荼羅をもって眷屬となす。然も彼の一切は皆
信心をもって根本と為し。深般若をもって先導と為す。大菩提心及び大悲心をもって莊嚴となす。大王よ一切善法は皆
悉く此の陀羅尼より生ず。一切の罪惡は因果を信ぜざるをもって根本とす。大王よ汝は今、因果を信ぜず。五欲樂に耽ること大猛風のごとし。其信心及菩提心を吹き。大悲總持を悉く皆な遠逝す。
大王よ今、眼耳ありといえども雖も、聾盲の人の雷霆を聞かず日月をみざるがごとし。何を以っての故に。汝が王の名字は尚ほ自ら聞かず。況んや餘
の聲においておや。何んが王名と謂うや。夫れ王というは即ち囉惹の義なり。囉字の聲は
所謂苦惱の聲。啼哭愁歎して主無く歸無く救護無き聲なり。
王は當に慰喩して是のごとくの言をなすべし。
『汝苦惱することなかれ。我れ汝の主となり、當に汝を救護すべし。涙を拭い、慈愍而之撫育すべし。』惹字聲の声と言は是れ最勝の義。是れ富貴義の義、是れ自在の義。是れ殊勝の義、是れ勇猛の義。是れ端正の義、是れ智慧の義。是れ能く一切衆
生憍慢自高にして他を陵篾するを摧滅するの義なり。
大王よ汝は今にしても因果を信ぜず。惡友提婆達多に親近して。所生の父を殺に、囚繋して
飢餓渇乏せしめ、死せざるに其の足を刖る。復た調達をして佛身より
血を出し。和合僧を破せしむ。復た護財(酔った象の名)を放ち。狂醉惡象をして如來を暴踐せしめんとす。大王よ汝には今復、極大重罪あり。所謂、一切衆
生清淨法眼を挑壞し。諸佛の眞正の法を斷滅し、人天
涅槃の門を關閉し、三塗の生死の惡趣を開示す。所以いかんとならば汝
は是れ國王なればなり。園苑に出遊するに。象駕を嚴備すること一萬二萬巾。車馬を馭すること二三十萬。以って翊從となす。復た百姓所有の
膏血をもって用いて象馬に塗る。」
時に阿闍世王は此語聞き已って。而佛に白して言く。
「世尊。我は今惟忖するに曾って以百姓膏血をもって用いて象馬に塗ることを省ず。世尊よ何を以ってか是の如き説をなしたまうや。」
佛言はく「大王よ王の象馬に一一皆欝金龍腦栴檀沈麝をもって、和して香埿となし、用いて象馬に塗る。是の如き等の香は皆な百姓より出ず。百姓を徴科すること油麻を壓するごとし。貧匱困苦にして千戸の資財も一象の費に充給すること不能。是の故に當に知るべし、百姓の膏血は甚だ得ることやすしとす。是の如くの香等は之を求むること甚だ難し。大王よ若し疑はば當に自ら一切の囹
圄(れいご・・牢獄のこと)萬姓の受苦を巡按すべし。大地獄に過ぎたり。大王は百姓所有
資財を逼奪して豪貴に賞賜し。遂に富者をして。日に益す奢侈ならしめ。貧乏
の者は轉た益す貧窮ならしめ。諸の貧人をして孤惸困苦ならしめ。足を投ぐる地無からしめ、皆な出家を求めしむ。是の如きの人は和上及阿闍梨有ること無(師僧をもたない偽の僧侶)。
自ら袈裟を被り、禁戒を受けず、無法にして自ら居す。諸の有情心をして
輕賤を生ぜしめ、見聞することを欲せず。固より是れ大王が其法眼を挑して(みだして)佛法を斷滅し。人天の路を閉じ、惡趣門を開くが故なり。是故に我れ言う大王は自己の名字を聞かずと。是の因縁をもって如何が更に此陀羅尼神力加護を得んや。大王よ我れ今、當に古昔因縁を説くべし。王よ當に諦らかに思解し其義を了すべし。大王よ乃ち往古の世に佛ありて出現したまふ。迦
葉波如來、應供、正遍知、明行足、善逝、世間解、無上士、調御丈夫、天人師、佛、世尊と名ずく。彼の佛の説法は初善、中善、後善にして梵行を開示したまふ。彼の時に王あり、名ずけて訖哩枳(きりき)という。彼の如來に深く淨信を生ず。王は中夜に二種の夢を得たり。一は夢に十獼猴(みこう・・猿)あり。其の九の獼猴は城中の一切人民妻妾男女を攝亂し、飮食を侵奪し什物を破壞し。仍て不
淨を以って之を穢汚す。唯一の獼猴のみ心に知足を懷い。樹上に安坐して
居人を擾さず。時に九の獼猴は心を同じくして此知足者を惱亂し。
諸の留難を作し。驅逐して獼猴の衆會を出す。第二の夢者には一
白象を見る。猶し大山の如くにして帝王門に当たる。首尾に口あり。皆な水草を食す。恒に飮噉すと雖も身は常に羸痩す。時に王は寤已って大恐怖を生じ。占相者を召して以って其夢を原ねしむ。占者王に白く、「九の獼猴は即ち是れ九王なり。其知足者は即ち是れ大王なり。是れ則ち九王が心を同じくして大王の寶位を簒奪すべし。象の二口は即ち是れ九王が自國邑を食らい、
兼ねて王國を食うなり。」
王は此語を聞いて驚怖毛竪て心未だ決せず。佛に見えて以って疑う所を断ぜんと思い。即ち左右に勅して種種供養の具を嚴備し。一心に迦葉佛所に往詣し到り已って作禮して。諸供を持して具如來に上獻し。曲躬し合掌して佛に言して白く。
「世尊よ我昨夜不善夢を得たり。唯願くは世尊、我為に解説し、疑
網を斷ぜしめ給はんことを。」(続)
阿闍世王受記品第十では非道であった阿闍世王が「なぜ自国では疾疫災難無量百千なるや」とお釈迦様に問います。これをみるとお釈迦様がおられたころでも疾疫災難無量百千なる国があったということです。お釈迦様は国主の心がけ次第とおっしゃいます。
守護國界主陀羅尼經卷第十
罽賓國三藏沙門般若共牟尼室利譯
阿闍世王受記品第十
爾時會中摩伽陀國主阿闍世王。即從座起
偏袒右肩。右膝著地合掌恭敬。頂禮佛足而
佛もうして言く。
「世尊如來は今菩提樹下の我之國土にいまして。
陀羅尼及曼荼羅を説きたまふ。既に是のごとく無量功徳あり。何を
以ってか摩伽陀國は。風雨が不節にして旱澇が調わず。饑饉相仍ついで
怨敵侵擾し。疾疫災難無量百千なるや。唯願くは世尊我疑斷を網ちたまはんことを。」
爾時世尊阿闍世を讃じて是の如くの言を作したまふ。
「大王よ、善哉善哉。快く斯の義を問えり。未來世において能く多く一切衆生を利益す。
大王諦聽諦聽、善く之を思念せよ。吾れ當に汝がために分別解
説すべし。大王よ王の所言の如きは。我國中において常に飢饉怨敵等ありと。此の守護國界主陀羅尼は。以十六倶胝那由他陀羅尼をもって眷屬となす。此の大金剛城曼荼
羅は。三千五百曼荼羅をもって眷屬となす。然も彼の一切は皆
信心をもって根本と為し。深般若をもって先導と為す。大菩提心及び大悲心をもって莊嚴となす。大王よ一切善法は皆
悉く此の陀羅尼より生ず。一切の罪惡は因果を信ぜざるをもって根本とす。大王よ汝は今、因果を信ぜず。五欲樂に耽ること大猛風のごとし。其信心及菩提心を吹き。大悲總持を悉く皆な遠逝す。
大王よ今、眼耳ありといえども雖も、聾盲の人の雷霆を聞かず日月をみざるがごとし。何を以っての故に。汝が王の名字は尚ほ自ら聞かず。況んや餘
の聲においておや。何んが王名と謂うや。夫れ王というは即ち囉惹の義なり。囉字の聲は
所謂苦惱の聲。啼哭愁歎して主無く歸無く救護無き聲なり。
王は當に慰喩して是のごとくの言をなすべし。
『汝苦惱することなかれ。我れ汝の主となり、當に汝を救護すべし。涙を拭い、慈愍而之撫育すべし。』惹字聲の声と言は是れ最勝の義。是れ富貴義の義、是れ自在の義。是れ殊勝の義、是れ勇猛の義。是れ端正の義、是れ智慧の義。是れ能く一切衆
生憍慢自高にして他を陵篾するを摧滅するの義なり。
大王よ汝は今にしても因果を信ぜず。惡友提婆達多に親近して。所生の父を殺に、囚繋して
飢餓渇乏せしめ、死せざるに其の足を刖る。復た調達をして佛身より
血を出し。和合僧を破せしむ。復た護財(酔った象の名)を放ち。狂醉惡象をして如來を暴踐せしめんとす。大王よ汝には今復、極大重罪あり。所謂、一切衆
生清淨法眼を挑壞し。諸佛の眞正の法を斷滅し、人天
涅槃の門を關閉し、三塗の生死の惡趣を開示す。所以いかんとならば汝
は是れ國王なればなり。園苑に出遊するに。象駕を嚴備すること一萬二萬巾。車馬を馭すること二三十萬。以って翊從となす。復た百姓所有の
膏血をもって用いて象馬に塗る。」
時に阿闍世王は此語聞き已って。而佛に白して言く。
「世尊。我は今惟忖するに曾って以百姓膏血をもって用いて象馬に塗ることを省ず。世尊よ何を以ってか是の如き説をなしたまうや。」
佛言はく「大王よ王の象馬に一一皆欝金龍腦栴檀沈麝をもって、和して香埿となし、用いて象馬に塗る。是の如き等の香は皆な百姓より出ず。百姓を徴科すること油麻を壓するごとし。貧匱困苦にして千戸の資財も一象の費に充給すること不能。是の故に當に知るべし、百姓の膏血は甚だ得ることやすしとす。是の如くの香等は之を求むること甚だ難し。大王よ若し疑はば當に自ら一切の囹
圄(れいご・・牢獄のこと)萬姓の受苦を巡按すべし。大地獄に過ぎたり。大王は百姓所有
資財を逼奪して豪貴に賞賜し。遂に富者をして。日に益す奢侈ならしめ。貧乏
の者は轉た益す貧窮ならしめ。諸の貧人をして孤惸困苦ならしめ。足を投ぐる地無からしめ、皆な出家を求めしむ。是の如きの人は和上及阿闍梨有ること無(師僧をもたない偽の僧侶)。
自ら袈裟を被り、禁戒を受けず、無法にして自ら居す。諸の有情心をして
輕賤を生ぜしめ、見聞することを欲せず。固より是れ大王が其法眼を挑して(みだして)佛法を斷滅し。人天の路を閉じ、惡趣門を開くが故なり。是故に我れ言う大王は自己の名字を聞かずと。是の因縁をもって如何が更に此陀羅尼神力加護を得んや。大王よ我れ今、當に古昔因縁を説くべし。王よ當に諦らかに思解し其義を了すべし。大王よ乃ち往古の世に佛ありて出現したまふ。迦
葉波如來、應供、正遍知、明行足、善逝、世間解、無上士、調御丈夫、天人師、佛、世尊と名ずく。彼の佛の説法は初善、中善、後善にして梵行を開示したまふ。彼の時に王あり、名ずけて訖哩枳(きりき)という。彼の如來に深く淨信を生ず。王は中夜に二種の夢を得たり。一は夢に十獼猴(みこう・・猿)あり。其の九の獼猴は城中の一切人民妻妾男女を攝亂し、飮食を侵奪し什物を破壞し。仍て不
淨を以って之を穢汚す。唯一の獼猴のみ心に知足を懷い。樹上に安坐して
居人を擾さず。時に九の獼猴は心を同じくして此知足者を惱亂し。
諸の留難を作し。驅逐して獼猴の衆會を出す。第二の夢者には一
白象を見る。猶し大山の如くにして帝王門に当たる。首尾に口あり。皆な水草を食す。恒に飮噉すと雖も身は常に羸痩す。時に王は寤已って大恐怖を生じ。占相者を召して以って其夢を原ねしむ。占者王に白く、「九の獼猴は即ち是れ九王なり。其知足者は即ち是れ大王なり。是れ則ち九王が心を同じくして大王の寶位を簒奪すべし。象の二口は即ち是れ九王が自國邑を食らい、
兼ねて王國を食うなり。」
王は此語を聞いて驚怖毛竪て心未だ決せず。佛に見えて以って疑う所を断ぜんと思い。即ち左右に勅して種種供養の具を嚴備し。一心に迦葉佛所に往詣し到り已って作禮して。諸供を持して具如來に上獻し。曲躬し合掌して佛に言して白く。
「世尊よ我昨夜不善夢を得たり。唯願くは世尊、我為に解説し、疑
網を斷ぜしめ給はんことを。」(続)