日々の恐怖 12月3日 百物語(1)
彼は大学生の時、オカルトにはまっていたらしい。
大学生のご多分に漏れず暇と体力だけはあった彼は、ある日同じような仲間を集めて、百物語を決行することにした。
場所は彼の部屋。
古式に則るなら百本のろうそくを灯さなければならないのだが、アパートでそれをするのはさすがに憚られた。
ではどうするかと頭を悩ませたところ、ある酒好きが名案をひらめいた。
「 百個の盃を用意して、一話語るごとに語った奴が一杯飲み干す、ってのはどうだ?」
それはいいと、皆一も二もなく同意した。
各人の家やバイト先の居酒屋などを頼り、なんとか百個の盃を揃えた頃には、時刻もちょうどよい頃合いになっていた。
部屋の中心に酒を注いだ盃を並べ、その周りに車座に座った。
部屋の四隅に置いた懐中電灯が、ぼんやりと室内を映し出す。
メンバーはちょうど十人。
一人十話ずつの計算だった。
そうして百物語が始まった。
時間帯と環境づくりのおかげで雰囲気だけは恐ろしげだったが、素人が語る怪談なので、そう怖くはない上にどこかで聞いたような話ばかりだった。
おまけに一話終わるごとに盃を煽るので、だんだん皆酔いが回ってくる。
酒に弱い者などは、早くも船を漕いでいた。
わかりやすくするために、飲み干した盃は伏せて置いた。
話が途切れたり同じ話が続いたりしながらも、なんとか盃が残り十個になった時だった。
なんの前触れもなく、懐中電灯が全て消えた。
「 なんだ⁈」
「 電気つけろ電気!」
十人の男たちは慌てふためき、狭い部屋はパニックに陥った。
暗闇の中でまさに踏んだり蹴ったりの状態になりながら、なんとか家主である友人が部屋の電気をつけた。
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