日々の恐怖 8月20日 鈴の音(1)
半年ほど前、職場で体験した話だ。
私は特別養護老人ホームに勤めているのだが、介護の仕事に休日は関係ない。
世間が休みの日に働くというのはなんとも切ない気分になるが、その分平日に休みがもらえるので、どっこいどっこいという感じだ。
その日も日曜日だった。
昼食後、利用者の大半が落ち着いてゆっくりと過ごす時間を見計らい、私はたまっていた事務仕事を片付けることにした。
利用者の家族へ送付する行事案内の書類が、中身はできていたものの印刷がまだだったのだ。
現場には、パソコンはあるがそれをプリントアウトするものがなく、もう一人の職員に断りを入れて、私はコピー機のある総務課へと向かった。
総務課ではいつも数名の事務員が賑やかに作業しているのだが、休日は電話番として一人しか出勤しない。
その日の出勤は、その年入社したばかりのAさんだった。
「 休みの日は、一人だから寂しくない?」
「 そうなんです。
でも、たまった仕事ははかどるかな。」
「 どこも大変よねぇ。」
そんな軽口を叩きながらコピー機を操作する。
枚数を設定すると、やがて規則正しい音をたて始めた。
ぼんやりとその音に耳を傾けていると、ふと、何か違う音がしているのに気がついた。
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