トメさんは箒を掃く手を止めて、こちらにやって来た。
「 ふふふ、ようやく呼んでくれたね!
わたしゃ、いつ呼んでくれるのかと待っていたんだよ。」
「 ちょっとの間、この子見ていてくれる。
この子、神谷貴志君って言うの。
直ぐに戻ってくるから・・・・。」
「 ああ、いいよ。」
「 じゃ、お願いね。」
井上さんは、一棟に走って行った。
「 いつも忙しい人だわい・・・。」
掃除のトメさんは、井上さんを眼で見送りながら呟いた。
そして、俺の方を見て、ニヤッと笑った。
口の奥の方にある金歯が一瞬光った。
「 あんただろ、処置室で赤い口紅の看護婦を見かけたのは。」
「 えっ、どうして、それを知ってるの?」
「 看護婦の井上さんに聞いたんだよ。
他の人には見えないのに、井上さんだけには見えるようで悩んでたみたいなん
だよ。
でも、他にも見える人がいたって教えてくれたんだ。
ちょっと、安心したみたいだね。
あれは、悪さはしないよ。
気にすることは無いって言ったんだけど、気にしているようだね。」
「 そうか、悩んでたのか・・・。」
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