日々の恐怖 12月7日 百物語(2)
明るくなった部屋では、ある意味悲惨な光景が広がっていた。
部屋の隅でうずくまる者、抱き合う二人、逃げるつもりだったのか窓に手をかけて固まる者、布団をかぶる者、なぜかズボンを脱ぎかけている者、すでに半泣きの者。
そして、整然と並べていたはずの盃は、見事なまでに散乱していた。
誰かが噴き出した。
それをきっかけに大爆笑が巻き起こった。
それは多分に照れ隠しも含まれていたが、それでようやく彼らは落ち着いて息をすることができた。
大笑いした後は、片付けタイムだ。
部屋のあちこちに盃が転がっていた。
「 なぁ・・・・。」
ふと、誰かが言った。
「 なんで、酒が零れてないんだ?」
彼の言う通りだった。
電気が消えた際、酒の入った盃はまだ十杯残っていたから、床には当然それがこぼれているはずだ。
しかし、床はカラカラに乾いていて、何かがこぼれた形跡はなかった。
彼らは互いに顔を見合わせ、床や壁や部屋のあちこちに視線をさ迷わせた後、我先にと部屋を飛び出したのだった。
「 酒好きの幽霊でも呼んだのかな。」
愛すべき大学生たちの思い出話に、私は笑いを禁じ得なかった。
友人も一緒に笑いながら、
「 実は、おまけがある。」
と言った。
「 おまけ?」
「 あの時、よく考えたら俺は八話しか話してないんだ。
最後の二つはとっておきのやつだったから、それを話していないのは間違いない。
俺だけじゃない、他の奴らも同じことを言った。
おかしいだろ?
盃は九十杯空になってたんだ。」
「 つまり?」
「 俺ら、幽霊と一緒に酒盛りして、幽霊の怖い話を聞いたことになるんだ。
でもなぁ、酔ってたし、どんな話だったのか、全く思い出せないんだよ。」
勿体無いよなぁ、と友人は本当に悔しそうに言った。
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