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なんじゃもんじゃ物語 2-2 もんじゃ城にて

2006-06-21 12:41:26 | なんじゃもんじゃ物語
なんじゃもんじゃ物語 2-2 もんじゃ城にて


なんじゃもんじゃ物語 55


なんじゃ王子が、てくてく道を歩いていた頃、もんじゃ城では、チカーメ大臣がもんじゃ軍の五人の報告をひたすら待っていました。

「 五人が、なんじゃ軍を叩き潰しに、この城を飛び出して行ってからもう、半日以上経ったわ。
連絡ぐらいしてきても良さそうなのに、……。
ひょっとしたら、殺られてしまったのかしら、……・。
いやいや、そんな筈は無いわ。
並み居る兵隊達のうちから、私が特に選んだ者達だから、平均知能30あるかないかのなんじゃ軍になんか負ける筈は無いわ。
それにしても、遅いわね。」

黒っぽいビロードの布の上に宝石を散乱させたような星空が、窓の外に広がっていました。
大臣専用室の椅子に座っていたチカーメ大臣は、ゆっくり立ち上がって、月の光がうっすらと照らしているベランダに近付いて行きました。
その時、ドタドタドタと廊下を走って来て、大臣専用室のドアをどんどんたたく音がしました。
チカーメ大臣は、五人が帰ってきたものと思いました。
そして、方向転換してドアに走り、ドアのノブを引っ張るなり言いました。

「 うまく行った?」
「 何だ?」

見ると、もんじゃ王が突っ立っていました。

「 何だ、王様なの。」
「 もんじゃ大王様に向かって、何だ、王様なのとは何じゃ。
まあいい、ところで、エレーヌを見なかったか?
もう、7時だというのに戻ってこないんだ。
何かあったらどうしよう。
わしのたった一人の娘なのに。」
「 大丈夫ですわ、王様、あの御姫様に限って。」
「 でも、心配じゃ。
もう一度、城の中を捜して来よう。
エレーヌ!
出ておいで!」

もんじゃ王は、大臣専用室から飛び出して行きました。
チカーメ大臣は、呟きました。

「 ふふ、かわいそうな王様、もうすぐ死があなたをお迎えに来るというのに。」





なんじゃもんじゃ物語 56


もんじゃ王が、行ってしまった後、チカーメ大臣は、苛々しながら、大臣専用室を行ったり来たりしていました。
そこに、もんじゃ軍の二人が、なんじゃ王を連れて現れました。
チカーメ大臣に対して、いつもなら言葉を五分割して言うのですが、今は二人なので言葉を二分割して言いました。

「 チカーメ大臣様、只今、」
「 帰りました。」

チカーメ大臣は、二人に言いました。

「 あれっ、三人足らないわ。
残りの者はどうしたの?」
「 なんじゃ城を占領して、」
「 見張っています。」
「 良くやったわ。
早く、なんじゃ王をこちらに連れておいで。」

チカーメ大臣の前へ、なんじゃ王は連れていかれました。
なんじゃ王は、憎悪と嫌悪と軽蔑の眼でチカーメ大臣を睨み付けながら、威厳を持って言いました。

「 お前が、チカーメ大臣か。」
「 そうよ、それがどうしたと言うの。」
「 フン!」
「 なんじゃ王、あなたは自分が捕虜であることを忘れていますね。
私を怒らせると、ためになりませんよ。」
「 何をぬかしておる、馬鹿女め。」
「 地下の特別室に連れてお行き!
よく、見張っておくのよ、逃げられないように。
見ているだけで腹が立ってくるわ。
連れてお行き、早く!!」
「 えっと、」
「 ご褒美の方は?」
「 後よ、あとっ!
後であげるわよ!!」
「 お忘れの、」
「 無いように。」

二人となんじゃ王が、ドアから消えると、チカーメ大臣はほくそ笑みました。

「 これで、計画は九分通り達成したわ。
後は、もんじゃ王が三つの島の王だと定めて、それからもんじゃ王を殺す、もちろん王女も始末する。
もんじゃ王が亡くなれば、王が最も信頼していたこの私が女王に自然と押されることは明らかだわ。
うふふ。
チカーメ女王様、いい響きだわ。
その為にも、二人の王を差し障りの無い方法で始末しなきゃ。
計画を考えましょう。」

チカーメ大臣の渦を巻いた眼鏡の奥の眼がキラリと光りました。






なんじゃもんじゃ物語 57


もんじゃ王は、もんじゃ城の中をエレーヌ姫を探してウロウロしていました。
そして、広間を通過した時、姫を見つけました。

「 あっ、エレーヌ、何所へ行ってたんだ。
もう、わしゃ、心配で、心配で。」
「 ちょっと、散歩よ。」

もんじゃ王は、厳しい顔に表情を変えてエレーヌ姫に言いました。

「 今、何時だと思っているのだ。
もう、7時半だぞ。
7時には、帰って来るように言ってあるだろ。」

もんじゃ王は、突き出した腹に巻いてある腹時計を指差して言いました。
エレーヌ姫は、もんじゃ王の腹時計を見て、くすくす笑いながら言いました。

「 お父様、今、何時?」
「 今、何時って、この時計を見れば、……・。
ありゃ、4時だ、止まっているじゃないか。
あの時計屋、費用をケチったから、手を抜きやがったな。
明日にでも王宮に呼び出して、こっぴどい目にあわせてやるぞ。
とにかく、今、7時半だ。
外も暗いじゃないか、痴漢でも出たらどうするんだ!
おいこらっ、何所へ行く、まだ話しは終わってないぞ。」

もんじゃ王の説教の途中で、エレーヌ姫は、クルッと向きをかえて、広間の階段を駆け上がりました。
そして、いたずらっぽく言いました。

「 痴漢なら、今日、会って来たわ。
本当に、ドジな痴漢だったわ。」
「 エレーヌ!!」

もんじゃ王は、血相を変えて階段を駆け上がりました。
でも、エレーヌ姫は、自分の部屋の方に走りながら後ろも見ないで言いました。

「 お父様、心配は要らないわ。
何もされていないから、ただ、ちょっと肩を触られただけよ。」

バタン。
エレーヌ姫は、自分の部屋に飛び込んで扉の鍵を掛けました。






なんじゃもんじゃ物語 58


もんじゃ王は、エレーヌ姫の部屋の扉をドンドン叩きました。

「 開けなさい、エレーヌ。
開けなさい!」
「 私を信用しないの!」

部屋の中の大きな声を聞いてもんじゃ王は、扉を叩くのを止めました。

「 分かった、分かったよ、エレーヌ。
もう変な所に行くんじゃないぞ。
分かったか、エレーヌ。」

でも、部屋の中からは、何も返事が返って来ませんでした。
もんじゃ王は、エレーヌ姫の部屋に入ることを諦めて王室に戻りながら呟きました。

「 あれだけ軽快な声を上げている所を見ると本当に何でもなかったようだな。
しかし、あの娘も大きくなったものだ。
ついこの前まで、子供だ、子供だと思っていたのに。
后が生きていてくれたら喜ぶのに。
いや、言うまい、言うまい、今は、あの娘が大きくなるのが唯一の楽しみじゃ。
それにしてもあの娘は、后に似て愛らしすぎる。
痴漢に狙われるのも無理も無い。
次からは、監視をつけよう。」

一方、エレーヌ姫は、大きなベッドの上にゴロンと仰向けになり、淡いピンクの天井を眺めながら大きな溜め息を一つつきました。

「 ふーっ、お父様なんて、嫌いだわ。
私をいつまでも子供だと思って。
早く帰ってこないと行けないよ、エレーヌ。
食べ物を口に入れたまま喋っちゃいけないよ、エレーヌ。
もっと、しとやかにしなきゃいけないよ、エレーヌ。
なんでもかんでもいけないよ、エレーヌ。
いけないよ、エレーヌ。
もういや。
何の文句も言われない生活をしてみたい。」

時計の音が、コチコチと規則正しくエレーヌ姫の部屋に響いていました。






なんじゃもんじゃ物語 59


 エレーヌ姫は、じっと時計の音を聞きながら、段々と心が落ち着いて来るのを感じました。
エレーヌ姫は、額に手をあてました。
額には、髪が少し汗で張り付いていました。
時間が遅くなって走って帰って来たから、汗をかいていたのです。
 エレーヌ姫は、ベッドから起き上がって、髪を直すため鏡台の椅子に座りました。
凝った木の装飾に飾られた大きな鏡に向かって髪を直しました。
鏡の中のエレーヌは、不機嫌な顔をしていました。

「 そうだわ、私、最近、いつもこんな顔をしている。
 前は、こんなのじゃなかったわ。
 どうしたと言うのかしら。
 何が、不満?
 お父様に反抗ばかりして。
 あんなに、お父様は優しいのに。」

でも、鏡の中のエレーヌは、何も答えてくれませんでした。
ただ、じっと不機嫌にエレーヌ姫を見つめているだけでした。
ボーッと鏡を見ながら、エレーヌ姫は、今日一日の出来事を思い出していました。
思い出している中で、今日会った痴漢の事が頭を掠めました。

「 ウフフ、それにしても、あの痴漢、バカみたいだったわ。
 王子様だって。
 曲がり角でチラッと後ろを見たら、ヨタヨタ、こっちに向かって走ってたな。
 あんなに足の遅い人、珍しいわ。
 島中探したっているものですか。
 ゴミと一緒に樽から出てきて、ここ何所?だって。
 バカみたい。
 でも、ちょっと品の良さそうな顔をしてたわ、痴漢にしては、ふふ。」

鏡の中の不機嫌なエレーヌは、元の愛らしいエレーヌに戻って笑っていました。






なんじゃもんじゃ物語 60


王宮の時計が午後8時をまわった頃、暗い夜道を歩いていたなんじゃ王子は完全にくたびれ、道端のビロウの木の下に座り込んでいました。
それに、朝から何も食べていないので、空腹で死んだようにぐったりとしています。
なんじゃ王子の頭の中では、分厚いビフテキ、その周りにはドレッシングのかかったキュウリにレタス、サラダに彩りを沿える真っ赤なトマト、それに、先程追いかけていた少女が混乱状態でグルグルまわっていました。
なんじゃ王子が、薄く眼を開けると何か人影らしいものが近付いてきたのが見えました。
そして、なんじゃ王子の手に、人の手が触れました。
とっさに、なんじゃ王子は、その手にしがみ付きました。

「 もう、離さないよ、君もビフテキも。」
「 離すべ、離すべ。」
「 嫌だあ。」
「 こらっ、起きろ。
このガキ、何するべ。」
「 だめ、離さない。」
「 気持ち悪いべ、やめろだべ、わーっ。」
「 あふっ、あん、ビフテキは?」
「 なーに言ってるべ。
このバカ、こんな所で何してるべ?」
「 僕、王子様。」
「 バカか、お前。
まあ、とにかく、ほっとく訳にもいかないから、おらの家に来るべ。」
「 ビフテキあるだべか。」
「 おらの真似するでねえ。
ビフテキは、無いだべが、食えそうなものはあるだべ。」
「 じゃ、行くべ。」
「 真似するでねえ、付いて来るべ。」
「 うん。」

なんじゃ王子は、漁師ポチに会いました。
漁師ポチは、捕虜の捕虜と言う逆境から解放され、帰り道を急いでいたのです。






なんじゃもんじゃ物語 61


うっそうと茂った熱帯樹の森林に挟まれた田舎道を漁師ポチは、スタスタと早足で歩いて行きました。
なんじゃ王子は、重い足取りで漁師ポチの後を必死について行きました。
しばらく歩くと両脇の森の木々がまばらになって、薄暗いトンネルから抜け出たように見晴らしが良くなりました。
漁師ポチは、田舎道を急に左へ曲がりました。
そして、木々の中に入って行きました。
なんじゃ王子も、離れては大変とばかりに急いでついて行きました。
木々の中の細い獣道を、二人はどんどん進んで行きました。
歩いているうちに、なんじゃ王子は、潮の臭いを含んだ風が前を歩いている漁師ポチの方から吹いて来るのが分かりました。
ザアーン、ザザーンと海の波の音が、徐々に大きく聞こえ始めました。
なんじゃ王子は、漁師ポチに尋ねました。

「 ねえ、まだなの?
もう、足が棒みたい。」
「 もうすぐだべ、もう…・。
ほら、あそこに見えるあれだべさ。
ほら、あれ。」

なんじゃ王子は、漁師ポチが指差した前方を見ました。
木々の間から、月の光でうすく光った屋根らしきものが見えました。
近付くと、海への砂浜に続く林の中に、ボロボロの小屋がありました。
漁師ポチは、小屋の中に入って行きました。
漁師ポチに続いて小屋に入ったなんじゃ王子は、籠に山ほど入ったマンゴーの実と壁にいっぱい吊るしてあった魚の干物を見つけました。

「 マンゴーから食え。
今から、干物を焼くべ。
こらっ、干物を生で食べるんでねえ。
まあ、死にはしないけど。」
「 パクパクパクパク。」
「 慌てなくていいべ。
よく噛んで食べるべ。」

なんじゃ王子は、漁師ポチが火を熾す前にマンゴーと干物のかなりの量を食べ、そのまま、ゴロンと横になりグーグーといびきをかいて寝てしまいました。






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