日々の恐怖 12月10日 ヒョウ
彼は、大変寒がりな男だった。
夏でも長袖を着ていたし、冬になればまるで雪男のように着ぶくれていた。
中高生の時の制服はどうしたのかと聞くと、日光アレルギーと嘘をついて長袖を通したらしい。
「 なにかの病気じゃないのか?」
そう尋ねると、声を潜めて教えてくれた。
「 実はな、これ、家で飼ってるトカゲのせいなんだ。」
「 はぁ?」
友人の家では昔から、ヒョウと名付けたトカゲを飼っているそうだ。
大きさは二十センチほどというから、なかなか大きい。
青みがかった灰色をした、綺麗なトカゲらしい。
このトカゲは不思議なトカゲで、友人が言うには、口からポロリと小さな氷の塊を吐き出すらしい。
体温も、変温動物とはいえとても低い。
まるで冷水に触れているようだという。
友人がまだ幼稚園に通っていたある日、ぼんやりと水槽の中のトカゲを眺めていた。
するとトカゲは呑気そうにあくびをした拍子に、またポロリと、朝顔の種ほどの大きさの氷を吐き出した。
「 ヒョウ、寒くないの?
お腹に氷があって・・・・。」
友人がそう訊くと、トカゲはまるで言葉を理解したかのようにじっと彼の顔を見つめた。
そして、
「 じゃあ、おまえの温みを少しくれよ。」
と、旧来の友のように気安く言った。
その気安さにつられて、というよりは、よく意味を理解しないまま、友人は、
「 うん、いいよ。」
と頷いてしまった。
トカゲは、満足そうに頷いていたという。
次の朝、初夏だというのに友人は寒くて目を覚ました。
「 あら、今日のお熱は低いわね。」
登園前の検温で、母親は体温計を見ながら呟いていたという。
「 なんだって、そんなものまだ飼ってるんだ?」
呆れて言うと、友人は、
「 だって・・・・・。」
と口を尖らせた。
「 可愛いんだぞ。
ひょうきん者で、俺になついてる。」
「 トカゲって、なつくのか?」
「 もう何十年と一緒だからな。
当然だ。」
果たしてトカゲとは、何十年も生きるものなのだろうか。
そもそも、それがトカゲなのかどうかも疑問に思ったが、当の友人は、
「 厚着すればいいんだから、平気だ。」
と、涼しい顔で言った。
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