日々の恐怖 4月30日 箱(1)
Sさんの家には、古くから受け継がれる箱がある。
サイズは30㎝×30㎝×30㎝というから、それなりに大きい。
見た目は船箪笥のようなもので、上面に持ち手がある。
前面に取っ手と錠前がついており、開け閉めができる構造になっている。
ただし、錠についた鍵穴はなんらかの金属で埋められていて使えない。
一応、鍵も一緒に伝わってはいるが、こちらはひどい錆でやはり使えない。
施錠された状態で受け継がれているため、中身はその有無も含めて不明である。
いわゆる開かずの箱だった。
Sさんの家は女系で、箱は母から子へ受け継がれてきた。
それは、この箱を受け継いだものが当主となるという意味でもある。
Sさんがこの箱の存在を知ったのは高校生の時だったが、その時すでに、箱を受け継ぐのは彼女であると決まっていた。
彼女には兄と弟がいたが、姉妹はいなかったからだ。
「 当主の証、なんて言うから緊張したよ。
でも、別に特別になにかすることなんてない、たまにホコリ払うだけでいいって言われて安心したんだよね。」
Sさんは当時のことをそう語った。
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