妙法蓮華経秘略要妙・観世音菩薩普門品第二十五(浄厳)・・15
二には女を求む。
「設欲求女。便生端正有相之女。宿殖徳本衆人愛敬」
「設欲求女」とは女を求むる苦を明かす。此の次に修行を明かすべしといへども上に既に禮拝供養を出せり、修行は上に同じきが故に重ねて出さず。是羅什の略を好む例なり。
「便生端正」等の一十六字(便生端正有相之女 宿殖徳本衆人愛敬)は應を明かし、又徳行を出す。「端正有相」とは女人の七徳の第一なり。「端正」とは容美しきを云。「有相」とは福徳の相あるを云。唯端正なるのみにして、相なき者は或は早く寡と成り、或は貧しき夫をまふけて福分意の任(まま)ならず。蓮華色比丘尼の在家の時の如き是なり。
今容儀福徳相兼て愛嬌禄位共に備ることを明かして、観音の利益の大なることをあらはすなり。「宿殖徳本」とは、過去世に善根を修して福徳の本因あることを明かす。「衆人愛嬌」とは現世の果報を明かす。端正の故に愛せられ、福禄あるが故に敬はるるなり。
問、若し過去の善因に酬へて衆人に愛嬌せらるると云はば、此れ唯其の女の功徳なり。更に観音の利益には非ざるべし如何。
答、凡そ此の男女を求むる女人は先世の殺生等の悪業の故に、或は始めより子なく、或は子あれども死失して無きなり。然るを観音の神力の故に、其の縁はなけれども宿善ある者をして託生せしめ玉ふ。或は中有の中にして説法教化して善因を植しめ玉ふ(中陰経に出たり)。是豈観音の自在力の致すところにあらずや。観心の釈を云ば、
一には果報の男女。謂く三悪趣より欲界の諸天まで皆子なき苦あり。若し観音を礼拝供養すれば大悲力の故に其の願成就するなり。
二には修因の男女。謂く、慈悲は女なり。善心は男なり。又定は女なり、慧は男なり。而るに中道の定慧は寂而常照の慧、照而常寂の定なるが故に、不二の定、不二の慧なり。「求男」の文に福徳(定)智慧とは、慧(男)に定あることを明かす。「求女」の文に「端正有相」と云は、「端正」は中道正観の慧を表す。是は定に慧あることを彰すなり。
復次に五戒に就いて云はば、不殺生は仁なり。不盗は廉なり。此の二は女の如し。定を表す。不妄語は質直、不婬は貞良、不飲酒は愚痴を離るるなり。此の三は男の如し。慧を表す。若しこの五戒の男女を失ふ時は人天の果報を失し、法財に乏しくして三途に堕す。若し一心に正道に帰すれば(観音に帰依するなり)五戒の男女を得て願成就するなり。復次に十善に約せば、殺盗婬の三つは五戒に例して知るべし。口業の四(妄語・両舌・悪口・綺語)は慧なり。意業の三も又慧なり。是皆男の如し。若し此の十善の男女を得つれば人中にして輪王となり、又は北洲千年の寿命を受けて福樂最勝なり。或は欲界の天に生れて五欲殊勝に壽命長遠なることを得るなり。復次に小乗初心の五停心観(不浄観 --- 貪(欲望)を抑制する。慈悲観--- 瞋を抑制する。因縁観 --- 痴(無知)を抑制する。界分別観--- 我執を抑制する。数息観---尋・伺を抑制する)の中に慈悲観(瞋恚を対治す)数息観(散心を治す)の二は定に属すれば女とす。不浄観 (貪を治す)因縁観(愚痴を治す)念佛観(障多きを治す)の三は慧に属すれば男とす。若し一心の正観に帰して五停心の男女を得つれば遂に四果を證じて大安楽を得るなり。又次に圓教に約せば中道無縁の慈悲を女とす。此の慈悲は三十二相の修因なるが故に端正有相の女なり。實相を観する智慧は男なり。此の男は初住に至って始めて得るなり。