日々の恐怖 6月11日 盆栽
母が仕事場の同僚であるAさんに聞いてきた話です。
Aさんは、おじいさんと同居しているそうです。
おじいさんの趣味は盆栽で、なかなか良い作品らしく、展覧会などでいくつか賞をもらったこともあるそうです。
ある日のこと、いつも通り盆栽いじりをしていたおじいさんが酷く動揺しています。
「 どうしたの?」
と慌てて聞くと、おじいさんは
「 喋った・・・・。」
と答えました。
意味が分からず、
「 誰と?」
と聞きなおすと、
「 盆栽が、喋ったんだ!」
と声を荒げます。
Aさんは半信半疑でしたし、少し可笑しくなり、
「 なんて言ってたの?」
と聞くと、
「 いつもありがとう、って・・・・。」
それは良い事だねって言うと、おじいさんは静かになりました。
Aさんも本当の事なら、おじいさんの愛が伝わったのだなぁと嬉しくなったそうです。
しかし、ここで終われば良い話なんですが、このおじいさん余程怖かったのか、すぐに手元にあった全ての盆栽を売り道具も手放し、その一件以来盆栽には一切手を出していないそうです。
賞をもらう位なんですから良い出来なのでしょうに、ちょっと勿体ない。
お礼を言って売っぱらわれるとは、盆栽も思ってなかっただろうにね。
楳図かずおの話で似たようなのがありました。
最初美しい女の人目線で物語が進んでいくんだけど、実はその女の人は男の人が部屋に飾っていた鉢植えの花だった。
ある日思い余って男性に、
「 愛しています。」
と言ったら、男性は、
「 バラがしゃべった!!」
と言って鉢植えを壊してしまった。
はかない花の恋心は一瞬で終わったんだけれど、よく似た話があるとは思いませんでした。
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