日々の恐怖 8月25日 鈴の音(3)
「 わかんないの?」
「 はい。
一回、先輩たちと音の出所を探したんですけど、それらしいものは見つからなかったんですよね。
物置から聞こえてくるのは確かなんですけど、中に入ると音が変に反響して、細かい場所がわからないんです。」
「 ちょくちょくって、どれくらい?」
「 毎日一回か二回です。
でも時間帯はまちまちで、午前中だったり夕方だったり・・・。」
「 なんかちょっと、怖くない?」
「 もう、慣れちゃって。
先輩たちも、鳴ってても全然気にしないんですよ。
三分くらいで止まりますし。
あ、ほら・・・。」
Aさんの言葉を待つように、その音はピタリと止まった。
「 ね。」
とAさんはこちらを見て笑った。
私はなんとなく気味が悪くて、そそくさと総務課を後にした。
気味が悪かったのは、耳にこびりついたあの鈴のような音だけではなく、あの音がもはや全く気にならないという、Aさんをはじめとする事務職員もだった。
怪物の口の中にいて、そうとは気付いていないような、不気味さと危うさを感じたのだ。
つい先日、総務でまたあの音を聞いてしまった。
心なしか、前回よりも音が大きくなったようだった。
「 あの音、まだするんだね。」
Aさんにそう言うと、彼女はやはりなんでもないように、
「 そうですね。」
と頷いた。
頷いたあと、
「 でも、なんか鳴る回数が増えてきたかも・・・・?」
と、少し眉をひそめた。
それを聞いて、私の背筋にはまた悪寒が走ったのだった。
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