日々の恐怖 8月1日 伝言
結婚して2年で旦那の癌が発覚。
嫁親は結婚に反対し、旦那親は父親の浮気で離婚。
そして旦那の父親は会社の金を横領して刑務所に、母親は水商売で若い男と同棲中。
この母親は、嫁に金まで借りまくっていた。
嫁はOLをし、夜中までファミレスでバイト真夜中は道路工事の警備員に。
でも発病が26才の旦那の癌は、若い分だけ進行が早かった。
旦那の親は一度も見舞いには来ない。
手術や新薬の為、嫁は働いても働いてもお金がない。
病室に毎日行くと「もっと傍にいてくれ」と旦那は言う。
しかし仕事があるから長居できない。
嫁の睡眠時間は2日間で3時間。
若さだけで乗り切る日々。
この生活が2年半続いたある日、病院から電話が。
しかし嫁は仕事中で、気が付くまで9時間以上掛った。
必死に病室に行くと…、旦那はいなかった。
看護師に聞くと、旦那の母親が遺体を引き取ったらしい。
旦那の母親はとある新興宗教の熱心な信者。
旦那も名前だけ信者になっていた。
嫁が地方の旦那の母親に電話をすると、「葬式はこちらでやります。あなたは信者じゃないし来ないでよ」と。
呆然と立ちつくす嫁に、看護師から封書が渡された。
旦那からの手紙と離婚届け。
「 ありがとう。
毎日ボロボロになるまで俺の為に働いてくれて。
おまえはまだ若い。
誰よりも綺麗だ。
俺の死亡届けより離婚届けを出して。
俺の親はどうしようもない。
縁を切って自由になってくれ。
少し悔しいけど再婚して、俺がかけられなかった愛情を未来のご主人から受けて欲しい。
ごめん。
愛していたよ。
痩せ続け、手荒れしたおまえの手に涙が止まらなかった。
幸せになって欲しい。
ありがとう。
本当にありがとう。
○○、愛しているよ。」
嫁は号泣して倒れた。
166cm35キロ。
体も限界だったのだろう。
その後、旦那の実家地方に行くが母親は引越していた。
息子の生命保険で家を買っていたのを知ったのは数年後。
嫁は墓の場所すらわからなかった。
そんな嫁が海外で仕事先を見つけた。
一人で渡米。
そして3年振りに帰国し、役所関係の手続きを終え、仲間との飲み会に。
しかし、横断歩道を歩いていて車にひかれた。
幸い、脳震盪と脱臼。
脳の検査入院で1ヶ月。
ひいたのは俺。
親御さんに土下座して、毎日病室に行った。
俺の親も謝罪に行った。
嫁の意識が戻った時、「○○さん?」といきなり俺の下の名前を読んだ。
持参した黄色のチューリップを見て、「1番好きな花です。ありがとうございます」と。
その時は、寝ている最中に名前なんて話したかな?と思っていただけ。
俺より8才下で、とにかく綺麗な人だった。
退院してから海外に戻ると言う嫁に告った。
結婚したかった。
嫁は「×1ですが…」と恐縮していたが、双方の親は大賛成だった。
結婚式(嫁は初婚の時に挙式していないので、友人らが勧めてくれた)の前に、嫁の親友に初めてこの話を聞いた。
こんな苦労していたとは知らなかった。
でも、親友にさえ「忙しいけど大丈夫!」と、旦那が死ぬまで何も伝えなかったらしい。
結婚式はレストランで控え目にしたが、嫁の友達がみんな涙しているし、友達がたくさんいる人気者だと知った。
結婚して3年目に嫁から打ち明けられた。
入院中、旦那が夢に出て来て、
「 △さんはおまえを幸せにしてくれるよ。
俺の事は忘れて、△さんと幸せになってね。」
と、俺の名前を告げて消えたらしい。
その後、一切出て来ないそうだ。
若くして亡くなった旦那の分まで幸せにしてやりたい。
童話・恐怖小説・写真絵画MAINページに戻る。
大峰正楓の童話・恐怖小説・写真絵画MAINページ