日々の恐怖 4月5日 村(7)
目を動かし様子を伺う。
暗さに目が慣れたのか、先程物音がした方を再び見ると井戸が見えた。
蓋が地面に落ちている。
そして、その井戸から、こちらを見ている女の顔が見えた。
「 うわぁっ!!」
思わず声が出た。
その瞬間、体が動くようになった。
メットをひっ掴み、全力で来た道を駆け戻る。
懐中電灯を使う事も忘れ、月の光を頼りに森を走った。
脇腹が痛くなるまで走り、あとは歩き続け朝になるのを待った。
東の空が明るくなるのと、町に辿り着くのと、ほぼ同時だった。
もう気力も無くなり、その日の始発バスに乗って帰ることにした。
バイクは地元の業者に引き上げてもらい、廃車になった。
体もあちこち打撲だらけだった。
後ほど、この廃墟を撮影した写真を確認したが、幽霊らしきものは写っていなかった。
ただ、当時気が付かなかったが、廃墟の後ろの一段高くなった場所に、苔むした墓石が何柱かフラッシュに浮かび上がっていた。
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