日々の恐怖 6月6日 事故物件
最近体験した話を聞いてください。
今年の5月に某不動産会社のFCに就職したんだけど、仕事の中の一つに物件の写真を撮る、っていうのがある。
大家さんか管理会社さんに鍵貸してもらって、部屋の中の写真を撮って、それをサイトにアップする。
その日も俺はその仕事にまわる事になった。
で、物件にまわる前には一通り物件の下調べをする。
家賃とか、間取りとか、構造体だとか。
で、その日まわる物件の下調べしてたら、1つ明らかにおかしい部屋があった。
3DKで駐車場費、共益費込み込みで1万円ジャスト。
いくら俺の住んでる方が田舎だとしても、明らかに安い。
それ見た瞬間に、
“ あー、とうとうキたな。”
と思った。
速攻で上司にその部屋について聞いてみた。
そしたら、あっさりとその部屋であった出来事を教えてくれた。
簡単に説明すると、
そのアパートの1階に男が住んでて、ある女と付き合ってた。
でも男は浮気をしてて、それを知った女が自殺を考えた。
で、女はその男の住んでるアパートの屋上から飛び降りた。
恐らく、男の部屋の前(ベランダ側)に向かって。
でも、女は男の住んでいる部屋の、その上の部屋の人のベランダに落ちた。
落差は全然ないんだけど、プールの飛び込み台の要領で頭から落ちたらしくって、女は即死だったらしい。
で、当然そこの部屋の住人は出て行って、彼氏も出て行った。
それからというもの、その部屋に入った人は1カ月を待たずに出ていく。
で、家賃は下がりに下がって、1万円になった。
上司の説明は、大体こんな感じだった。
それで、俺はそのいわくつきの物件に、あろうことか写真を撮りに行かないといけないことになった。
スゲェ怖かったけど、まだ研修生だった身としては、断るわけにもいかない。
まぁ、パートのお姉さんに同行って形だったから、なんとか気を張ってその物件に向かった。
で、物件に到着。
想像してたようなモノとは違って、案外普通のアパートだった。
2階建てで全8戸の、田舎によくある造りの物件だった。
自分を励ましながら、怖かったけど問題の部屋の前までパートの姉ちゃんと行った。
鍵を開けて扉を開いたとき、違和感があったのを今でも体が覚えてる。
その日はまさにうだるような暑さだった。
日の差す密閉されたその部屋は湿っている感じがした。
これは嫌だな、と思った。
それで、いざ中に入って写真を撮るぞって時に、パートの姉ちゃんがポツりと言った。
「 ○○君(俺の名前)、頑張ってね!」
“ はぁ・・・・?”
まぁ、簡単に言えば、
“ 1人で撮ってきてね、私はここで待ってるよ。”
って事だ。
ちっさくガッツポーズで俺を励ます年上ポニテのお姉さまの姿を見て、カッコつけたくなった俺は、
「 じゃあ、行ってきます!」
と単身で部屋の中へと入って行った。
デジカメで部屋の写真を撮るわけだけど、3DKだから撮る写真の量が多い。
必然、部屋の中にとどまる時間も増える。
部屋の写真はまだ良かったんだけど、風呂、トイレの写真を撮るのには勇気が必要だった。
電気がつかない状態で、暗いトイレと風呂の写真をカメラのフラッシュ頼りに撮る。
超怖い。
でもまぁ、なんとか全部を撮り終えた俺は、パートの姉ちゃんに気づかれない程度の速足で部屋を出た。
「 撮ってきましたよ!」
俺はデジカメを姉ちゃんに押し付けると、すぐに扉を閉めて壁にもたれかかった。
想像以上に疲れていた。
外に出た瞬間に、暑さでどっと汗が噴き出した。
俺は研修生という身分上、撮ってきた写真をこのパートの姉ちゃんに確認してもらわないといけない。
で、もしもダメだったら撮り直しになってしまう。
だから、全身全霊で完璧の写真を撮って帰った。
後は姉ちゃんのOKの言葉をもらうだけ。
俺は半ば祈るようにして姉ちゃんの口が開くのを待った。
「 うん、問題ないね.」
カメラから視線を俺に移して、姉ちゃんがそう言った。
俺は思わず喜びで叫びそうになった。
「 じゃあ、とっとと次行きましょう。」
「 あ、でも待って、動画撮れてないね。」
言われて俺は気づいた。
とっとと終わらせたい、と急いでいたせいで、写真の他に室内の動画を撮る事をうっかり忘れてしまっていた。
俺は滅入る気をなんとか持ち直して、再びデジカメ片手に部屋の中へと戻って行った。
俺は部屋の真ん中でデジカメを動画に変えて再び撮影に戻った。
教えてもらった通り、顔からデジカメの画面を離して、脇をしめて体全体で回るように撮る。
動画は基本10秒まで。
とっとと帰りたかったけど、この10秒はどうにもならない。
とんでもなく10秒が長く感じた。
長い10秒を終えて、俺は今度は姉ちゃんの目とか気にせず、ダッシュで部屋を出て、すぐに姉ちゃんにデジカメを渡した。
再び姉ちゃんのチェックが入る。
動画を再生した時、動画の音声にノイズが入っている事にすぐ気がついた。
今までにもけっこう写真は撮ってきたけど、こんな事は初めてで俺も姉ちゃんもビビってた。
「 でもまぁ、なんとか許容範囲だね。」
って事で、デジカメの電源切って車に戻ろうとしたときに、
「 わっ!」
姉ちゃんが突然大きな声を出した。
「 なんですか!?」
「 ねぇ、○○君、君動画撮るときどうやって撮ってる?」
「 はぃ?」
何を言ってるんだ、と思ったけど、俺は動画を撮っている様を身振り手振りで説明した。
「 じゃあ、これおかしいよね。」
そういって、姉ちゃんは動画を最初に戻して再生した。
そして、ここと画面の右端を指差した。
俺も、指摘されてすぐに気がついた。
画面の右端。
画面を上から下に突き抜ける感じで、長い髪の毛の束が映ってた。
しかも、俺が画面を動かすと、それに合わせて揺れながらついてきてる。
ずっと、画面の右端に髪の毛の束があった。
「 うわ・・・・!」
思わずデジカメを放り出しそうになったけど必死でこらえて、デジカメを姉ちゃんに返した。
「 どうするんですか、これ?消しましょうよ。」
「 いや、一応社長に聞いてみないと・・。」
他の物件の写真を撮るのを後回しにして、社長に意見を聞きに会社に戻った。
それで、社長との協議の結果は、動画、写真は削除、その物件との仲介も切ることになった。
その後、その動画を消す前に会社で少し再生して見た。
やっぱりなんかの見間違いじゃないかな~って思って。
でも、やっぱりどう見ても髪の毛だ。
俺の髪はそんな長くないし、ましてやデジカメの画面を見るように撮ってたから、俺の髪の毛が映るわけもない。
“ なんだろう、これ?”
って、少し見てて、
“ あれっ・・・?”
と思った。
もう一人のパートのお姉ちゃんを見る。
長い髪の姉ちゃん。
姉ちゃんと動画を見比べて、違和感に気付いた。
“ なんでこの動画、髪の毛しか映ってないんだ?
普通、髪の毛が映るんなら顔なり体なり写るだろ。
どんなアングルだとしても、肩とか、横顔とか。”
でも、何回見直しても写ってるのは髪の毛だけだ。
そこで俺は思い出した。
この部屋のベランダで死んだ女は、屋上からベランダへ、プールの飛び込み台の要領で落下した。
つまり、頭が下だ。
俺の全身に鳥肌が立った。
つまり、逆さなんだ。
天井から、頭を下にして、そこにいたんだ。
逆さのまま、俺の目の前に、俺を覗き込むようにいたんだ。
気づいた瞬間、動画をすぐに消した。
あれ以来、物件を回る時はポケットにお守りを入れて行く。
不動産入ってから、こんな事が偶に起こる。
明日も写真撮りの仕事が待っている。
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