・今日弘仁六年一月十日は大師が小野陸奥守に「野陸州に贈る歌并(なら)びに序」を贈られた日です(弘法大師全集および性霊集による)。
「戎狄馴れ難く辺笳感じ易し。古より有り、今何ぞ無からむ。公、大廈の材を抱いて、出でて犲狼の境を鎮む。堂中には久しく定省の養を闕き、魏闕には遠く龍顔の謁を阻てたり。天理歓然に合へりと云ふと雖も、人の情豈感歎無からむや。貧道と君と遠く相知れり。山河雲水何ぞ能く阻てむ。白雲の人、天辺の吏、何れの日か念ひ無からむ。聊か拙歌を抽でて、以て辺霧の頤を解くに充つ。
日本の麗城(美しい国)三百の州。就中に陸奥最も柔げ難し。天皇赫怒して幾たびか剣を按(おさ)ふ。相将幄の中に争うて謀を馳す。往帝も伐ち、今上も憂へたまふ。時時の牧守劉(ころ)すこと能くせず。古より将軍悉く啾啾たり。毛人羽人境界に接す、猛虎豺狼処処に鳩(あつま)る。老鴉の目、猪鹿の裘。髻の中には骨毒の箭を挿み著けたり、手の上には毎に刀と矛とを執れり。田つくらず、衣おらず、糜鹿を逐ふ。晦とも靡く明とも靡く(昼夜問わず)、山谷に遊ぶ。羅刹の流にして人の儔(ともがら)に非ず。時時、人の村里に来往して千万の人と牛とを殺食す。馬を走らしめ刀を弄ぶこと、電の撃つが如し。弓を彎き箭を飛ばす、誰か敢へて囚へん。苦しい哉、辺人毎に毒を被つて歳々年々常に喫(くら)はるる愁あり。我が皇(きみ)、世の為に出でて能く鑒(かんがみ)みたまふ。咨(なげ)いて刃局(おさ)む。千人万人挙(こぞ)つても応ぜず。唯君のみ一箇帝心に抽でられたり。山河の気、五百の賢、允(まこと)に武、允に文、得ること天よりす。九流三略は肚(むらと)の裏に呑めり。鵬翼を一たび搏ち此の境を睨る。毛人面縛して城辺に側てたり。凶兵庫に蘊むで冶鋳を待つ。智剣胸に満ちて幾許(いくばく)ばかりの千ぞ。戦せず征せず。自ら敵無し。或いは男、或いは女、天年を保つ。昔は聞く、瞬帝の干舞の術を。今は見る、野公が略ごと匹無きことを。京邑の梅華は春に先だつて開く、京城の楊柳は春の日に茂し。辺城遅く暖かにして春の蘂無く、辺塁早く冬(さむ)くして茂実無し。高天高しと雖も聴くこと必ず卑し。況んや鶴の響九皐より出づをや。愁ふる莫れ、久しく風塵の裏に住(とどま)ることを。聖主は必ず万戸の秩を封む」。
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