日々の恐怖 8月30日 小さくて白っぽい動物(1)
どこの職場でもあることなのかもしれないが、私の勤め先では新年会というものがある。
三が日も明けぬうちから全職員が集められ、理事長の訓示と新年への決意を聞くのだ。
さして広くもないホールにそれなりの人数がひしめきあい、おまけに一時間弱立ちっぱなしなので、貧血で倒れる職員が毎年一人は必ず出る。
職場側でも椅子を用意したり無理はしないよう勧告はするものの、この行事自体は無くなる気配はなかった。
その年も、朝早くから集められた大勢の職員は、葦のように並んで冗長な理事長の訓示を聞かされていた。
私は少し俯いて、自分や周りの職員の足元に視線を泳がせながら、欠伸を噛み殺していた。
急に、私の斜め前の方から小さなどよめきが起こった。
「 大丈夫?」
と気遣う声。
また今年も、誰かが倒れたようだった。
理事長はというと、チラリとどよめく辺りに目を遣っただけで、話を中断することはなかった。
” そういうところがダメなんだよ・・・。”
内心そう毒づきながら、視線を足元に戻した時だった。
小さくて白っぽい動物が、誰かが倒れたらしい方向から、職員の足の間を縫うように駆けてきた。
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