受話器を置く音がした。
“ ガチャ!”
待ち受け音楽が始まった。
“ 寂しさにぃ~、負けたァ~♪
いいえっ、世間に負けたァ~♪”
「 ああ、また、この音楽かァ・・・。」
“ この町を、追われたァ~♪
いっそ、死のうと思ったァ~♪”
「 何か、気分が暗くなって来たぞ・・・。」
“ ちか~らの限り生きたのにぃ~♪
未練などないわァ~~~♪“
「 うう、手術はイヤだァ・・・・。」
“ ガチャ!”
「 おう、貴志、手術するのか?」
父親が出て来た。
「 しない、しない!
電話の待ち受け音楽、いい加減に変えて欲しいんだけど・・・。」
「 いいじゃないか、これで。」
「 気分が暗くなるよ。」
「 俺は、これを聞くと元気が出るんだ。
“昭和枯れススキ”だぞ。
我が家にピッタリだ。」
「 ピッタリと思ったら、貧乏から脱出しろよォ~。」
「 まあ、これはこれで、しみじみしていいんだよ。
それで、手術はいつするんだ?」
「 しないんだって!」
「 どうして?」
「 ヒビが入っているだけで、固定しておけば治るんだよ。」
「 何だ、しないのか。
それで、タヌキの友達が出来たらしいが・・・?」
「 それは、主治医の名前で、狸小路って言うんだよ。」
「 ふ~ん。」
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