先程まで、特売の台の周りには誰もいなかったのに、いつの間にか忍者のように人が立っているのが眼の端に見える。
俺が顔を上げると、そこには赤地に金色の豹柄の作務衣を着ている怪しいオババが“お揚げ(本日、特売)”の表示を見ながら考え事をしていた。
下駄を履いて腕組みをしている。
“ う~ん・・・?”
サザエのような髪型だ。
所々尖がった角がツンツンしている。
“ 不気味・・・。”
俺は、オババを見ながら考えた。
“ いくつぐらいなんだろ・・・?”
顔は横顔しか見えない。
“ オバチャンか、婆さんかどっちかな・・・?”
年齢は若ければ40歳、見ようによっては70歳くらいにも見える。
“ このオババも、お揚げを買いに来たのかな・・・?”
俺がオババを見ていると、オババも俺を見た。
“ ん・・・。”
オババの顔を正面で見た瞬間、俺は思った。
“ もう、年齢なんてどうでもいい。
このオババ、タダモノでは無いぞ。”
妙に眼付きの鋭い人相の悪いオババだ。
こう言う手合いは、係わり合いになってはいけない。
それに、オババに気を取られている場合ではないのだ。
俺は、お揚げを確保しなければならないのだ。
“ オババに取られないうちに、確保!”
俺は、特売の台に身を乗り出して、急いでお揚げの袋に左手を伸ばした。
“ よし、確保!”
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