日々の恐怖 6月12日 出られない
2か月ほど前のある晩に、友人から電話がかかってきた。
「 部屋から出られなくなったから助けに来てくれ。」
と言われた。
「 何かあったのか?」
と聞くと、
「 出口が分からない、迷った。」
との事だった。
俺は冗談だと思って、
「 何言ってんだ、お前?」
と返しても、すごい真剣な声でお願いされるもんだから、仕方なく友人の住むアパートへ行った。
それで、アパートに着き、インターホンを押しても反応が無く、鍵もかかってなかったので、ドアを開けて中に入った。
中は見たところも特に変わったことはない。
「 おい来たぞ!」
と大声で話すと、友人から、
「 助けてくれ。」
との返事があった。
何か事故でもあったのかと、すぐに部屋の方にいくと、友人が部屋(リビング)の真ん中でポツンと立っていた。
「 おい、ふざけんなよな!」
と友人に言っても、
「 本当に出られないんだ。」
との一点張り。
「 何ともねえだろ、外に出てみろよ。」
と言うと、友人は部屋から出た。
友人の部屋は2LDKで、リビングと寝室が繋がっていて、2つの部屋も玄関に続く渡り廊下からも入れるような作りだ。
友人は玄関の方に向かったと思いきや、いきなり曲がって寝室に入っていって、また、そこからリビングに戻ってきた。
友人は真っ青な顔しながら、また、部屋からでると、またぐるっと回って部屋に戻ってきた。
流石に俺も、
「 お前、ふざけてんじゃねえぞ!」
とキレ気味で言うと、友人は、
「 本当に分からないんだ。」
と言ってきかない。
どうやら様子がおかしいので、俺は友人を家から連れ出した。
これはただ事じゃないと思って、どうしようかと悩んで、とりあえず俺の家に泊めることにした。
翌日、会社を休んで、とりあえず友人を病院に連れていった。
診断の結果、脳梗塞とのことだった。
命には別条はないようだが、しばらく入院が必要とのことだった。
脳に異常があると、ああも奇妙な行動を起こすものだと、個人的に怖かった。
うちの親父の運転手も同じ症状を呈した。
毎日通ってる自宅→会社への道なのに、ある日急に同じ道をグルグル回り出し、
「 道が分からない、どこにいるのか分からなくなった。」
と、自分の頭をバンバン叩いて泣き出したそうだ。
親父が心配して精密検査を受けさせたら、アル中+軽い脳梗塞だったらしい。
童話・恐怖小説・写真絵画MAINページに戻る。
大峰正楓の童話・恐怖小説・写真絵画MAINページ