日々の恐怖 8月16日 お~い お~い
俺が小学生の時に体験した話です。
小学校中学年の時のことであんまり詳しい状況を覚えてないのだが、当時、家族と旅行でフェリーに乗った。
夕暮れが迫る時間帯で俺は船の船尾の方で一人で海を見てたんだけど、(家族は部屋みたいなところにいた)気が付くと薄暗くなり始めた海から、
「 お~い お~い。」
と俺を呼ぶ声がする。
俺はふと呼ばれたほうを見る。
すると、変なオッサンが海から首から上だけ出して俺に一生懸命叫んでる。
しかも、「お~い」ばっかりで他には何も言わない。
俺は、
「 ミャ~!! ひ、人が溺れてる~よ!」
と思い、ダッシュで近くにいた船員さんに人が溺れていることを伝えて一緒にもとの場所に戻ったが、その時にはもうすでにそのオッサンはいなかった。
船員さんが詳しい状況を求めてきたので、ことの次第を詳しく話したら、
「 ああ・・。
それは見なかったことにしたほうがいいよ・・。
それに気にしなくていいから・・・。」
とだけ言って去って行ってしまった。
俺は、
「 人が溺れて死にそうになってるのに、わけのワカランこと言って見殺しにすんのかよ!!」
と憤りながら、もう一回オッサンを見た船尾のところに戻った。
気のせいだったのか・・・、と思っていたら、
「 お~い お~い。」
と、俺を呼ぶ声がまたもや薄暗い海から聞こえてきた。
俺がもう一度海に目をやると、さっきのオッサンがまたもや海から首上だけ出して俺に向かって呼びかけてる。
「 ヤパーリ、人が溺れてるジャン!!」
と思って、再び船員さんに知らせに行こうとした瞬間、呼びかけてるオッサンの隣にポコっともうひとつ別のオッサンの顔が海から浮かび上がってきた。
その時にやっとその異常に気が付いた。
船は進んでいるのにそのオッサン達は船と同じ速度で船についてきている。
新たに浮かんできたオッサンも、
「 お~い お~い。」
とだけ俺に向かって叫んできた。
そして、あれよあれよという間にオッサンは増え、全部で5つもの別々のオッサンが俺に向かって、
「 お~い お~い。」
の大合唱を始めた。
さすがに俺も尋常じゃないものを感じてすぐにその場を立ち去り、親に今あったことを夢中で話したのだが、家族だれ一人とて信じてくれなかった。
しょせん人生そんなものなのかも。
人間が信じられなくなりそうな一瞬でございました。
その話、オヤジが経験している。
今オヤジと離れて暮らしてるから、とりあえず覚えてるやつを書くよ。
今度会った時にまた聞いておく。
よくあるパターンなんだけど、波間に頭だけ出ていて、「おーいおーい」っていうのは結構頻繁に見たらしいよ。
太平洋のどまん中で、オヤジが当直に立った時とかも、何度か見たって言っていた。
いきなり「おーいおーい」だもの。
最初は慌てて「漂流者だ!」ってみんなを呼んだりしたらしいけれど、古参のひとは航路のどこでそれが出現するか知ってるらしく、
「 ああ、またか・・。」
って言うんだって。
当時の船は、レーダーとかも無かったのかな?いやあったのかもしれないが精度がイマイチだったのかもしれない。
そのせいか、船首と船尾に立って、毎日交代で航路を見る「ワッチ」という当直があったらしい。そういう時に出るんだって。
太平洋の、激戦地の近くとかでよく見たって言ってた。
きっと戦時中の船が多く沈んでるのかな。
その「おーいおーい」を見た後は、船のみんなでオニギリや酒、タバコなんかを海に投げ入れてやるんだって。
怖いって言うよりも、同じ船乗りとしてすごく悲しいんだって。
だから「日本に一緒に帰ろう。この船に乗れよ。」って心の中で必ずみんな言ってたそうだ。
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