日々の恐怖 6月28日 田中さん(2)
分譲開始当時、図のH・I・L・Mの各区画は路地状敷地形態(不動産業界では敷延物件と呼んでいます)と言って、他区画に比べて不整形な土地であった為、他区画よりも販売価格を安く抑えて売り出されました。
不景気の世の中ですから、質より価格を選ぶ顧客は多く、この現場内でもH・I・L・Mの各区画はすぐに買い手がつきました。
M宅の引渡しから半年程経ったある日、M宅のご主人が2階の納戸で首を吊って亡くなっているのが発見されました。
会社をリストラされて一家は離散し、残ったのは数千万の住宅ローンのみで追い詰められての自殺だったのでしょう。
悲しいかな、このご時世を考えればよくあることですが、M宅は親族の要望で売主業者を通してエンドユーザーへ売却する運びとなりました。
完売前の分譲地内でこのような事件が起こることは、売主業者としても相当な痛手だったようで、当時、担当の田中さん(仮名)も長期戦を覚悟しなければならないと溜息をついていました。
そうは言っても、それから1年も経った頃には、G・N・Q・R区画とM宅を除く区画は買い手がついていたのですが、この頃から分譲地に住まわれているいくつかの家庭に立て続けに不幸が起こり始めました。
まず、L宅でボヤ騒ぎが発生しました。
幸い死傷者も出ず、被害も周りに及ぶほどのものではありませんでした。
次に、I宅のご夫婦が離婚され売却する運びとなり、J宅では奥様が交通事故で亡くなられました。
すべて偶然なのかもしれませんが、こうも立て続けですと、さすがに不気味過ぎるとのことで、分譲開始から2年を経過した頃、売主業者から私の勤めている会社にG・N・Q・R区画の販売委託の話が持ちかけられ、現在に至ります。
そのような現場でしたが、私達としては、取り立てて特別視することもなく、いつものように物件を調査し、現地や周辺環境の確認する運びとなりました。
分譲地内の居住者宅を訪問した際、S・T区画には2区画を同時に購入して整骨院を開業した先生が住んでいるのですが、気さくな方だったのでお話を伺ってみたところ、
「 M宅に隣接している家でばかり不幸が続いているような気がして不気味だよねぇ。」
と笑っていました。
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