日々の恐怖 8月30日 立田山
俺が大学生の頃の話です。
大学の周りには立田山があって、その山道には霊園があった。
当時、俺は学園祭実行委員会だったから、授業が終わる夕方から夜の11時くらいまで、大学の周辺の食堂とかからカンパをもらいに、先輩と出回りをしていた。
学園祭まであと3日、その日の晩のことだった。
この日は先輩と別行動で、俺は立田山の麓にあるR食堂にカンパをもらいに行っていた。
その帰り、霊園を通りかかったとき、霊園の中に人影が見えた。
俺は人一倍怖がりなので、『あれは見間違いだ』と頭の中で繰り返し、足早に山を下っていった。
翌日、先輩にそのことを話すと、先輩自身もその人影を見たというのだ。
しかも、先輩が「それは老婆だ」とまで言い切った。
そんな会話を二人でしていると、他の連中が興味津々に話に加わってきた。
もともと実行委員会をやるようなお祭り騒ぎが大好きな連中だから、その日の夜、肝試しをすることになった。
午後11時、俺たちは6人でその霊園までライトを持ってハイクをした。
案の定、やはりそこには人影があり、それまでは饒舌だった他のメンバーも言葉を失った。
確かにそこにいるのは一人の老婆だ。
しかし、なぜ墓場に・・・・?
俺たちは不自然でないように、あくまでも山を登りにきただけであるかのように、霊園にはそれ以上目をやらずに別の会話を始めた。
すると、その老婆が近寄ってきた。
「 あんたら、わしんこと見にきたっちゃな?
霊て思てから。」
皆絶句した。
俺は何がなんだか分からなくなっていた。
ようやく仲間の一人が、
「 すいません!」
と上ずり声で謝っていた。
老婆はしばらく俺らに説教をしたあと最後に、
「 わしはな、去年、夫ば殺されたっちゃげな。
あんたらみたいな大学生が学園祭前に浮かれて、酒ば飲んじから車ば運転してからの。
夫ば轢いたった!」
老婆は涙声で、俺らに向かって怒鳴った。
俺らは何も言えなかった。
老婆は続けて、
「 ちょうど今ぐらいの時間じゃ、夫が殺されたんは。
んでな、夫がよう夢に出てきて、『あの山ば通る糞ガキどもば呪い殺してやる』って言うもんじゃけんが、わしは夫が墓から出てさらかんように、こうやって学園祭前は墓ば見とるげな。」
俺たちは墓に手を合わせて、その日は解散した。
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