それで、俺と田中爺が果物カゴを見たのだ。
すると、山本爺が既にカゴからリンゴを取って齧っていた。
“ シャリシャリシャリ。”
俺は驚いて言った。
「 わっ、もう、食ってる!!」
山本爺は無表情なまま、クルッと向きを変えてベッドに戻り、布団を被った。
“ シャリシャリシャリ。”
俺は盛り上がった山本爺の布団を見た。
布団の中からリンゴを齧っている音が聞こえる。
“ どうせ、一人では全部食べられないし・・・。
どうも山本爺の行動は予測できないなァ・・・。”
田中爺は俺の唖然とした姿を見て笑いながら言った。
「 わしも、リンゴ、貰うでェ~。」
田中爺はカゴからリンゴを一つ取ってパジャマの裾でゴシゴシ擦った。
そして、ニヤッと笑ってリンゴを齧った。
“ シャリシャリシャリ。”
俺は田中爺の満足そうな顔を見て思った。
“ ま、取り敢えず話題は逸らしたな・・・。”
で、龍平との話の続きだ。
俺はベッドの足元でリンゴの成り行きを見ていた龍平に訊いた。
「 それで、龍平、今日の夜、何時に来る?」
龍平はチョット考えてから質問に答えた。
「 そうやな。
消灯が過ぎたら、看護婦に分からないように忍び込んで来るわ。
看護婦、ウルサイさかいな。」
「 分かった。」
「 じゃ~な。」
「 ああ。」
「 これ、貰っておくからな。」
龍平はリンゴを一つ持って部屋から出て行った。
“ シャリシャリシャリ・・・・。”
“ シャリシャリシャリ・・・・。”
部屋には田中爺と山本爺のリンゴを齧る音が響いていた。
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