日々の恐怖 4月17日 白狐(7)
話を聞いた次の日、姉と一緒に以前住んでいたところに行ってみることになった。
駅から歩き、変わったところや以前通りのところを見かける度にわくわくした。
以前住んでいた家も、あーちゃんの家の立派さもなにも変わっていなかった。
小学校も殆ど変化がなかった。
しかし、神田神社だけが、変わっていた。
大鳥居も御神木もそのまま。
本殿もぱっと見は以前通り。
なのに子供の頃からあんなに焦がれ、中を見たいという欲求を阻んでいた外壁が、真っ黒になっていた。
外壁の一部は焼け落ちて、あんなに見たくて仕方なかった白い世界がだだ漏れだった。
外壁は真っ黒だけれど、中は子供の頃見た時のままに真っ白で、変わらず綺麗だった。
だからこそ悲しい。
白い世界を汚す黒さが、ただただ悲しかった。
あんなに見たくて仕方なかったのに、こんな見方をしたかった訳じゃない。
崩れ落ちたところから、身を乗り出して中を覗き込むことは憚れた。
まじまじと見ることは失礼に感じたからだ。
その日は手を合わせて、帰宅した。
なんとも言えない気持ちがもやもやと広がって、なんだか毎日がうまくいかない気がした。
お客さんは相変わらずしつこかったし、街を歩けば犬に吠えられる。
猫カフェに行けば全ての猫に威嚇される。
心が折れた。
実家から通えない距離ではないし、そろそろ家も特定されそうだったので、いい機会だから実家に戻ろうかと思った。
親に話すと大喜びだったので、そこからは早かった。
そんなに好きな実家ではなかったけれど、戻ると決めたら1日でも早く帰りたくなった。
実家に戻ってからは大分気持ちも落ち着いた。
神田神社はその時点でも修復はされてなかった。
寄進が足りなくて修復出来ないままらしい。
次の節句の祭りでは寄進が集まるから、修復はその後になると教えてくれたのはあーちゃんだった。
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