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なんじゃもんじゃ物語 1-7ホンジャ島北壁にて

2006-06-24 11:42:00 | なんじゃもんじゃ物語
なんじゃもんじゃ物語 1-7ホンジャ島北壁にて


なんじゃもんじゃ物語 30


(ホンジャ島北壁にて)

 ザザザザーン、チャポ、チャポ。
ザザザザーン、チャッポ、チャポ。
寄せては返す波が、激しくホンジャ島の北壁の崖にぶつかっていました。
海から切り立った50メートルも続く崖を、なんじゃ軍21人は、ぶつぶつと文句を言いながらよじ登っていました。

「 おい、我々はなんでこんな崖から攻めなければならないんだ?
こんな北側から攻めずに、なんじゃ島とホンジャ島を直接つないでいる橋から攻め込めばいいのに。
朝から、ずっと登っているぞ。」
「 それはそうだけど、何しろホイ大臣がシミコのお告げを信じ込んじゃってるから。
しかし、ひどい所だな。
あと20メートルも登らなければならないし…。
まだ、半分ちょいだぞー。
登ってから町に行くのに、まだ、かなり歩かなければ行けないし…。
もー、いや。
朝早くたたき起こされて、ねむいよー。」

ホイ大臣の声が、下の方から聞こえて来ました。

「 おーい、そこの2人。
話しなんかしてないで、早く登れ、ばか!!」

ホイ大臣は、波に揺れる舟にかろうじて立ち、メガホンを持ってなんじゃ軍を指揮していました。
 その様子を崖の上では、五人のもんじゃ軍と漁師ポチが眺めていました。
第一の男が言いました。

「 しかし、なんじゃ軍は、アホばっかりだなあ。
何で、こんな崖から攻めて来るんだ?
ホンジャ島となんじゃ島には、橋がちゃんとあるし、南から攻めても砂浜だから、ここより楽だと思うけど…。」
「 ホントだよなぁ。」
「 そうだべ、そうだべ。」

もんじゃ軍の五人は、チカーメ大臣の前では言葉を分けて話しをしていたのですが、チカーメ大臣がいなければ、普通に話しをしていました。





なんじゃもんじゃ物語 31


もんじゃ軍の五人と漁師ポチは、石を崖の上に準備しました。
第四の男が言いました。

「 早くやっつけてしまおうぜ。」
「 いや、まてまて。
高い所に登って来てから、落とした方が確実に勝てる。
折角、登って来ているんだから、もう少し登らせてやろうじゃないか。」
「 そうだべ、そうだべ。」
「 お前は、うるさいぞ。
10もんじゃやるから、あっちへ行け、ばか。」
「 20もんじゃやるから、ここにいさせて。」
「 ほっとけ、ほっとけ、相手になるな。
アホが、うつるぞ。」
「 なんだべ?」
「 いや、何でもない、何でもない。」

もんじゃ軍の五人は、タバコを吸い始めました。
漁師ポチは、タバコが無いから木切れに火をつけて、口にくわえました。
空は薄暗く、少し風が出て来ました。
五人は崖っぷちに座って、眼下に広がるはてしない海、はるか下に見える幾つかの小舟、遠くの方から段々と近寄って来て岩にぶつかり白く砕け散る海のうねり、その雄大な自然の力に圧倒されそうになりながらも、じっと耐えて登って来るなんじゃ軍の21人の姿を見ていました。
風が、段々強くなって来ました。
しかし、それにもめげず蟻のように力強く少しづつ、少しづつ上へ上へとなんじゃ軍は登って来ます。
そんななんじゃ軍の姿を見ていると、時間が経つに従って、落としてしまうのが可哀相な気持ちが五人の頭の中に広がっていきました。
なんじゃ軍が、あと少しで登り切れると言う時に、五人の内の一人が言いました。

「 止めようか…・。」





なんじゃもんじゃ物語 32


  一方、なんじゃ軍は、崖を登ることに苦戦しておりました。

「 ふー、もうちょっとだ。
うわっ!!」

先頭の男が掴んだ岩が崩れました。

「 わーっ!!」
「 わーっ!!」
「 わーっ!!」

先頭の男が、ずるずると滑り落ちて行きました。
全員ロープで繋がれているので、21人が順にずるずる滑り落ちて行きました。
そして、崖の途中に突き出している大きな岩に引っかかりました。

「 ばかやろー、もうちょっとで上にあがれたのに!!」
「 掴んだ岩が、もろくなっていて崩れてしまった。」
「 また、崖の半分まで戻ってしまった、くそっ、このばか!」
「 いいかげんにしろよなあ、ばか!」
「 うるさい、ばか、ばか言うな。
そんなに言うのなら、お前が先頭を登れ、このばか!」
「 落ちておいて、なに言ってるんじゃ、このばか!」
「 やかましい!!」

なんじゃ軍は、崖の途中にある大きな岩の上で喧嘩を始めました。
海面に漂っている舟に立って、指揮をしていたホイ大臣がメガホンを使って大声で言いました。

「 こらあー、喧嘩をするな!!
もういい。
お前らに任せておれん。
わしが行くぞ。
ロープを降ろせ。」

ロープがするすると下に降ろされました。
ホイ大臣は、ロープを体に巻き付けて言いました。

「 引っ張りあげろ!!」

岩の上のなんじゃ軍は困った顔をしました。

「 おい、引っ張りあげろって言ってるぞ。」
「 自分で上がって来いよなあ。」
「 もー、面倒くさい。」
「 崖の上から21人全員で引っ張りあげりゃ楽なのに。
こんな狭い岩の上じゃ足場が無いから、三人ぐらいでしか引っ張りあげられないぞ。」
「 どうする?」
「 どうしよう…・・。」

舟の上でいらいらしているホイ大臣が、叫びました。

「 早くしろー、このー!」

仕方が無いので、なんじゃ軍はホイ大臣を引っ張りあげる作業に取り掛かりました。





なんじゃもんじゃ物語33


 なんじゃ軍は、ホイ大臣を何とか崖の途中の大岩まで引き上げました。
ホイ大臣は、言いました。

「 わしが来たから、もう大丈夫だ。
わしが先頭を登る。
しっかりロープをつけておけ。」

なんじゃ軍は、ロープを腰にしっかりとつけました。
再び、なんじゃ軍は崖を登り始めました。
それを見ていた崖の上のもんじゃ軍の五人は相談していました。

「 おい、また登り始めたぞ。
下に降りて、橋から来ればいいのに。」
「 ほんとだよな。」
「 上まで来たら、石と一緒に、また海に落ちるのにな…。」

眼下に広がる海を背景に、少しづつ登って来るナンジャ軍をもんじゃ軍は、ぼんやりと見ていました。

「 あっ、危ない、あいつもっと右の岩を掴めばいいのに。」
「 ほんとだな、右手が届きそうだ・・・・。」
「 ・・・・・・。」
「 ・・・・・・・。」
「 ・・・・やめようか。」

もんじゃ軍の五人は、置いてある石の横に座り直して相談を始めました。

「 石を落とすのは、やめようか。
俺たちは、こんな卑怯な方法を使わなくても勝てるじゃないか。
正々堂々と刃を交わらせるのが武士道だ。」
「 そうだな、そうしよう。」
「 べつに殺さなくっても、まいったと言わせておけばいいんじゃないか?」
「 それも、そうだな。」
「 あれじゃ、なんじゃ軍は崖を登りきったところでバテバテだから、ここで休憩して野営になるだろう。」
「 あいつらのことだから、そうだろな。」
「 今日は、もう町には攻めてこないな。
明日の朝、正々堂々と戦おうじゃないか。」
「 石で殺すのはやめよう。
明日、まいったと言わせて懲らしめておけば殺さなくても済むしな。」
「 そうしよう。」
「 そうしよう。」






なんじゃもんじゃ物語34


  その話しを聞いていた、漁師ポチが言いました。

「 言ってやろ、言ってやろ。
チカーメ大臣に言ってやろ。
ばらしたら、きっと何か御褒美を貰えるなあ。」

五人は、即座に円陣を組み、漁師ポチの方を指差したり、ちらっと見たりしました。

「 何の相談だんべ?」
「 それっ!!」

その言葉を合図に五人は漁師ポチに近づき、みんなで一斉に崖の方へ蹴っ飛ばしました。

「 おっとっとっと、とっとっとっ。」

漁師ポチは、前のめりになって崖から身を乗り出しました。
そこに運悪くホイ大臣が、崖から顔を出しました。

「 ふう、やっと登れたぞ。
や、やや。
うわっ!!
こっちへ来るな、ばか。」
「 そんなこと言ったって、止まらないだんべ。
あ、あああ、あ、あ。」
「 うわっ!!」

漁師ポチは、もう少しで崖の上に登り切れるホイ大臣の体にしがみつきました。

「 はあ、止まったべ。」
「 ばか、早くどけ、重いいい。」
「 何べ?」
「 も、もう、だめだあ。」

ホイ大臣は、漁師ポチの重さに耐え兼ねて崖の岩から手を離してしまいました。






なんじゃもんじゃ物語 35


 ホイ大臣と漁師ポチは、抱き合って崖から落ちて行きました。

ひゅ~~っ。

ホイ大臣の後ろから崖を登ってきた兵士が言いました。

「 おい、今、落ちてきたのは、先頭に登っていたホイ大臣じゃなかったか?」
「 そのような気がしたけど。
何か変な物が、くっ付いて来たようなも気がするぞ。
すれ違った時、こっちの方を見てニタッと気持ち悪く笑っていた様な感じだったが。」
「 うーん?
あら、あらら、ホイ大臣ロープを付けたままじゃなかったか?」
ほら、このロープ。」
「 そうだ、早くほどいて、うわっ。」
「 うわっ。」

ひゅ~~っ。

下の方から登ってきた兵士が、上を見上げて言いました。

「 何か、落ちてきたぞ。」
「 こんちわべ。」
「 な、何だ。」
「 ホイ大臣が変な物にくっ付かれて落ちた!
みんな、岩にしがみ付けぇ!!」

なんじゃ軍は、崖の岩に必死にしがみつきました。
しかし、なんじゃ軍は、上の方から順に岩から剥ぎ取られて行ったのです。
最後には、ロープ一本に繋がれたなんじゃ軍は、上に登るという意志に反して、下へ下へと空中を急いだのでありました。
ホイ大臣が、この事態を何とかしようと叫びました。

「 飛べーっ、飛べーっ!!」
「 何か、ホイ大臣が言ってるぞ。」
「 飛べだって。」

なんじゃ軍は、一斉に手足を広げて鳥のようにパタパタさせました。






なんじゃもんじゃ物語 36


 崖の上から見ていたもんじゃ軍の五人は言いました。

「 漁師ポチの奴、一人で落ちればいいものを。」
「 せっかく正々堂々と戦おうと誓ったのに、どんどん落ちていくぞ。」
「 しかし、なんじゃ王国の大臣も大臣なら、部下も部下だな。
 一生懸命に手足を、鳥のようにばたばたさせとるじゃないか。
 あーあっ、全部落ちちゃった。」
「 もう、なんじゃ軍も全滅だな。
 早くもんじゃ王宮に戻ってチカーメ大臣に報告しよう。
 褒美がたくさん貰えるぞ。」
「 そうだな、もう、なんじゃ王国の王宮には、なんじゃ王と王子しかいないから、
 たいしたことはない。
 先に、なんじゃ軍が全滅したことで褒美を貰ってから、
 後でなんじゃ王と王子を捕らえれば、もう一回褒美を貰えるぞ。
 もう一度、全滅を確認してから、帰ろう。」

五人が、崖の下を覗き込みました。

「 あれっ、あれを見ろ!」

海面に一人、また一人となんじゃ軍が浮かんできます。
それが、誰一人として傷を受けている様子もありません。
おまけに、漁師ポチまで、カエルの様に泳いでいます。

「 1、2、3、…・、おい、全員生きているじゃないか。
 恐ろしい奴等だ、普通、この高さから落ちれば、一発コロリなのに、死なないぞ。
 とんでもない生命力だ、アメーバと互角だ。
 帰るのは、止めだ。
 こんな奴等が、なんじゃ城に立てこもれば、我々はひどい損害を被るに違いない。
  この状況では、作戦の立て直しで、なんじゃ軍は、いったん城に戻るだろう。
 幸い、奴等は、海路で城に戻るしかない。
 我々は、陸路で行けば、奴等より早くなんじゃ城に到着できる。
 城には、なんじゃ王と王子の二人しかいないから、占領するのはたやすい。
 二人と城を取れば血を流さずに奴等も降伏するだろう。」
「 それがいい、早速出発しよう。」

その言葉が終わるか終わらないうちに、五人の姿は崖の上から、かすかな砂塵を残して消えていました。






なんじゃもんじゃ物語 37


一方、なんじゃ軍は、海面を漂っておりました。
ホイ大臣は、叫びました。

「 おーーい、みんな大丈夫かあー!」
「 大丈夫だベ。」
「 やや、お前は、わしにくっ付いてきた奴。
お前は、何者だ。」
「 漁師のポチだべ。
生まれは、ホンジャ島の浜辺だベ。
おとーちゃんは、漁師だべ。
おかーちゃんも、漁師だベ。
おじーちゃんも、漁師だべ。」
おばーちゃんは、・・。」
「 漁師だろ。」
「 残念、海女。
ひいじーちゃんは、・・。」
「 ええい、うるさい。
お前の家族の話しをしている場合じゃない。」
「 何をかくそう、生まれてからずっと、漁師を、・・」
「 もういい、先に進まん、だまれ。
漁師ポチ以外の者、みんな生きているかー。」
「 ホイ大臣様、生きてますうー。」
「 生きてますよおー。」
「 崖を登って汗をかいたから、海で泳ぐときもちいいですうー。」
「 クロールの練習してますうー。」
「 おおみんな、無事か。
さすが、我がなんじゃ軍。」
「 わしも、生きてるべ。」
「 だまれ、漁師ポチ。
お前のせいで、作戦を失敗したじゃないか。
もういい、お前も我が軍を手伝え。
なんじゃ城に帰って、作戦を立て直すぞ。
シミコに頼ったのも失敗じゃった。
あれっ、舟は、何処だ?」
「 流れて行ったべ。」
「 ええい、もう、仕方が無い。
泳いで帰るぞ。
みんな、気合を入れろー。」
「 おーっ!!」

なんじゃ軍は、もんじゃ軍の予想通り、ホイ大臣を先頭に、一列にロープを付けたまま、なんじゃ城へ向かって遠泳を始めたのでした。




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