日々の恐怖 7月10日 寂れた旅館(5)
私は震える手でなんとかブレーカーに測定器を当てて、漏電している回路を探し出しました。
私は旦那さんに、
「 この3番目の回路が漏電しているので直してください。」
と震える声で伝えました。
旦那さんは、
「 分かった、戻ろう。」
と言って、私を先に部屋から出してくれました。
部屋から出ても、なお凄まじい視線を感じます。
明らかに、近くに何かがいる気配がします。
旦那さんも直ぐに部屋から出てきて、
「 早く戻ろう。」
と私に言いました。
私は頷いて、もと来た道を戻りました。
戻る最中も、後ろにぴたっと何かがいる気配を感じていました。
私は振り返ってそれを見たら、死んでしまうかも、とも思いました。
来た道を進んで、やっと渡り廊下まで戻ってきました。
旦那さんが本館と別館の仕切りを閉めて、南京錠を2つかける音がしました。
それでもまだ、私は後ろを振り返れないでいました。
いまだに視線を感じていたのです。
そのまま渡り廊下を進み、大きな扉を開けて廊下から出ました。
そこでようやく視線は感じなくなりました。
会社から支給された携帯で時刻を確認すると、18時28分でした。
戻ると女将が心配そうに聞きました。
「 大丈夫でしたか?
何もありませんでしたか?」
私は、
「 何もありませんでした、でも、やっぱり漏電はしてました。」
と謎の受け答えをしました。
すると女将は、
「 良かったです。」
と何かを察したかのように答えました。
私も旦那さんと同様にものすごく汗をかいていました。
私はその後、漏電箇所改修依頼の書類を書いて判子をもらって、
「 電気屋さんに直してもらって下さいね。」
との趣旨を、旦那さんと女将に伝えて帰りました。
帰り際に女将と旦那さんから、
「 ご苦労さま。」
と言ってポカリスエットをもらいました。
「 ありがとうございます、お手数おかけしました。」
と伝えて帰路につきました。
帰路についた私ですが、全く気分が晴れません。
落ち込んだ気分のまま、自宅に到着しました。
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