大峰正楓の小説・日々の出来事・日々の恐怖

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日々の恐怖 6月5日 ミミズ

2015-06-05 20:05:53 | B,日々の恐怖


   日々の恐怖 6月5日 ミミズ


 この間、居酒屋で会社の同僚数人と飲んでいた。
掘りごたつ式になった座敷があって、衝立で他のグループと仕切られているような所だ。
時間は9時頃で、それまで生ビールを大ジョッキ3杯にあと酎ハイをかなり飲んでたから、もしかしたら酔っぱらって幻覚を見たのかもしれない。
 トイレに行こうとして通路で靴をはいたときに、俺らの右隣で衝立越しに飲んでたやつらの様子がたまたま目に入ったんだが、なんか違和感がある。
何だろうと思ってよく目をこらしてみたら、テーブルの端に一人だけ色の濃い人がいて奇妙なことをやっている。
 濃い人、というのがうまく説明できないんだが、そいつだけ回りの人や調度類よりくっきりはっきりしてて浮かび上がって見える。
画像の加工をやったことがある人ならわかるかもしれないけど、その人物の輪郭を指定して彩度を上げ、シャープをかけたような具合だった。
 そいつは50代くらいの男で、染めたと思われる黒々した髪を真ん中分けして、最近はまったく見なくなった黒縁のメガネをかけている。
服装はかなりくたびれて皺のよった濃紺のスーツ上下で、これも今時見ない黒の腕ぬきを両腕につけている。
バラエティのギャグシーンに出てくる田舎の分校の先生といえば合点がいくだろうか。
 それから奇妙なことというのは、左のてのひらを広げて上に向けその上に懐紙が載っていて、さらにその上で何か妙なものが動いている。
15cmくらいの長さのミミズ、それも白っぽいカブトムシの幼虫のような色のミミズが数匹のたくっていて、それを右手の箸でつまんでは、隣の40過ぎくらいの茶色の背広のカッパハゲのサラリーマンの襟首から背中に落としている。
 そんなことをされたらたまらないと思うが、サラリーマンはされるがままで、その男の行為自体気がついていないように見える。
俺は数分、その様子をあっけにとられて見ていたが、そのうち虫を入れている男と目が合った。
 すると男は箸を置いて人差し指を口の前にあて、俺に向かって子供のやる“しーっ”のポーズをしてみせた。
それでばつが悪くなって俺はトイレに行ったが、戻ってきてみると男はいなくなっていた。
 そのグループのテーブルを見ても、男のいた場所に料理の皿はなかったから、さっきのをほんとうに見たのか自分でも怪しくなってきた。
 俺らはその後二次会でカラオケに行き、それでも終電に間に合うように11時過ぎには解散して、俺は皆と別れて最寄りの駅に行った。
この界隈は飲み屋が多いんで、こんな時間でも乗客はそこそこいたが、電車を待っていると、ホームのすぐ近くで騒ぎがあった。
 サラリーマンらしい男3人がもつれ合っているが、どうやら2人で1人の上着を引っ張ってるようだ。
よく見るとさっき居酒屋で隣にいたグループに似ている。

“ 上着を引っ張られているのは、変な男に背中に虫を入れられていた男じゃないか・・?ハゲ具合がそっくり・・・。”

 そう思っているうちに快速がホームに走り込んできて、上着を引っ張られていた男は全身の力をこめて両腕をぶんまわし、2人の男を振り切ってその電車に飛び込んだ。









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