日々の恐怖 3月20日 漁に出る(3)
“ とりあえず何か良くない事が起きるんだろうな・・・・。”
と思って、言われた通りに前を向いて船の揺れに落とされないように船べりにしがみ付きます。
波に当たって、木っ端舟は大きくバウンドするように上下に揺れます。
水上の速度感覚が無いもんですから良く分かりませんが、少なくとも走る船の上で受ける向かい風は時速20キロとか、そういう感じだと思います。
とにかく、何から何まで良く分からない状態で、しばらくジッとしていたら、後ろの方から男の声が聞こえます。
それも、うんと遠くから呼びかけるように、
「 おーい!おーい!」
と言う感じで。
” なんだろう・・・?”
と思って振り返ると、オヤジは手ぬぐいを使って両耳を塞いでいました。
そして、ものすごい形相で、
” 後ろを向くな!”
と言うジェスチャーをしてます。
まぁ、その時点で尋常な事態じゃないと言う事を理解しました。
船べりに捕まってジッとしていたんですが、ふと気が付けば良かったはずの天気がスーッと陰り、船の周りには霧が出始めました。
段々と視界が利かなくなり、それと同時にあの呼びかける声が段々大きくなります。
ただ、その声は呼びかけると言うより、助けを求めるようなか細い声にも聞こえます。
出来る限り無視して陸の方だけを見ていたんですが、そのうち霧が段々深くなって、陸も見えなくなりました。
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