日々の恐怖 8月16日 ばばちゃ(1)
祖父が昔、よく言っていた。
「 この世で最も恐いのは、ばばちゃだ。」
祖母は、それほど恐れられた存在だった。
私が生まれる前の話だ。
ある時、祖母は朝からタケノコを取りに山へ入った。
ずいぶん調子よくタケノコが集まり、ほくほく顔で帰ろうとしたところ、気づけばあたりが霧に包まれていた。
” おやっ・・・・?”
と思いながらも帰途についたが、なかなか集落が見えてこない。
” ははあ、これはキツネか、ムジナか・・・。
なんにせよ化かされているな・・・。”
そう気づいた祖母は、背負っていたタケノコのかごを下ろすと、鍬を構えて、
「 おう!」
と霧に向かって怒鳴った。
「 どこのどいつか知らねえけんど、おらを化かすっちゃあえ~え度胸だあ!
おらぁ、ここらじゃ名の知れた猟師の嫁だで!
それが獣に負けたとあっちゃ、名が廃る!
見てろ!
しっぽ、ちょんぎってくれっからなあ~!」
そう言って、
” ぶん!”
と鍬を振り回すと、霧は恐れをなしたかのように、
” サア~ッ!”
と、引いて行ったという。
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