日々の恐怖 5月4日 箱(2)
それから数年後のことだ。
都内の大学に進学していたSさんは、就職先を地元で探すか、首都圏で探すかで悩んでいた。
家族に相談したところ、両親は地元での就職を希望したが、兄は首都圏での就活を勧めた。
地元は田舎で、仕事が少ない。
土地柄、肉体労働の割合が高く、女性が正社員で働ける場所は競争率が高い。
それに田舎はセクハラが未だに横行している。
だから働くなら都市部のほうがいい。
両親のことは、兄である自分が世話するから気にするな。
兄は、そう言ったそうだ。
Sさんはその言葉に背中を押され、都内で就活を始めた。
当時は就職難の時代で、なかなか内定は得られなかった。
四年生になり、いよいよ焦りだしたころ、訃報が届いた。
兄が死んだ。
心不全だった。
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